「いいね」より、仲良しの数人|韓国発SNS「セットログ」、日本がダウンロード数で世界1位の理由

夕暮れの川沿いの階段に並んで座る4人の友だちの後ろ姿。1人がスマホで仲間の笑う瞬間を短く撮り、ほかの3人は小さな動画が並ぶ画面をのぞき込む。仲良しだけで日常を分け合う場面を、チャコールとマスタードで描いた絵画調イラスト テック

中学生のころの交換日記を覚えているかしら。

かわいいノートを一冊買って、仲のいい数人で回す。書くのは、今日あったことと、どうでもいいこと。先生の口ぐせとか、帰り道に見た猫とか。

誰も「いいね」は押さない。フォロワーも増えない。でも、次に自分の番が回ってくるのが、なんだか楽しみだった。

その交換日記が、スマホの中に帰ってきたのかもしれない。

韓国発の新しいSNS「セットログ」が、アジアの若い世代に広がっている。加工なし、見せる相手は仲良しだけ。しかも、世界でいちばんダウンロードしているのは、日本の人たちなの。

今日は、「長くいさせないSNS」の話しをするわね。

セットログって、どんなアプリ?

仕組みは、驚くほどシンプル。

仲のいい友だち同士でグループを作り、日常の短い動画を共有する。もともとは最大12人、1時間ごとに約2秒を撮影する仕組みだった。夜になると、アプリがその日の動画を自動でつなげて、1本の動画日記にしてくれる。2026年7月には、グループの上限を20人に広げるなど、仕様も変わり始めているわ。

それでも、基本の発想は変わらない。特別な日ではなく、なんでもない一日を記録すること。

インスタなら、写真を10枚撮って、いちばんマシな1枚を選んで、肌を磨いて、背景の洗濯物を消して、最後に「自然体の私」と投稿するでしょう。

自然体を作るために、どれだけ不自然な努力をしているのよ。

セットログでは、そんな編集作業をする必要がない。撮ったその場の映像を、加工せずにそのまま共有する。撮らなかった時間は、空白のまま残しておけばいい。

コンビニ帰りでも、寝ぐせの朝でも、会社の蛍光灯の下でも。

人生の大半は、映えない時間でできている。むしろ、毎日キラキラしている人のほうが心配よ。電気代、大丈夫?

セットログは、その映えない時間のほうを主役にしたSNSなの。

火をつけたのは、K-POPの世界

広がるきっかけを作ったのは、K-POPのアイドルたちだった。

Business Insider Japanによると、SEVENTEENの活動中のメンバー9人全員が、セットログで作った動画日記を投稿した。aespaのカリナも使っていたそう。

普段は照明も衣装もメイクも完璧。髪の毛一本にまでプロの仕事が入っているような世界よ。そんなスターが、なんでもない日常を数秒だけ見せてくれる。

そりゃファンは喜ぶわよね。ステージでは数万人に向けて歌っている人が、スマホの中では友だちみたいに見えるんだもの。

ただし、そこには小さな皮肉もある。「加工なしの日常」さえ、人気アイドルが見せれば立派な宣伝になる。

一般人の寝ぐせは生活感。アイドルの寝ぐせは限定コンテンツ。資本主義って、毛先にまで格差をつけるのね。

さらに韓国では、初対面の男女がグループを作り、数日間だけ短い日常動画を共有する出会いの企画まで登場していると報じられている。

昔は合コンで年収や趣味を聞いたものだけど、今は朝の寝ぐせと冷蔵庫の中身から相性を探る時代。プロフィールには「休日はカフェ巡り」と書いてあっても、実際には三日連続でコンビニ弁当。

いいじゃない。むしろ信用できるわ。

最大市場は、日本

ここからが、日本に住むあたしたちにとって面白いところ。

アプリ市場の調査会社Sensor Towerによると、セットログの世界の累計ダウンロード数は約150万件。そのうち日本が40.6%を占め、世界最大の市場になっている。

韓国は23.5%。生まれ故郷より、日本のほうがダウンロード数が多いのよ。

韓国発のアプリが日本でヒットすること自体は、もう珍しくない。でも今回の主役は、動画配信でもショッピングでもない。友だちの日常を数秒ずつ眺めるアプリ。

日本人、そんなに他人の火曜日が気になっていたのね。

しかも、2026年7月中旬には日本が韓国を逆転した。日本と韓国の両方で、今年のSNSアプリのダウンロード数は2位、増加数では1位に入っている。

ちなみに、「若者のSNS」と言われがちだけど、利用者の平均年齢は約30歳。インスタやX、TikTokの34〜36歳より若いものの、10代だけのアプリというわけでもないの。

ただ、ここで大事なのは、これはあくまでダウンロード数の話しだということ。「日本人が世界でいちばん長く使っている」という意味ではない。

アプリを入れることと、使い続けることは別。

ジムの会員証を持っている人が、全員腹筋バキバキだったら、世の中もっと平和でしょうね。

1日9分という強みと、落とし穴

あたしがいちばん驚いたのは、この数字。

日本でのセットログの1日の平均利用時間は、約9分。TikTokは53分、Xは47分、インスタは33分。

TikTokを開いて、気づいたら夕飯の時間になっていた。そんな経験がある人には、9分なんて誤差みたいなものでしょう。

ところが、セットログは1日に平均15回も開かれている。単純に割ると、1回あたり30秒ちょっと。

つまり、何度も来る。でも長居はしない。

まるで、近所のおばちゃんが「ちょっと顔を見に来ただけ」と言って、本当に30秒で帰ってくれるようなもの。そんな人、実在するのかしら。

ここ数日、AIチャットが「もう少し話そう」と引き留める話しや、SNSが子どもの利用時間をめぐって巨額の和解に至った話しを書いてきたわね。その流れで見ると、セットログはずいぶん控えめに見える。

ただし、ここで一つツッコミたい。

1日9分しか使わないからといって、必ずしも「時間を奪わない優しいアプリ」とは限らない。15回も開くということは、15回も日常から注意をそらしている可能性があるから。

1時間ごとの合図は、無限スクロールとは違う。でも、スマホを何度も確認する習慣を作る仕組みでもある。

滞在時間は短い。でも、頭の片隅にはずっといる。恋愛だったら、ちょっと面倒なタイプよね。

だから本当に問うべきなのは、何分使ったかだけじゃない。その9分が、あたしたちの生活を豊かにしたのか。それとも、9分を15回に細切れにしただけなのか。

「長くいさせないSNS」は、商売になるのか

さて、ここからがお金の話し。

あたし、こういう優しいサービスを見ると、つい聞きたくなることがあるの。

「で、誰が家賃払ってるの?」

ブルームバーグは、セットログが広告なしで、友だち限定の共有で支持を得ていると伝えている。でも、アプリを動かすにはお金がかかる。

動画を保存するサーバーも、開発者のお給料も、セキュリティ対策も、愛と友情では支払えない。クラウドの請求書に「今月もみんな仲良しでした♡」と書いて送っても、たぶん電気は止まるわ。

これまでのSNSには、わかりやすい商売の仕組みがあった。人を集める。長く滞在してもらう。広告を見せる。お金を稼ぐ。つまり、ユーザーの時間を広告主に売っているわけ。

ところがセットログは、少人数で、短時間で、しかもプライベートな交流が売り。

広告を大量に差し込めば、せっかくの居心地が悪くなる。投稿そのものは仲間内だけのまま広告を表示することは技術的にはできても、静かな交換日記の真ん中に宣伝が割り込んできたら、やっぱり興ざめよね。

かといって、有料にすれば、友だち全員が使い続けてくれるとは限らない。

無料のときは仲良しが集まったのに、月額料金を提示した途端、既読すらつかなくなる。友情はプライスレス。でも、サブスクにはめっぽう弱い。

もちろん、収益化の道がないわけではない。動画日記の保存機能を有料にする。追加機能を販売する。企業やアーティストとの提携を進める。報道では、韓国のアイドルグループとの提携の可能性や、アメリカ市場への挑戦も次の一手として語られているわ。

ただし、どの方法にも難しさがある。便利な機能を増やしすぎれば、シンプルさが失われる。広告を増やせば、静かな空間が騒がしくなる。

今のところ、セットログが持続的に稼げる仕組みを作れているかどうかは、公開情報からはわからない。結局、セットログが向き合っているのは、SNS業界が長年避けてきた質問なのよ。

人の時間をできるだけ奪わずに、その人からお金をいただく方法はあるのか。

無料で優しいのは素敵。でも、優しさを維持するために誰かがずっと赤字をかぶるなら、それはビジネスじゃなくて慈善事業。投資家だって、いつまでもサンタクロースではいられないのよ。

先輩BeRealの、意外な続き

似た前例もある。

フランス生まれのSNS、BeReal。加工なしの写真を投稿する仕組みで世界的に流行したけれど、成長は鈍化。2024年にはフランスのアプリ企業Voodooに5億ユーロで買収された。

ここまでは、よくある「流行はいつか終わる」という話し。でも、続きがあるの。

買収したVoodooによると、BeRealは2025年に3,000万ユーロの売上を生み出した。買収時には売上ゼロだったというから、商売の仕組みを作り始めたわけね。ただし、黒字化はまだ先。会社が目指しているのは2027年よ。

つまり、優しいSNSが儲からないと決まったわけではない。ただ、優しいままで儲けるのは、思った以上に難しい。

「ありのままの自分でいい」と言いながら、裏では売上目標を追いかける。自己肯定感と四半期決算の板挟み。SNS企業の経営者って、なかなか忙しい生き物ね。

日本のあたしたちへ

日本人は、SNSに疲れているのか

なぜセットログは、日本でここまで広がったのか。はっきりした理由は、まだわからない。

でも、あたしには一つ気になることがある。日本のSNSって、なんだか人間関係の管理業務になっていないかしら。

誰をフォローするか。誰にいいねを返すか。ストーリーを見たのに返信しなかったら失礼か。フォロワーが減ったのは、何か悪いことを言ったからか。

SNSを開いただけなのに、なぜか人事部と広報部を兼任している気分。しかも無給。

セットログは、そんな不特定多数に向けた自己演出から少し離れて、知っている人たちと日常を共有する場所を用意している。

ただし、仲良しだけの空間だからといって、気疲れがゼロになるわけではない。友だちの投稿を見たら、自分も撮らなきゃと思うかもしれない。自分だけ何もしていない日に、みんなが楽しそうだったら、ちょっと寂しくなるかもしれない。

公開SNSでは知らない人と比べ、非公開SNSでは友だちと比べる。人間って、比較対象を変えてまで自分を疲れさせるのが得意なのね。

だからこそ、セットログが本当に成功したかどうかは、ダウンロード数だけでは測れない。半年後も、1年後も、無理なく使っている人がどれだけいるか。そして、アプリを閉じたあとに、少し幸せな気分になれるか。そこが大事なんだと思うの。

見られない自由は、大人にも効く

利用者の平均年齢が30歳前後というのは、意外と大事なポイントだと思うの。

仕事用の顔、SNS用の顔、家族用の顔。大人になるほど、見せる顔が増えていく。そのどれでもない、仲のいい数人にだけ見せる「ただの火曜日」の顔。それを置いておける場所は、案外少ない。

知らない誰かの評価を気にせずに、寝ぐせのままの朝を見せられる相手がいる。それだけで、ちょっと救われる日もあるわよね。

お金の目で見ると:「時間を奪わない」は、次の価値になるか

これまでSNS企業が競ってきたのは、どれだけ多くの人を集め、どれだけ長く画面に釘づけにするかだった。

でも、セットログは違う可能性を見せている。短く、頻繁に、親しい人だけとつながる。もちろん、それが本当に人の時間を守る仕組みなのかは、まだわからない。そして、たとえ利用者にとって居心地がよくても、それだけで会社が儲かるとは限らない。

ここが、あたしには面白いのよ。

ユーザーにとって最高のSNSと、株主にとって最高のSNSは、必ずしも同じではない。ユーザーは「もう十分楽しんだから閉じよう」と思う。会社は「もう少しだけ見ていって」と言いたくなる。

その綱引きに、セットログはどんな答えを出すのか。

あたしたちの時間を大切にするサービスが、その時間を奪わずに稼げるなら、SNS業界にとっては大きな変化になる。逆に、結局は広告と滞在時間に頼るようになるなら、また同じ歴史の繰り返し。

「ありのままのあなたが好き」と言って近づいてきた相手が、半年後にはクレジットカードの番号を聞いてくる。ロマンスがサブスクに変わる瞬間ね。

今日のまとめ

  • セットログは、加工なしの短い動画を仲良しの小さなグループで共有する、動画日記のSNS。映えない日常のほうを主役にした
  • 世界約150万ダウンロードのうち、日本が4割で最大市場。ただし、これはダウンロード数の話しで、利用者数や利用時間の世界1位ではない
  • 日本での1日の利用時間は約9分。でも1日15回開かれている。滞在は短くても、頭の片隅にはずっといる
  • 広告なしの優しさが、持続的な商売になるかはまだ不透明。先輩のBeRealは売上を作り始めたが、黒字化はまだ先
  • ユーザーにとって最高のSNSと、株主にとって最高のSNSは、必ずしも同じではない

でも、忘れたくないことがある。企業にとっての成功は、売上や利益で測られる。あたしたちにとっての成功は、必ずしもそうじゃない。

何千人からいいねをもらうより、何も飾らない自分を見せられる友だちが数人いる。それだけで十分な日もある。その価値まで、広告の単価で測られたくはないわよね。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

Fewer likes. More real friends. And please, don’t monetize my Tuesday.

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※本記事はBloomberg、Sensor Tower、Business Insider Japan、Real Sound、Voodoo等の公開情報をもとに構成しています。数値は報道・発表時点のものです。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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