ウォール街が眠るのをやめた|23時間取引で増える「自由」と個人投資家の罠

深夜、薄暗い取引所でスマホを持つ個人投資家の背後に、サーバーとアルゴリズムを操るプロの影が迫る構図。眠らない夜間市場に潜む個人投資家の不利を象徴するシネマティックな絵画調イラスト 市場

「いつでも、好きなときに買える」——それって、いいことに聞こえるでしょう。

コンビニも、ネット通販も、動画も、ぜんぶ24時間。欲しいときに、欲しいものが手に入る。その便利さに、あたしたちはすっかり慣れた。だから、株も同じように「いつでも買える」ようになると聞くと、つい「あら、便利」と思う。

でもね。今日は、その「いつでも買える自由」に、実はちょっと高い値札がついてる、という話しなの。アメリカの株式市場が、ついに夜も眠らなくなるの。しかもその理由と、その裏に隠れた”個人投資家への罠”が、なかなか考えさせられるのよ。

まず、何が起きるのか

アメリカのナスダックが、2026年12月6日から、ほぼ23時間の取引を始める予定なの。今ある取引時間(開場前4:00〜9:30、通常9:30〜16:00、時間外16:00〜20:00/米東部時間)に、夜の21:00〜翌朝4:00という新しい”夜間セッション”を足す。これで平日はほぼ一日中、株が売り買いできるようになる。「23/5」——週5日、ほぼ23時間、って呼ばれてる。

「24時間じゃないの?」って思うでしょう。20:00〜21:00の1時間は、システムの処理や取引日の切り替えのための”お掃除タイム”。市場にも、ちょっとだけ休憩がいるの。ちなみにこのルール変更、米証券取引委員会(SEC)の承認は、もう取れてる。

そして、ナスダックだけじゃないの。NYSE Arca(ニューヨーク証券取引所系)も23時間取引へ準備してるし、Cboeという取引所も、12月からほぼ24時間(near-24×5)を計画中(こちらは規制承認などが条件)。ウォール街がそろって、「睡眠? それ、収益になります?」と言い始めたの。

なぜ、急に眠らなくなったの?

理由は、大きく2つあるの。

ひとつめは、ライバルの存在。暗号資産って、土日も夜中も、24時間ずっと動いてるでしょう。最近はそれに加えて、株などを「トークン化」して24時間取引する市場も出てきた。株式市場だけが「平日の昼間しか開いてません」だと、お客さん(とくに若い世代やデジタル好き)が、眠らないクリプト市場に流れちゃう。だから株も、クリプトのやり方に寄せてきたの。……つまりこれ、優等生だった株式市場が、「あの子(クリプト)がやってるなら、うちも」って夜ふかしを始めた、みたいな話しなの。

ふたつめは、海外投資家。アメリカの株を持ってる外国人は、2024年半ばで、約17兆ドル——2019年からほぼ倍(+97%)に増えてる。そりゃ取引所も思うわよ。「その17兆ドル、アメリカが寝てる数時間だけ放置する必要ある?」。資本主義、睡眠より売買手数料なの。で、その海外勢の多くは、アメリカが寝てる時間が「昼間」。とくにアジア。ナスダックの夜間セッション(米東部21:00〜翌4:00)は、日本時間だと、だいたいお昼の11時〜夕方18時ごろ。つまり——ニューヨークの夜勤が、東京のランチタイムになるの。日本やアジアの投資家が、自分の日中にリアルタイムで米株を触れるようにしたい、というわけ。

で、ここからが”ちょっと高い値札”の話し

便利そうでしょう。でもね、夜の市場には、昼の市場にはない落とし穴があるの。いちばん大事なのが、「薄さ」なの。

昼間の取引時間は、世界中のプロも個人も、どっと参加してる。人が多いから、買いたい人と売りたい人がすぐ見つかって、値段も安定しやすい。これを「市場が厚い」って言うの。ところが夜中は、参加者がぐっと減る。人が少ない=「市場が薄い」。薄いと、何が起きるか。

ひとつ、買値と売値の差(スプレッド)が広がる。極端な例でいうと——昼なら「100円で買える・99円で売れる」だったのが、夜は「102円出さないと買えない・97円でしか売れない」みたいになる。この差は、まるまるあなたのコスト。同じ株を、夜に買うだけで、ちょっと割高に掴まされることがあるの。

ふたつ、夜についた値段は、価格発見(ちゃんとした値決め)が弱くて、昼の厚い市場の値段と大きくズレる可能性がある。参加者が少ないから、ちょっとした注文で値段がぴょんと動く。朝、厚い市場が開いたら、その夜の値段は「あれ、幻だった?」ってことも。

みっつ、プロとの装備差。デューク大学の証券法の専門家、ジェームズ・コックス教授の言い方は、もっと容赦ないの。個人投資家を、ざっくり言えば——「羽をむしられるのを待っているガチョウ」と表現してる。ちょっと先生、朝から比喩が食肉加工場なのよ。でも言いたいことはわかる。薄い市場に価格のズレができれば、高度なシステムを持つ投資銀行やヘッジファンドが、裁定取引でそのズレを取りにくる。こっちは布団の中でiPhone。向こうはサーバーラックとアルゴリズム。こっちが電卓なら、向こうはスーパーコンピューターなのよ。勝負の前から、だいぶ話しが違う。

よっつ、これが地味に効くんだけど——ヘッジ手段が、ぜんぶ同じ時間だけ開いてるとは限らないの。ナスダックの株式オプション(保険みたいな取引)は、今回の23時間化には含まれない。一方で、Cboeの一部の指数オプションなどは、すでに長い時間取引されてる。つまり、現物のドアは開いてるのに、保険売り場は商品によって営業時間が違う。24時間の病院になったのに、薬局だけ「本日の営業は終了しました」みたいな話しなの。

「眠らない自由」は、「眠るな」と言われてるのと同じ

ここが、今日いちばん持って帰ってほしいところなの。

「24時間いつでも買える」は、たしかに自由。でも、裏を返すと——「24時間いつでも、動揺して売買できてしまう」ってことでもあるの。

想像してみて。深夜2時、眠れなくて、なんとなくスマホを開く。そこに、持ってる株の悪いニュースが流れてくる。これまでなら、市場は閉まってるから、何もできない。朝まで待つしかない。そして朝になると、たいてい「ゆうべは慌てすぎたな」って冷静になってる。市場が閉まってる時間って、実は不便なんじゃなくて、人間のバカを止めるサーキットブレーカーだったのかもしれない。

でも、眠らない市場では、その深夜2時に、薄い市場で、動揺したまま、売れてしまう。いちばん冷静じゃない時間に、いちばん不利な市場で、いちばん後悔する取引ができる自由。……それ、本当に自由かしら。

人類って、不思議なのよ。「いつでも取引できます」と言われると、「いつでも取引しなきゃ」と思い始める。でも、コンビニが24時間開いてるからって、午前3時に唐揚げ弁当を買う義務はないの。株も同じ。開いてる市場に、全部参加しなくていい。

日本のあたしたちへ

「アメリカの取引所の話しでしょ」って、思うでしょう。でもこれ、実はかなり”あなた向け”の制度なの。3つ持って帰ってね。

① これ、半分は「アジアの投資家」狙い——でも、人による

さっきの海外勢17兆ドルの話し。その大きな狙いのひとつが、アジアの個人投資家なの。日本時間の昼間に、リアルタイムで米株を売り買いできる。ただし、ここ大事。これが直接ひびくのは、米国の個別株や米国ETFを”自分で直接”売買する人。新NISAでS&P500やオルカン(オール・カントリー)の投資信託を積み立ててる人が、突然お昼休みにナスダックへ注文できるようになる、って話しじゃないの。投資信託は、その仕組みが別だから。オルカン民まで、昼休みにデイトレを始めなくて大丈夫。あなたはそのまま、お弁当を食べてなさい。

② 「いつでも触れる」は、「いつでも動揺できる」

長く積み立てる投資は、本来そんなに頻繁に触るものじゃないの。コツコツ積んで、置いておくのが王道。なのに「いつでも売買できる」と、つい触りたくなる。昼休みに評価額を見て一喜一憂、深夜に悪材料を見て不安、は、長期投資のいちばんの敵。便利な道具ほど、「使わない勇気」が要るの。開いてるからって、入らなくていい店もある。

③ 「安い!」の前に、スプレッドを見なさい

もし将来、日本の証券会社でも米株の夜間取引ができるようになったら——覚えておいて。夜間の薄い市場では、「株価が安い」ことと、「安く買える」ことは、同じじゃないの。画面に100ドルと出ていても、売ってくれる人が103ドルにしかいなければ、あなたが払うのは103ドル。値札だけ見てレジに行ったら、会計で値段が違う。スーパーなら店長を呼べるけど、ナスダックに店長はいないの。だから夜間ほど、成行で飛びつかず、スプレッドや指値を意識する。「安い!」より先に、「誰が、その値段で売ってくれるの?」よ。

今日のまとめ

  • ナスダックは2026年12月6日から、米東部時間21:00〜翌4:00の夜間セッションを加え、ほぼ23時間×週5日の「23/5」へ移行予定。20:00〜21:00は処理・切り替えの休止。SECのルール変更承認はすでに取得済み
  • ナスダックだけでなく、NYSE Arcaも23時間化を準備中。Cboeも12月からほぼ24時間(near-24×5)を計画(規制承認などが条件)
  • 外国投資家の米国株保有は2024年半ばで約17兆ドル(2019年比+97%)。海外、とくにアジアの投資家が自国の日中に米株へアクセスできることが大きな狙い。夜間セッションは日本時間だと昼〜夕方にあたる
  • 夜間は参加者が減り「市場が薄く」なりやすい。スプレッド(買値と売値の差)が広がり、ついた値段が日中の厚い市場とズレることも。コックス教授(デューク大)は、投資銀行が薄い市場の価格差を裁定取引に利用する可能性を指摘
  • 現物株とデリバティブで取引時間が完全には揃わない。ナスダックの株式オプションは今回の23時間化の対象外。一方でCboeの一部指数オプションなどはすでに長時間取引されている
  • そして最大のリスクは、市場ではなく人間の指かもしれない。「いつでも取引できる」は、「いちばん動揺している瞬間にも取引できる」ということ。市場が閉じている時間の”強制冷却”が、実は投資家を守っていた面もある

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

Wall Street can stay up all night. Your portfolio doesn’t need a bedtime problem.


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※本記事はNasdaq、NYSE、Cboe、U.S. Department of the Treasury、Yahoo Finance、Tiger Brokers等の公開情報をもとに構成しています。開始時期・取引時間は変更の可能性があります。数値は報道・公表時点のものです。投資判断はご自身の責任で。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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