アメリカが弱って、円が少し助かった|でもそれ、円が強いわけじゃないの

大きなドルの人物がよろけた拍子に、隣の小さな円が一瞬前に出るが、すぐ元の位置へ戻る構図。弱い米雇用統計で起きた「円が強いわけではない円高」を象徴するシネマティックな絵画調イラスト 市場

昨日の、ちょうど裏返しが起きたの。

昨日あたしたちは、「米金利が下がったのに、円は安くなった」という、教科書どおりに動かない一日を見たでしょう。理由は、フランス不安でユーロが売られて、消去法でドルが全面高になったから。円は、何もしてないのに、ドルの都合で安くなった。「飲み会に出てないのに割り勘だけ請求された」みたいな一日、って書いたわね。

で、昨日の夜。今度は、逆のことが起きたの。アメリカの雇用統計が、びっくりするほど弱かった。そしたら、ドルが売られて——円は、瞬間的に156円台まで買われた(円高方向)。

一見、「よかった、円が助かった」でしょう。でも、ここが大事なの。円が強くなったんじゃないの。アメリカが弱ったから、ついでに円が少しマシに見えただけ。今日は、この”円が主役じゃない円高”の話しで、今週をしめくくるわね。

まず、雇用統計が、どれくらい弱かったか

昨日出たのは、アメリカの9月の雇用統計。景気の体温計のなかでも、いちばん大事なやつ。

中身がね、かなり弱かったの。

  • 非農業部門の雇用者数:+2.9万人(市場予想は+9万人前後。しかもエコノミスト予想レンジの下限、+3.5万人すら下回った)
  • 失業率:4.2%(予想4.1%を上回る、前月から上昇)
  • 平均時給:前月比+0.1%、前年比+3.0%(前年比の伸びは、2021年5月以来の低さ)

雇用が「増えた」とはいえ、たったの2.9万人。市場「まあ9万人くらいでしょう」→現実「2.9万人です」→市場「……桁、置いてきた?」。しかも、雇用は増えない、給料の伸びも鈍い、でも物価は高い。アメリカ経済、庶民にだけハードモードを配布してるのよね。

そして、ここからが地味に怖いの。過去2カ月分も、あとから下方修正されたの。合わせて6万人分、下へ。特に7月は、「+2.1万人」だと思ってたのが、「-1万人」に——プラスがマイナスにひっくり返った。家計簿なら、「今月2万円黒字♡」と思ってたら、翌月カード明細が来て「すみません、実は3万円赤字でした」みたいな話し。その訂正、翌月にするな。見えてた数字が、あとで書き換わる。これ、覚えておいて。あとでまた出てくるから。

で、市場は手のひらを返した——ただし、犯人は雇用統計だけじゃない

ここが、今週いちばんの”おかしみ”なの。

思い出して。この一週間、あたしたちはずっと「金利が高いまま下がらない」「国債が売られ続ける」って騒いでたでしょう。30年債が2002年以来とか、買い手がいないとか。週の初めには、10月の利上げ確率は7割近くあったの。

ところが——その7割は、実は雇用統計が出る”前”から、もう3割前後まで落ちてたの。弱めのインフレ指標と、FRB高官の「急がなくていい」という慎重発言で、先に下がってた。そこへ、昨日のこの弱い雇用統計。発表直後には一時13%程度まで落ちて、その後も2割強。つまり市場は、一週間で「10月も利上げするでしょう」から「いや、たぶん休むでしょう」へ、ほぼ別人になったの。

月曜の市場「利上げ!利上げ!」→金曜の市場「え、誰が利上げするって言ったの?」。……お前だよ。あんなに金利を怖がってたのに、一週間でこの変わり身。市場って、こういうところ、お天気お姉さんより気分屋なの。だから「雇用統計1枚で全部ひっくり返った」んじゃなくて、「もう傾いてたところに、雇用統計が最後の一押しをした」が正確。有名な投資家のエラリアンも、この統計が「10月のFRBを確実に据え置きにする」とコメントしてた。FRB高官の慎重姿勢+雇用統計、の合わせ技なの。

そして、面白いのが株。雇用が弱い=景気が悪い=ふつうは株にマイナス、のはず。なのに株は上がったの(S&P500 +0.73%、ダウ +0.49%、ナスダック +1.19%で終了)。「雇用が弱い」→普通の人「大丈夫?」→株式市場「利上げしないの!? やったーーー!!」。人間社会の不幸を金利に翻訳すると、たまに祝賀会になるのよ。今週ずっと出てきた「悪いニュースなのに株は喜ぶ」の、総仕上げみたいな一日だったの。

で、円は——助かった。でも、すぐ戻った

利上げ観測が後退して、ドルが売られた。昨日はフランス不安でドルが”全面高”だったのに、今日は雇用の弱さでドルが”ほぼ全面安”。まるっと逆。そのドル安で、ドル円は雇用統計前の157円台後半から、一時156.95円まで下落。円は瞬間的に、1ドル=156円台まで買われたの。

……ただし。その後は、157円台へ戻ったの。

ここが、今日の主役なのよ。もし円そのものが強いなら、ドルが弱った瞬間だけ上がって、すぐ戻る必要はないでしょう。でも実際は、ドルがコケた瞬間だけ「今よ!」と円が前に出て、ドルが立ち上がったら、円もそそくさと元の位置へ。円ちゃん、主役というより、エキストラなの。

昨日とつなげて見てほしいの。

  • 昨日:フランスが怖がられる → ドル全面高 → 円は安くなった
  • 今日:アメリカが弱かった → ドル全面安 → 円は一瞬買われて、すぐ戻った

この2日間に限って見れば、円そのものの材料より、ドル側の事情に振り回された色が、かなり強いの。昨日は「何もしてないのに割り勘」で損した円ちゃんが、今日は「何もしてないのに、ドルが勝手にコケてくれて」得をした。本人の実力じゃなくて、相手のコケ方で勝ち負けが決まる。為替って、けっこうこういう、理不尽なゲームなの。

それと、もうひとつ。今日は「雇用が弱い→米金利が下がる」と単純にはいかなかったの。雇用統計の直後、米10年債利回りはいったん5.15%台まで低下したんだけど、その後また債券売りが再燃して、金利は再び上がったの。つまり、雇用統計さえあれば全部説明できるほど、市場は単純じゃない。今週のテーマ、そのまんまね。

日本のあたしたちへ

今週の金利シリーズ、これでひと区切り。3つ、持って帰ってね。

① 「円高になった」の中身を、いつも見る

円高・円安は、ニュースの見出しだと「円高」の二文字で終わる。でも大事なのは、その理由。「日本が強いから円高」なのか、「アメリカが弱いから円高」なのか。今回は後者。しかも一瞬で戻った。見出しの二文字じゃなくて、”なぜ”を一拍考える癖が、いちばんの防具になるの。

② 「悪い経済ニュースで株高」は、もう驚かない

今週、何度も出てきたでしょう。インフレが軽い、雇用が弱い——ふつうなら”悪いニュース”が、「じゃあ利上げしない」で株高につながる。この一見ちぐはぐな動きは、金利が主役の相場では、しょっちゅう起きるの。来週以降もこの手の「あれ、逆じゃない?」に出くわしたら、「ああ、利上げ観測が動いたのね」と、落ち着いて見ていられる。

③ 「今見えてる数字は、あとで書き換わる」

7月の雇用が、プラスからマイナスに下方修正された話し。これ、すごく大事な教訓なの。経済の数字って、速報値はあくまで”下書き”で、あとから何度も修正される。だから、1回の数字に一喜一憂しすぎない。「今月はよかった/悪かった」より、「3カ月くらいならして、どっち向きか」で見るほうが、ずっと現実に近いの。ついでに言えば、あなたの新NISAに米国株が入ってるなら、円高は円換算の評価額には逆風。でも「円高だからアメリカが弱い」とも、「アメリカが弱いから必ず株が下がる」とも限らない(現にこの日は、雇用が弱くても米株は上がった)。為替・景気・株価を、全部ひと鍋で煮込まないこと。経済ニュース、だいたい具材は同じだけど、鍋が違うのよ。

今日のまとめ

  • 米9月雇用統計は非農業部門が+2.9万人。市場予想の+9万人前後を大きく下回り、予想レンジの下限+3.5万人すら下回った。失業率は4.2%へ上昇(予想4.1%)、平均時給は前年比+3.0%と2021年5月以来の低い伸び。労働市場の減速が見えた
  • 7・8月分も合わせて6万人下方修正。特に7月は+2.1万人から-1万人へプラス→マイナス転落。「増えてました」が翌月「減ってました」になるのが経済統計。速報値は、まあまあ下書き
  • 10月利上げ確率は週初の約7割から、弱めのインフレ指標やFRB高官の慎重発言で、雇用統計の前にすでに3割前後へ低下。そこへ弱い雇用統計が加わり、発表直後は一時13%程度、その後も2割強。雇用統計は「最後の一押し」
  • 米株はむしろ上昇(S&P500 +0.73%、ダウ+0.49%、ナスダック+1.19%)。「雇用弱い→利上げ遠のく→株に追い風」という、今週続いた”悪いニュースで株高”の構図
  • ドル円は雇用統計前の157円台後半から一時156.95円まで下落、その後157円台へ戻った。円そのものが強くなったのではなく、弱い米雇用でドルが売られた影響が大きい。昨日(ドル高→円安)とちょうど裏返しで、この2日間は円がドルの機嫌に付き合わされた色が濃い
  • 雇用統計直後、米10年債利回りはいったん5.15%台へ低下したが、その後は債券売りが再燃し再び上昇。「雇用統計さえあれば全部説明できる」ほど市場は単純ではない
  • フランスの財政・政治不安も継続。仏10年債利回りは2002年以来の高水準に達し、2027年の大統領選を控えた政治的不透明感も市場材料。欧州という別の火元も、まだ消えていない

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

The yen didn’t win. The dollar lost. There’s a difference.


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※本記事はBloomberg、Reuters、Morningstar、Investor’s Business Daily、トレーダーズウェブFX、U.S. BLS、CME FedWatch等の公開情報をもとに構成しています。雇用者数・失業率・利回り・為替・株価の数値は報道時点のものであり、時間帯により変動します。雇用統計は改定される場合があります。利上げ確率は市場が織り込む見通しであって確定ではありません。投資判断はご自身の責任で。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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