片付けた部屋は、なぜ元に戻るのか|円159円台、介入で稼いだ9円の半分が消えた

日米協調介入のあと円が再び下落した局面を象徴するイメージ画像。一度きれいに片付けられたあと再び散らかり始めた部屋と、右肩下がりの円相場チャートを重ねて配置し、原因を変えないかぎり元の状態に戻るという記事の主題を表現している一枚。 市場

大掃除をした部屋が、1週間後に元に戻っているのを見たときの、あの気持ち。あるでしょう。

あたしなんて掃除直後は「人って、変われるのね」くらい思うのよ。そして7日後。変わってなかった。人も。収納も。床も。

片付けた瞬間はたしかに綺麗だった。写真も撮った。達成感もあった。でも、散らかる原因のほう、何ひとつ変えてなかったのよね。

今週の円相場で起きたのが、まさにそれなの。

何が起きたのか、まず数字だけ

10日のニューヨーク市場で、円が一時1ドル159円台まで下がったわ。

ここまでの流れを整理するとこうなるの。

7月30日、円は1ドル164円に迫っていた。約40年ぶりの安値よ。そこで日本政府が円を買い、7月31日には日本とアメリカが一緒に円を買う「協調介入」に踏み切ったの。円は一時155円前後まで戻したわ。164円から155円だから、9円ぶんの円高ね。

そして今週。159円台。155円から4円ぶん、また戻されたことになるの。

つまり、苦労して取り戻した9円のうち、約半分がもう消えたのよ。

9円取り戻した。4円返した。何このキャッシュバック。

しかも159円台をつけたのは、協調介入のあと初めて。市場から「はい、お掃除お疲れさまでした。では散らかしますね」と言われている状態よ。

そもそも「為替介入」って、何をしてるの?

ここ、ちゃんと説明しておくわね。

為替介入というのは、国が自分でお金を出して、自国の通貨を買うことなの。今回で言えば、政府が持っているドルを売って、その代わりに円を買う。

なぜそんなことをするかというと、市場では「円を売ってドルを買いたい人」のほうが多いから。売りたい人ばかりだと値段は下がり続けるでしょう。だから国が「じゃあ、うちが円を買います」と手を挙げて、下がるのを止めようとするのよ。

バーゲンセールの逆ね。「うちの商品、安く売られすぎているので、自分で買い戻します」という行動なの。ブランド側が自分の商品をメルカリで買い戻してると思えばいいわ。そこまで値崩れしたんかい、という話しよ。

しかも今回は、日本だけじゃなかったの。アメリカまで隣に立って、「その円、私も買います」と手を挙げた。1998年以来の異例の展開よ。

一人でクレームを入れていたら、突然アメリカ人の友達が後ろから出てきた感じね。急に店長が出てくるやつ。

だから8月頭の時点では、みんな「これは効くかもしれない」と思ったの。

なのに、なぜ元に戻ったのか

理由は大きく3つよ。どれも難しくないから、ひとつずつ見ていくわね。

理由① 部屋が散らかる原因は、片付けてない

円安を支えている大きな理由のひとつが、日本とアメリカの金利差なの。

いまアメリカの政策金利は3.50〜3.75%、日本は1%。ざっくり言えば、円で運用するよりドルで運用したほうが、高い金利を受け取りやすい環境ということね。

だったら投資家は、より高い金利が期待できるドル資産を持ちたくなるでしょう。円を売って、ドルを買う。この金利差が、円安を支える大きな理由のひとつなのよ。

円「1%です」。ドル「3%台です」。円「でも、おもてなしがあります」。……金融市場、おもてなしでは動かないのよね。

もちろん為替は金利差だけで決まるわけじゃないわ。でも、床が散らかる「かなり大きな原因」がまだ残っていることは確かなの。今回の介入は、この金利差を1ミリも縮めていないもの。

ゴールドマン・サックスのストラテジストも、介入に対する市場の反応が比較的控えめだったのは、円安の背景にある根本的な要因を反映していると考えている、と指摘してるわ。

床にものを置く習慣を変えないまま、床のものを棚に移しただけ。そりゃ、また床に戻るわよね。

理由② 「次もくるかも」の効き目が、少し薄れた

介入って、実は実弾だけで戦っているわけじゃないの。

「また介入されるかもしれない」という恐怖そのものが、武器になるのよ。売った直後に介入がきたら損をするから、その「かもしれない」が効いている間、投機筋は円を売りにくいわ。

為替版ホラー映画ね。実際に幽霊が出る必要はないの。ドアがギィィィ……と開くだけでいいのよ。

でも追加介入がすぐに続かなければ、市場には少しずつ「ここから先は、また円を売れるかもしれない」という空気が戻ってくるわ。

もちろん、159円台まで戻った今は再介入への警戒も強いの。市場が完全に安心しているわけじゃない。日本は11日が祝日で流動性が細るから、むしろ「このタイミングでくるのでは」と身構えているトレーダーも多いわ。

しかもここ、アメリカ側にも「無限の財布」があるわけじゃないの。

JPモルガンの分析では、米財務省が通常の手段で為替介入に使える資金には限りがあるとされているわ。SDRなどを活用する非伝統的な手段まで広げれば、理論上は約1870億ドル規模まで余力を増やせるという試算もあるけれど、それだって無限じゃない。FRBが関与すれば使える手段はさらに広がる。でも当然、アメリカ政府の財布に無限大のマークが印刷されているわけではないのよ。

ベッセント財務長官は「whatever it takes(必要なことは何でもやる)」と言ったわ。心強い言葉よね。

でもね、Whatever it takes と Whatever it costs は違うの。「必要なことはやる」と「無限に払う」は、似てるようで全然違うのよ。

理由③ 新しい円安の材料が足された

そこへ、追加の逆風が3つ吹いたわ。

ひとつは中東情勢。緊張が高まると、市場ではドルに資金が向かいやすくなるの。

世界が荒れる。原油が上がる。インフレが心配になる。ドルが買われる。円が下がる。日本、何もしてないのに巻き込まれる。

為替市場の「隣の家の夫婦げんかで、こっちの皿が割れる」現象よ。

ふたつめは、7日に出た米雇用統計。非農業部門の雇用者数が2万3000人の減少で、予想の8万人増を大きく下回ったの。過去2カ月分も下方修正されたわ。これでいったんドルが売られたんだけど、「さすがに売られすぎた」という見方が広がって、週明けに買い戻された。行って戻ってきた形ね。

みっつめが、日本国内の事情。高市政権の積極財政への警戒よ。

政府支出を増やし、その財源を国債に頼る割合が大きくなれば、「日本の借金はさらに増えるのでは」という懸念が強まるでしょう。しかも厄介なのは、その先なの。国債の金利が上がりすぎれば、日銀が金融引き締めよりも国債市場の安定を優先するのではないか——そんな見方まで出てくるのよ。

つまり、政府「使います」。市場「借金増える?」。日銀「金利、上げたいんですけど……」。全員、別々の方向を向き始めるの。家族旅行の行き先を決めるLINEグループみたいになってきたわね。

先週決まった食品の消費税引き下げも、財源の具体策はまだ詰め切れていないわ。あの話し、ちゃんと為替の世界にもつながってくるのよ。

明日以降、何に気をつければいいの?

ここ、地味に大事よ。

日本は11日が祝日で、そこからお盆休みに入るの。すると市場で売り買いする人がぐっと減るわ。

参加者が少ない市場は、少しの注文で値段が大きく動くのよ。屋台が3軒しかない市場で、一人が大量に買うと相場が跳ね上がる、あの感じね。

つまり、介入する側にとっては効率がいいの。少ない弾で大きく動かせるから。野村證券の後藤祐二朗チーフ為替ストラテジストも、日本がお盆休みに入って市場参加者が限定されそうだと指摘したうえで、投資家は当局者の発言や日米の介入姿勢に注意を払い続けることになるだろう、と述べてるわ。

そしてもうひとつ。12日に7月のアメリカの物価統計が出るの。これが弱ければ、FRBが追加の利上げを急ぐ理由が薄れて、ドル高・円安の圧力が和らぐ可能性があるわ。強ければ、また円安が進みやすくなる。

さらに10日には、日銀の政策委員から利上げのペースを速めることに前向きな意見が出たとも伝えられてるの。9月の日銀会合、やっぱりここが本丸なのよね。

あたしたちの生活には、どう影響するの?

さて、ここが一番知りたいところよね。噛み砕いていくわ。

① 輸入するものの値段

155円と159円。たった4円の差に見えるけれど、率にすると約2.5%の値上がりなの。

たとえば、海外から100ドルのものを仕入れる場合。155円なら15,500円だけど、159円なら15,900円。400円高くなるわ。

「400円くらい」と思うでしょう。でも企業は100ドルだけ輸入してるわけじゃないのよ。

石油。小麦。大豆。コーヒー。飼料。原材料。全部に為替が乗るの。

そして最終的に、スーパーであたしたちが払う。為替市場でドルを買った覚えなんて一度もないのに、請求書だけくるのよ。理不尽よね。

しかも輸入品の値段って、上がるときはすぐ上がるのに、下がるときはゆっくりでしょう。企業も一度上げた値札は、なかなか戻さないもの。だから「円が少し戻ったから来月から安くなる」とはならないの。

② でも、悪いことばかりでもないの

新NISAでオルカンやS&P500といった外国の資産を持っている人にとっては、円安は評価額を押し上げる方向に働くわ。ドルで持っている資産を円に直すと、円が安いほど大きな金額に見えるからね。

新NISAを開いて「今年、めっちゃ増えてる」となっている人。一度だけ確認して。

企業が成長したのか。株価が上がったのか。円が安くなっただけなのか。それとも全部なのか。

残高が増えていれば嬉しい。それはいいのよ。でも、鏡が痩せて見せてくれているだけなのに、ダイエット成功だと思わないこと。為替が戻った瞬間、鏡は容赦なく現実を返してくるから。

③ 給料は、円のままなの

これが一番大事なところかもしれない。

輸入品の値段は世界市場と為替を見て動くわ。原油も動く。小麦も動く。ドルも動く。株も動く。

そして——給料だけ座ってるのよ。あなた、そこ指定席なの?

「円安で日本の企業が儲かる」というのも一面では本当なの。輸出企業の利益は増えるから。でもその利益が、あなたのお給料まで降りてくるには時間がかかるわ。

値上げのほうは早いのよ。スーパーで翌月には会える。昇給は遠距離恋愛。値上げは近所の元彼。会いたくないほうだけ、すぐ会えるの。

④ 今すぐ何かすべき、ではないわ

正直に言うわね。この記事を読んで今日すぐやるべきことは、特にないの。

慌ててドルを買うのも、慌てて売るのも、たいてい高いところで買って安いところで売る結果になるもの。

やっておくとしたら、円安が続くと家計のどこが痛むのかを一度確認しておくくらいね。ガソリンをよく使う生活なのか、輸入食品が多いのか、海外旅行の予定があるのか。人によって痛む場所が違うのよ。

結局、介入は失敗だったの?

いいえ、そういう話しではないの。

介入は効いたわ。実際、円は大きく戻った。時間も買えた。

ただし——時間を買うことと、問題を解決することは別なのよ。ホテルのチェックアウトを1時間延長しても、そこが自宅になるわけじゃないでしょう。

今日わかったこと

  • 協調介入で取り戻した9円のうち、約半分にあたる4円がすでに戻された
  • 159円台をつけたのは、7月31日の日米協調介入以降で初めて
  • 介入は値段を動かすことはできても、円安の理由そのものは変えていない
  • 日米の金利差、中東情勢、日本の財政への懸念が重なって円売り圧力が戻った
  • アメリカ側の介入余力も無限ではなく、「必要なことはやる」と「無限に払う」は別である
  • 日本は祝日とお盆で市場参加者が減るため、再介入への警戒はむしろ強まっている
  • 12日の米物価統計と、9月の日銀会合が次の焦点になる

大掃除は、散らかる原因を変えないかぎり、また同じ部屋に戻るのよね。それでも掃除には意味があるわ。少なくとも、その日は綺麗だったんだもの。

ただ、綺麗にしたことと、片付いたことは、同じじゃない。

円を155円まで戻したことと、円安が終わったことも、同じじゃないのよ。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

Half the gain is gone. All the reasons remain.


📖 関連記事 →


※本記事はブルームバーグ、日本経済新聞、読売新聞、時事通信等の公開情報をもとに構成しています。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

Sassy Divaをフォローする
市場
シェアする
Sassy Divaをフォローする
タイトルとURLをコピーしました