3兆ドルの正体は、テキサスの35基のタービンだった|アマゾンの自家発電所と「変わっていない約束」

アマゾンがテキサス州に建設する巨大データセンターと自家発電所を象徴するイメージ画像。荒野に並ぶ多数のガスタービンと立ち上る白い煙、その手前に置かれた気候誓約の書類を対比して配置し、宣言と現実の距離という記事の主題を表現している一枚。 テック

「状況が変わったので」と言いながら、同じ口で「気持ちは変わってません」と言える人、あなたの周りにもいるかしら。

たいていの人は、どちらか一方しか言えないのよ。でも本当に大きな組織になると、両方を同じ会見で、同じ表情で言えるようになるの。それを見せてくれたのが、時価総額3兆ドルの会社だったわ。

テキサスの荒野で、何が始まっているのか

先週金曜、アマゾンがテキサス州ペコス郡で建設中の巨大データセンターについて、その電力をまかなうための天然ガス発電所に投資していることを認めたの。

規模が、ちょっと想像しづらいのよ。ガスタービン35基、合計出力7.65ギガワット。

「AIってクラウドなんでしょう?」と思っていた皆さま。クラウドの下には、ガスタービンが35基ございました。雲の上でAIがふわふわ考えているわけじゃないのよ。地上ではまあまあ本気で燃やしてるの。

そして州の許可上、この発電所は年間3300万トンの二酸化炭素を排出できるわ。

3300万トンと言われてもピンとこないから、比較を2つ。

現在アメリカで最も多く排出している発電所は、アラバマ州にある石炭火力で年およそ1600万トン。今回の許可枠は、その約2倍よ。そして3300万トンは、カナダ一国の年間温室効果ガス排出量をCO2に換算した総量の、およそ5%に相当するの。テキサス州環境品質委員会の文書によれば、CO2以外にも、すすやアンモニア、一酸化炭素などの規制対象物質を年1万2000トン超まで出せる許可になってるわ。

もちろんこれは許可上限で、実際に3300万トン出すと決まったわけじゃない。そこは大事なところよ。

ただし、「最大3300万トンまで出していいです」という許可を取ったことも、同じくらい大事なの。カードの限度額を自分から500万円に上げてもらった人が「でも使うとは言ってない」と言っても、まあ、そういうことよね。

建設はもう動いてるわ。データセンター棟3棟分の建設許可が申請済みで、衛星画像では既に整地が始まってるの。

「誰にも迷惑をかけていません」の設計

この計画で一番よくできてるのが、送電網との関係よ。この発電所、当初はテキサスの送電網につながない設計なの。アマゾンは将来的なグリッド接続や、太陽光・蓄電池の併用も検討しているとしているわ。

広報の説明はこう。

新設の自家発電でまかなうので、テキサスの家庭の電気代は上がりません、と。

これ、理屈としては通ってるの。データセンターが送電網につながると、地域の電気代が上がったり停電が起きたりする。だから自分で発電所を建てて、自分だけで使う。近所迷惑を避けるための、丁寧な設計よ。

でもね、電線は切り離せても、空気は切り離せないのよ。

「送電網には迷惑をかけません」は成立するわ。でも「だから環境にも迷惑をかけません」は成立しないの。電気には住所があるけど、CO2には住民票がないのよね。

そして、あの2文が出てくるの

さて、ここからが本題。

アマゾンは2019年に「Climate Pledge」を共同で立ち上げた会社なの。2040年までに事業全体の温室効果ガス排出を実質ゼロにする、という宣言ね。2025年末時点で656社が参加する枠組みで、アマゾンはその旗振り役だったわ。

一方で、同社の排出量は昨年16%増えてる。しかもClimate Pledgeを掲げた2019年と比べると、約58%増よ。

ネットゼロへの道って、どうやら最初に逆方向へ58%走ってから折り返すルートらしいわ。

ここは公平に、会社側の説明も置いておくわね。アマゾンは、2019年以降で売上が156%増える一方、排出原単位は38%下がったと説明してるの。つまり「成長と排出を切り離しつつある」という主張ね。

絶対量は58%増、原単位は38%減。どちらも本当なのよ。数字って、こういうときに便利だわ。

さて、その矛盾について問われた広報担当が、こう答えたの。

気候変動の誓約を共同で立ち上げた頃とは、世界の様子が違う

そして、続けてこう言ったわ。

私たちの約束は変わっていない

……この2文、間に接続詞を入れると成立しないのよ。「世界が変わった。だから約束も変わった」なら筋が通る。「世界は変わった。でも約束は守る」でも通る。でも「世界は変わった」「約束は変わってない」を、何の接続もなくただ並べると、読む側の頭の中でだけ矛盾が処理されることになるの。

世界が変わった。約束は変わらない。排出量は増えた。この3行を並べると、急にExcelの循環参照みたいになるでしょう。

というか、この言い回し、恋人から言われたら一番警戒するやつよ。「君への気持ちは変わってない。ただ、状況が変わったんだ」。……はい、別れ話しです。

それでも責める気にはならないのよ。だって人間、全員やってるでしょう。「今週は忙しかったから」「でもダイエットは続けてる」。企業の広報って、結局その拡大版なの。ただ規模が3兆ドルなだけで、使ってる文法はあたしたちと同じなのよね。

しかも目標は2040年。便利よね、締切が14年後って。あたしも「2040年までに腹筋を割ります」と今日宣言すれば、明日の朝パンケーキを食べても計画未達にはならないもの。

6日前に書いた数字の、正体がこれだったの

先週、アマゾンの時価総額が3兆ドルを超えた話しを書いたわよね。あのときジャシーCEOは、設備投資が2200億ドル規模まで膨らむ見通しだと語っていたの。しかも「それでも2026年の需要をすべては満たせない」と。

その2200億ドルが、どんな形をしているのか。今週、その一部が見えたということなのよ。

2200億ドル。数字だけ見ると、もう大きすぎて何も感じないでしょう。あたしなんて2200億ドルと2000億ドルの違いを見ても「どっちも持ってません」で終わるもの。

でも「35基の巨大なガスタービン」と言われると、突然見えるのよ。

CapExには、煙突があるの。

株価は数字で動くけど、その裏側には必ず物理があるのよね。倉庫があって、サーバーがあって、電気があって、煙が出る。当たり前の話しなんだけど、時価総額の話しをしているときは、なぜかそこが見えなくなるの。

世界は、この件をどう扱い始めているか

ちなみにこれ、アマゾン一社の話しでは終わらないわ。

ニューヨーク州は7月14日、50MW以上の新規大型データセンターについて、未完了の州環境許可を最大1年間停止したの。全米初の州レベルのモラトリアムよ。

しかも面白いのが、その先。ニューヨークは今後、データセンターに「自分で電力を用意するか、送電網を使うなら相応の負担をしてもらう」という方向を打ち出しているわ。

つまり、まさにテキサスでアマゾンがやっている「Bring Your Own Power」が、別の州では制度として議論され始めてるの。BYOBならぬBYOPね。レストランにお酒を持ってくる程度なら可愛いけど、AI時代は「電源持参でお願いします」になってきたのよ。

オーストラリアでも今月、新設データセンターについて、電力の過半を再生可能エネルギーでまかない、新たな再エネ供給を自ら建設・引き受ける方向が示されたわ。ガスだけで巨大データセンターを動かすモデルには、連邦政府が待ったをかけ始めてるの。

一方EUは少し違うのよ。データセンターを追い出そうとしているわけじゃないの。むしろ今後5〜7年で域内のデータセンター容量を少なくとも3倍にしたい。ただし、エネルギー効率や持続可能性もセットで求める、という立場ね。

「来るな」じゃないの。「来て。でも電気は自分で考えて」なのよ。

世界共通で見えてきたのは、AIを止めるかどうかではなく、AIの電気代と環境コストを誰が払うのかという問いなの。そこが、次の争点になり始めてるわ。

ちなみにデータセンターって、政治的にもなかなか厄介な存在なのよね。雇用をあまり生まない、地域経済への波及も小さい、なのに電気と水は大量に使う。共和党支持地域でも民主党支持地域でも、都市部でも農村部でも評判が良くないの。珍しく全国民が一致してるわね。

あたしたちの生活には、どう影響するの?

「テキサスの話しでしょ」で終わらせるにはもったいないから、押さえておくことは3つ。

① 新NISAでS&P500やオルカン系を持ってるなら、あなたはこの発電所の間接的な出資者よ。アマゾンは構成比の上位常連だもの。悪いという話しじゃなくて、「AI関連株が上がる」の中身には、こういう物理的な実体が含まれているということ。数字の裏に何があるかを一度見ておくと、次に株価が動いたときの理解が変わるわ。

② 規制リスクを織り込む視点が要るようになってきたの。ニューヨーク州の停止措置も、オーストラリアやEUの方針も、まだ動き始めたばかりだけれど、これが広がれば建設スケジュールもコストも変わってくる。AI企業の評価を見るとき、「どれだけ賢いか」だけじゃなく「どこに建てられるか」も効いてくる時代よ。

③ そして日本の話しでもあるの。国内でもデータセンター建設は増えていて、電力の確保は同じ課題を抱えてる。2023年度の日本のエネルギー自給率は15.3%で、G7では最低水準。「AIに必要な電気をどこから持ってくるか」という問いは、遠からずあたしたちの電気代の話しになるわ。

今日わかったこと

  • 時価総額の裏側には必ず物理があり、今回はそれがガスタービン35基という形で見えた
  • 「送電網から切り離す」は近隣への配慮として合理的だが、排出は敷地内に留まらない
  • 絶対排出量は増え、排出原単位は下がっている。どちらも事実で、どちらを語るかで印象が変わる
  • 大企業の広報は、矛盾する2文を接続詞なしで並べることで矛盾を処理する
  • 目標年が遠いほど、その約束は「まだ守っている」と言い続けられる
  • 各国の争点は「AIを止めるか」ではなく「電気代と環境コストを誰が払うか」へ移りつつある

約束は、遠い年を指定するほど守りやすくなるのよね。2040年はまだ14年先だもの。その間に「世界の様子」は、あと何回くらい変わるのかしら。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

The pledge stayed the same. The world got an excuse.


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※本記事はThe New York Times、TechCrunch、Texas Tribune、Amazon公式サステナビリティ報告等の公開情報をもとに構成しています。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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