「このままでは負ける」|安全へ走った日本と、賭けに走ったアメリカ

同じ不安から日米が正反対の方向へ動いたことを象徴するイメージ画像。降りしきる雨の中で傘を差して立ち止まる人影と、傘を持たずに走り出す人影を左右に配置し、同じ状況でも手元にあるものによって選ぶ行動が変わるという記事の主題を表現している一枚。 経済

同じ雨に降られた二人がいるとするでしょう。

片方はコンビニに寄って傘を買い、もう片方は走り出した。どちらも「濡れたくない」と思っていたの。違ったのは、そのとき手元にいくら持っていたか、それだけよ。

いま日本とアメリカで起きていることが、まさにそれなの。

日本では、お金が預金から出ていってるわ

まず、日本側の話しから。

日銀のデータによると、企業が保有するCPの残高が、3月時点で前年同月比47%増の4兆1683億円になったの。2008年12月以来、およそ17年ぶりの高さよ。過去2年で倍増したことになるわ。

CPというのは、コマーシャルペーパーの略ね。企業が数カ月といった短い期間でお金を借りるために発行する証書のこと。信用のある会社が「3カ月後に返しますので、いま貸してください」と発行するものだと思えばいいわ。

買う側から見れば、預金より少し利回りの高い短期の運用先になるの。ただし、預金と違って元本保証ではないし、発行した企業が返せなくなるリスクもあるわ。そこは押さえておいてね。

異次元緩和で金利がゼロだったころは、企業の保有残高が1兆円を割り込むまで落ちていたのよ。誰も見向きもしなかったということね。

そして個人のほうでも、同じことが起きているわ。

個人向け国債の発行額が、過去最高のペースで伸びているの。2026年度は4月から8月までの5カ月で4兆661億円。前年度の同じ時期より66.3%も多くて、2025年度の総額の半分をもう超えているそうよ。

ちなみに2025年度も6兆1526億円で、19年ぶりの高い水準だったの。いまのペースが続けば、過去最高を更新する可能性もあるそうよ。

理由は、金利ね。9月発行分の利率は、変動10年が1.87%、固定3年が1.71%、固定5年が2.06%。いずれも過去最高よ。日銀の政策金利は現在1.0%で、31年ぶりの水準なの。

日本人がついに、預金口座から顔を上げたのよ。40年近く「ここが一番落ち着くの」と座っていたソファから、ようやく立ち上がったわ。腰、大丈夫かしら。

動機は、はっきりしているわ。「守り」よ

日経の記事が、その理由を一行で書いていたの。物価高で実質的に価値が目減りする預金からのシフトが起きている、と。

ここ、大事なところだから丁寧に説明するわね。

預金って、数字が減らないでしょう。100万円を預けたら、来年も100万円あるわ。だから安全だと思われてきたの。

でも物価が3%上がったら、去年100万円で買えたものが、今年は103万円出さないと買えないのよ。通帳の数字は1円も減っていないのに、買えるものが減っている。

通帳は「100万円あります」と澄ました顔をしているけれど、スーパーへ連れていくと去年より働かないの。数字は引退していないのに、購買力だけ先に引退しているのよ。

つまり動かないことが、いちばん確実に負ける方法になってしまったということね。

しかも今回おもしろいのは、企業も個人も同時に動いていること。片方だけなら「一部の動き」で済むけれど、両方となると、空気そのものが変わったということだわ。

日本人のお金が動くって、日銀の利上げより大事件よ。何十年も定位置だったんだもの。金融界の指定席ね。

同じころ、アメリカでは真逆のことが起きていたの

ここからが、今日の本題ね。

個人向け金融プラットフォームのベターメントが8月12日に発表した調査があるの。個人投資家1000人を対象にしたものよ。

その結果が、なかなか強烈だったわ。

1997年から2007年生まれのZ世代の投資家のうち、約26%が、スポーツ賭博を意識的かつ継続的に資産形成計画に組み込んでいると回答したの。

4人に1人以上、ということね。老後資金のポートフォリオに、株式指数とスポーツリーグが同居しているのよ。分散投資の意味、誰か途中で変えたのかしら。

世代別に並べると、傾向がはっきり見えるわ。

世代賭博を資産形成に組み込む割合
Z世代(1997〜2007年生まれ)約26%
ミレニアル世代(1981〜96年生まれ)約14%
X世代(1965〜80年生まれ)6%
ベビーブーマー世代(1965年より前)1%

世代が下がるほど、賭けが「資産形成」の中に入ってくるのよ。

しかも、若い投資家の半数以上が、過去1年のあいだに投資に充てる予定だった資金を賭博に回したことがあると答えているの。スポーツ賭博を全くしないと答えたZ世代は、およそ3分の1にとどまったそうよ。

「投資するはずだったお金を賭けました」って、ずいぶんスマートな言い方になったものね。

動機は「追いつくこと」なの

なぜこうなっているのか。背景も調査から見えてくるわ。

生命保険会社ノースウェスタン・ミューチュアルの調査によると、高リスクで投機的な商品に投資している、または投資を検討している人のうち、Z世代の80%、ミレニアル世代の75%が「経済的に後れを取っている」と感じていて、こうした商品なら従来の方法より早く目標に近づけると考えているそうよ。

ちなみにこの割合、X世代では66%、ベビーブーマー世代以上では51%。ここでも世代差が出ているわね。

住宅価格が上がってマイホームが遠くなり、生活費も上がり続けている。従来の資産形成の節目が、どんどん手の届かないところへ行ってしまったのよ。

そして、境界そのものが溶けているの

もうひとつ、見逃せない変化があるわ。

アメリカでは州の規制のもと、スポーツ賭博市場がここ数年で急拡大したの。事業者側の年間売上高で、約170億ドル規模とされているわ。予測市場も急速に広がっているそうよ。

そして、若者が手軽に株を取引できるサービスとして成長してきたロビンフッド・マーケッツが、大統領選をきっかけに予測市場へ参入して、2025年にはスポーツなどへ本格的に広げたの。それが同社で最も急成長している事業になったというわ。

昔は証券口座を開くだけで、書類を何枚も書かされたのよ。いまは株を買って、暗号資産を買って、試合結果まで賭けられる。金融の民主化、ちょっと民主化しすぎたわね。

株を買うボタンの隣に「明日の試合、どっちが勝つ?」が並ぶ時代なの。ウォール街とラスベガスが、ついに同じスマホに入居したということよ。

ここ、大事な視点だと思うの。投資とギャンブルの境界線がなくなったんじゃないわ。画面の設計が、境界線を消したのよ。

個人投資家による株式の売買高は、過去15年で2倍に増えているの。デイトレーダーの参加で、オプション取引高も過去最高の水準に達しているそうよ。

ベターメントのCEOは、こう指摘しているわ。予測市場やスポーツ賭博が老後に備える手段とみなされ始めているとすれば、それは問題だと。こうした商品は、手っ取り早く利益を得る機会を追い求めるよう促す設計になっていて、10年先を見据えた資産形成を助けるものではない、と。

ここからは、笑わずに書くわね

もうひとつ、重い調査があるの。

結婚や家族の問題を研究する米シンクタンク、家族研究所が今年公表したものよ。18歳から29歳の男性2000人を対象にした調査ね。

そのうち4人に1人が、毎日株を売買していると答えたわ。そしてその64%が、自分は「人生の敗者だ」と感じていると回答したの。

毎日ギャンブルをすると答えた若年男性は23%で、その66%が同様の苦悩を抱えていると答えているわ。ほとんど同じ数字よ。

回答者全体で見ると、42%が「総合的に見て、自分は失敗者だと思う」という問いに、当てはまると答えているの。4人に1人は、常に孤独を感じているとも答えているわ。

そして、こんな数字もあったの。回答者の10人中7人が「成功は能力や努力よりも、人脈で決まる」と答えている。それでいて、84%は将来に向けて大きな目標を持っていると答えているのよ。

諦めてはいないの。ただ、正規のルートを信じていないだけ。

この調査は、因果関係を示したものではないの。 研究所自身が「仮説」という言葉を使っているのよ。デイトレードやギャンブルといった行動は、落胆やストレスや孤独感への対処手段になる一方で、それをさらに悪化させる恐れもある、という立て方ね。

つまり、毎日トレードするから苦しくなるのか、苦しいから毎日トレードするのか。どちらが先かは、この調査だけでは分からないわ。

ひとつ気になる数字はあるの。デイトレードなどを毎日より少ない頻度で行う若年男性の場合、意欲喪失を感じていると答えた割合が、ほぼ半減したそうよ。

頻度が関係している可能性はある。でも、それも相関にすぎないわ。

並べてみると、ひとつの対照が見えてくるの

ここで、ひとつ断っておきたいことがあるわ。

日本側の数字は企業と個人の全体を見たもので、アメリカ側は主に若い投資家を対象にした調査なの。対象が違うから、そのまま比べることはできないわ。

それでも並べてみると、面白い対照が見えてくるのよ。

日本アメリカの若年層
感じていること預金では目減りする従来の方法では追いつけない
動いた先国債やCPなど、より確実なほうへ賭博や予測市場など、より不確実なほうへ
目的減らさないこと一気に追いつくこと

出発点は、どちらも「このままでは負ける」なの。ただ、そこから走った方向が正反対だったわ。

手元に守るものがある人は、守るほうへ動く。追いつく必要がある人は、賭けるほうへ動く。あくまであたしの見立てだけれど、そういうことなんじゃないかしら。

雨に降られたとき、傘を買うか走り出すかは、財布の中身で決まるのよ。

あたしたちの生活には、どう影響するの?

押さえておくことは3つ。

① 日本にも「動かないと損」の空気が来ているわ

今日見たとおり、企業も個人も動き始めているの。そして正直に言うと、その判断自体は理にかなっているわ。金利が上がって、預金以外の選択肢が現実的になったんだから。

ただ、気をつけたいのは速度なのよ。

焦りは、判断を急かすわ。でも、正しくはしないの。

「みんなが動いているから」で動くのは、動く理由としては一番弱いものよ。自分がなぜ動くのか、いつその資金を使うのか、そこまで答えられるなら大丈夫。答えられないなら、まだ動かなくていいわ。

② 「安全」に逃げても、まだ追いつかれているの

ここは正直に書いておくわね。

個人向け国債の固定5年は2.06%で、過去最高よ。定期預金では、なかなか見つからない水準だわ。

でも日本の消費者物価は、生鮮食品を除く総合で3%台なの。しかも国債の利息には原則として税金もかかるわ。つまり手取りで考えれば、実質ではまだ目減りしているということよ。

2%もらえるようになって「金利のある世界が帰ってきた」と喜んだら、物価が3%で待っていたのよね。おかえりなさい。ずいぶん遅かったわ。

これは「だから国債は無意味」という話しではないの。預金に置いておくよりは、目減りの速度が遅いという相対の話しね。完全な避難場所は、いまのところ存在しないわ。

そこを分かったうえで選ぶのと、「安全だから大丈夫」と思って選ぶのとでは、あとの納得感が全然違うのよ。

③ 「資産形成」という言葉の中身を、一度確認して

今日いちばん引っかかったのが、この点なの。

Z世代の26%が、スポーツ賭博を「資産形成の一環」だと考えている。つまり、その言葉の指す範囲が、いつのまにか広がっているのよ。

これ、日本でも起きうる話しだわ。積立投資も、個別株も、暗号資産も、レバレッジ商品も、全部まとめて「資産形成」と呼ばれているでしょう。

あたしがひとつ基準にしているのは、これよ。時間を味方につける仕組みなのか、それとも短期の結果に賭け続けなければ成立しない仕組みなのか。

前者なら、放っておいても積み上がるわ。後者は、当て続けないと成立しないの。

「10年続けられるかどうか」だけだと、実は基準にならないのよね。競馬歴30年の方だって、立派に続けていらっしゃるもの。

今日わかったこと

  • 日本では企業のCP保有残高が前年同月比47%増、17年ぶりの高水準となった
  • 個人向け国債の発行も4〜8月で前年度同期比66.3%増と、過去最高ペースで伸びている
  • 背景は、物価高で預金の実質価値が目減りするという認識の広がりである
  • 一方アメリカでは、Z世代の投資家の約26%がスポーツ賭博を資産形成の一環と考えている
  • その比率は世代が上がるほど下がり、ベビーブーマー世代では1%にとどまる
  • 高リスク商品に関心を持つ層では、Z世代の80%が「経済的に後れを取っている」と感じている
  • 日米の調査は対象が異なるが、並べると正反対の方向へ動いた対照が浮かび上がる

同じ雨に降られて、片方は傘を買い、片方は走り出した。

どちらも間違ってはいないのよ。守るものがある人は守るし、追いつきたい人は追いつこうとするわ。それは、とても人間らしいことだもの。

日本は「減らしたくない」と走り、アメリカの若者は「間に合わない」と走った。怖がっているものは同じ。選んだ出口が、違っただけなのよ。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

Same fear. Opposite directions.


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※本記事は日本経済新聞、ブルームバーグ、財務省、日本銀行等の公開情報をもとに構成しています。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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