ベッセントの「秘密情報」の正体が見えた日|利上げしても地獄、しなくても地獄の植田総裁

日銀の9月利上げ観測が高まり円が急伸するなか苦しい判断を迫られる植田総裁を象徴する、利上げと据え置きという二つの茨の道が分かれる岐路に立ち尽くす人影を描いた、バーガンディとチャコール基調のシネマティックで絵画的なデジタルイラスト 経済

数日前に、あたしこう書いたの。覚えてる?

アメリカの財務長官ベッセントさんが「市場が知らない情報を、私は持っている」って匂わせた話し。まるで最終回の黒幕みたいな台詞で、「日本は円高につながることをする」と予告した、あれよ。あのとき、あたしは言ったの。「これは信用の前借りだ」って。当たれば信用が増える、外せば「なんだ、ハッタリか」って軽くなる、って。

さあ、その答え合わせの時間がきたの。

しかも——どうやら、当たりそうなのよ。今日はその話しをするわね。

「秘密情報」の輪郭が、見えてきた

ベッセントさんの言ってた”秘密”。その輪郭が、今週かなりハッキリしてきたの。市場が疑い始めた答えは——日本の中央銀行(日銀)が、金利を上げること。

ちょっとおさらいするわね。「利上げ」っていうのは、日銀が世の中の金利を引き上げること。金利が上がると、円を持ってるだけで受け取れる利息が増えるから、円の魅力が上がって、円が買われる(=円高になる)。つまり、日銀が利上げすれば、あれだけ止まらなかった円安に、ブレーキがかかる可能性があるの。ベッセントさんが「日本は円高につながることをする」と言ってたのは、これを指してたんじゃないか、というわけ。

もちろん、ベッセントさん本人が「正解は利上げでした〜!」ってフリップを出したわけじゃないわよ。でもね、匂わせた週に、本人がG20(主要国が集まる会議)の場で、植田さん(日銀のトップ)に直接こう迫ったの。「あなたは”正しいこと”をすると期待している」って。

しかも使った言葉が、”Do the right thing(正しいことをしなさい)”。偶然にも、スパイク・リー監督の有名な映画と同じタイトルよ。あんた、答えほぼ言っちゃってるじゃない。

ちなみにこの”Do the right thing”、日本語にすると「正しいことをしなさい」でしょ。日銀のトップに向ける言葉としては、だいぶPTAなのよ。「植田くん。先生、わかってますからね。ちゃんと正しいことしてくださいね」——金利を決める人よ?小学4年生じゃないんだから。

しかもベッセントさん、ついでに「日本のリフレ政策(アベノミクス)は、おそらくもう終わった」とまで言い切ってる。柔らかい言葉に包んでるけど、要は「日本さん、そろそろ利上げしなさいよ」という、れっきとした外圧なの。

植田さんも応じ始めた

で、迫られた植田さん、どうしたか。応じる姿勢を見せたの。

植田さんは「9月の会合も含めて、毎回、利上げを議論する」「物価が目標(2%)を超えて上振れするリスクに、一段と注意している」と、利上げに前向きな姿勢を強調。日銀の他のメンバーからも「利上げを続けることもあり得る」という声が出てきた。

その結果、市場はもう9月の利上げを、ほぼ織り込み始めたの。市場が織り込んだ確率は、報道によっては94%、別の指標ではほぼ99%。もう「やるの?」じゃないの。「やる前提で、当日何着て行く?」くらいまで話しが進んでる。……とはいえ、相手は中央銀行。当日ドタキャンも、普通にあり得るんだけどね。

円も反応して、一時1%近く急上昇。158円台まで買われたの(少し前は160円台だったからね)。しかも市場では「これ、また当局がこっそり為替をチェックしたんじゃない?(レートチェック=介入の前ぶれ)」なんて声まで出た。円相場、もう普通に歩いてくれないのよ。毎回、走るか転ぶか。

あたしは、ベッセントさんの発言を「信用の前借り」って書いたわよね。どうやら彼、ちゃんと返済能力があったみたい。しかも、金利が上がる前に返してきた。さすが財務長官、抜け目ないわ。

でも、ここからが植田さんの地獄なの

さあ、ここからが今日の本題。めでたく円安が止まりそう、よかったね——で終わらないのが、この話しの奥深いところ。

追い込まれた植田さんの前に、今、ボタンが二つ置いてあるの。

ボタンA:利上げする

円安には効く。でも、金利が上がるってことは、世の中みんなの借金の利息が増えるってこと。会社もお金を借りにくくなって、景気に冷や水。そして見逃せないのが、国そのものの借金。日本は世界でもトップクラスに国の借金が多い国よ。高い金利で国債の借り換えが進むにつれて、その利払い負担も、じわじわ重くなっていく。実際、今週は日本の長期金利(10年ものの国債の利回り)が一時3%まで上がって、なんと1996年以来、約30年ぶりの高さになったの。

ここでちょっと想像してみて。日本政府「借金、いっぱいあります」。日銀「金利、上げます」。日本政府「……それ、うちにも効くやつですよね?」。効くわよ。自分だけ対象外だと思ってたの?利上げは、円安を止める薬だけど、副作用もきつい劇薬なのよ。

ボタンB:利上げしない

今度は、円安圧力がまた強まる可能性がある。円が安いままだと、輸入するもの(石油、食料、いろいろ)が高いままで、物価高があたしたちの生活を圧迫し続ける。しかも今は、原油まで高い。円には日銀、原油には中東。敵が一人じゃないのよ。植田さん、ワンオペで世界経済を担当させられてるの。おまけに「アメリカにあれだけ言われたのに動かなかった」となれば、市場からの信頼も、円も、さらに下がるリスクがある。

そして、画面にはこう書いてあるの。「どちらかを選択してください」。キャンセルボタン?——ないの。どっちを選んでも、痛い。前門の虎、後門の狼。植田さんは今、その真ん中に立たされてるのよ。

「正しいことをしろ」と、よそから言われる難しさ

ここに、もうひとつ、あたしが気になる点があるの。

日銀って本来、日本の経済のために、日本が自分で金利を決める組織なの。ところが今回は、アメリカの財務長官から「正しいことをしろ」と迫られてる。もちろん、日米の利害が今回はたまたま一致してる(どっちも円安を止めたい)から、外圧と日銀の意向は、同じ方向を向いてはいるの。

でもね、中央銀行って、「正しい答え」を出すだけじゃダメなのよ。「自分で考えて、その答えを出しました」という顔まで、セットで必要なの。横から、アメリカのおじさんに「ほら植田くん、そこはAだよ」って言われてからAを押したら、たとえ正解でも、ちょっと気まずいでしょ。市場から「アメリカに押されて動いた」と見られること自体が、日銀にとっては厄介なの。植田さんが慎重に、あくまで「物価のために自分で判断した」という形にこだわってるのは、たぶんそのため。プライドじゃなくて、独立性という一番大事な資産を守るためなのよ。

日本のあたしたちへ

今週追いかけてる円安ドラマ、ついにクライマックスに入ったわね。あなたの生活に、これがどう関わるか、整理しておくわ。

まず、9月に日銀が利上げする可能性が、とても高くなってる。もしあなたが住宅ローンを変動金利で組んでるなら、これは他人事じゃないの。利上げが進めば、利息の負担は重くなっていく。ただし、商品によっては「5年間は毎月の返済額を変えない」みたいなルールがあって、返済額がすぐには増えないケースもある。でもね、それは「請求書がすぐ太らない」だけで、見えないところで利息はスクスク育ってたりするの。だから「うちは5年ルールあるから関係ないわ〜」で済ませないこと。

住宅ローンの金利、一度確認してみて。「変動金利なのは知ってるけど、今、何%だっけ?」……ってなったあなた。はい、今日の記事を書いた意味、ありました。多くの銀行のサイトに、金利が上がったら返済額がどうなるかの試算ツールがあるから、一度シミュレーションしておくと安心よ。

一方で、円高方向に振れれば、輸入品の値上がりは、少し落ち着くかもしれない。ただし、スーパーで明日からアボカドが30円安くなるわけじゃないわよ。為替は秒速で動くけど、スーパーの値札には時差があるの。利上げは、借りてる人には逆風、物価高に苦しむ生活者には追い風、という両面がある。あなたがどっちの立場に近いかで、この利上げの意味は変わってくるわ。

そして、いちばんの教訓。今週の主役だったベッセントさんの「秘密情報」は、今回はどうやら当たりそう。でも、覚えておいてほしいの。偉い人の予言が当たること自体が、必ずしも「みんながハッピー」を意味しないってことを。

ベッセントは「市場が知らない情報」を持っていた。市場は、その答えを、ほぼ見つけた。そして皮肉なのは——答えが見つかった瞬間に、問題が解決したんじゃないってこと。植田さんの問題が、そこから始まったの。

今日のまとめ

  • ベッセント米財務長官が匂わせた「市場が知らない情報」の輪郭が見えてきた。市場が疑う答えは、日銀の利上げ
  • G20で植田総裁に「Do the right thing(正しいことをしろ)」と外圧。「アベノミクスは終わった」とも。日銀の高田委員からも「連続利上げあり得る」の声
  • 市場は9月利上げをほぼ織り込み(94〜99%)。円は一時1%近く急伸し158円台へ。当局のレートチェック観測も
  • でも植田総裁は板挟み。利上げ(A)は円安に効くが住宅ローン・企業融資・国債利払いに逆風。据え置き(B)は円安圧力が再燃、しかも原油高も重なる。キャンセルボタンなし
  • 10年国債利回りは一時3%、1996年以来約30年ぶり。日本の巨額の借金にも、利上げはじわじわ効いてくる
  • 予言が当たること自体は、みんなのハッピーを意味しない。答えが見えた瞬間、植田総裁の問題が始まった

あたしたちは、大きな流れ(利上げに向かってる、円高方向に振れつつある)は冷静に押さえつつ、「これで万事解決!」とも「もう終わりだ!」とも決めつけないこと。物語は、まだ続いてる。9月の日銀の会合が、次の山場よ。慌てず、でも目は離さず。自分の足元だけ、淡々と整えておきましょ。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

The prophet was right. That’s exactly why someone else is now cornered.


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※本記事はブルームバーグ、ロイター、日本経済新聞、NHK、共同通信の公開情報をもとに構成しています。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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