昨日の話しの続きなの。
昨日あたしたちは、就活の”AI対AI”を見たでしょう。応募者はAIで履歴書を書き、企業はAIでそれをふるいにかける。AIが書いてAIが落とす、人間どこ? っていう、あの終わりのない消耗の輪(ドゥーム・ループ)。
でね、今日は——その「ふるいにかける側」に、カメラを寄せるの。応募者を選別してた、企業の人事部(HR)。あの人たちは、AI時代を、余裕で勝ち抜くんだと思ってた。だって、選ぶ側だもの。
ところが。人を選ぶ道具を握ってたはずの人が、実はいちばん「選ばれる側」に立たされてた——っていう、ちょっとゾッとする話し。しかもそれを最初に大声で言ったのが、外野じゃなくて、HRの総本山のトップ本人だったの。
まず、誰が何を言ったか
アメリカに、SHRM(全米人事管理協会)っていう、人事のプロが集まる世界最大の団体があるの。会員だけで数十万人。そのCEO、Johnny Taylorさんが、6月の年次大会(SHRM26、オーランド開催)の基調講演で、会場を凍らせる一言を放ったの。
「この部屋にいる全員の、暮らしが危ない。この国の160万人、そして世界の670万人のHR実務者の生計が、危機にある」
そして、こう続けた。HRという職業は、「本筋を見失った(lost the plot)」。このままでは「消滅(extinction)」しかねない、と。
……待って。これ、AI企業のCEOが「お前らの仕事、なくなるぞ」と煽ったんじゃないのよ。HRのための団体のトップが、HRの祭典のど真ん中で、HRの人たちに向かって、「あなたたち、このままだと絶滅するかもよ」って言ったの。健康診断に行ったら、受付じゃなくて病院長本人が出てきて、「ちょっと座って」って言われた感じ。しかも原因は、「AIが悪い」だけじゃない。「あなたたち、本筋を見失った」。外敵より先に、身内から刺された。しかも急所を、正確に。
いちばん刺さったのは、AIの話しじゃなかった
面白いのはね。Taylorさんの警告で、いちばん生々しかったのは、実はAIの部分じゃなかったの。
彼が突きつけた数字はこう。2025年、Taylorさんが会った92人のフォーチュン500企業のCEOに、HRをどう見ているか聞いた。HRを「価値がある」と評価したのは——10%。「まあ、必要だから付き合ってる」みたいな、耐えてる(tolerate)組が——60%。そして30%は、「ほとんど価値がない。なくてもやっていける」側だった。
……ちょっと待って。6割、”好き”ですらないのよ。耐えてるの。会社の人事部が、経営陣から「戦略的パートナー」ではなく、「まあ……いるよね」と見られてたら、そりゃAIが入ってきた瞬間、椅子取りゲームの音楽が鳴り始める。
つまり、AIがHRを突然ダメにしたんじゃないの。AIが電気をつけたら、すでに部屋の隅に「あなたの価値って何?」という請求書が、置いてあった。それだけ。「人が足りない時代の管理役」だったHRが、AIで定型業務(応募書類のさばき、日程調整、問い合わせ対応)がごっそり自動化されると、「で、あなたは何をする人でしたっけ?」を、正面から問われる。それが、いま。
Taylorさんの処方箋が、スパルタすぎる
彼の”生き残り方”の指示が、また容赦ないの。
「HRがどれだけ忙しいか」を証明するんじゃない。その人を雇っていることで、会社にどんなリターン(ROI)が生まれてるのかを、説明しろ。そして、人材の動きを起きてから処理するんじゃなく、予測する側になれ。誰が辞めそうなのか。どこに人が足りなくなるのか。人間にやらせる仕事は何か。AIに渡す仕事は何か——。
つまり、「人のお世話係」から「仕事そのものの設計者」へ。CHRO(最高人事責任者)すら、将来的には人間・AI・テクノロジーをまとめて動かす「チーフ・ワーク・オフィサー」に作り替えろ、という。……HRにAI研修を受けさせる、くらいの話しじゃなかったの。部署の名前から作り直せ、と。リフォームだと思って聞いてたら、途中から建て替えの話になってた。優しくない。でも、身内だからこそ、優しくないんでしょうね。
で、これどこかで見た構図でしょう
そう。昨日の記事と、きれいに地続きなの。
昨日出てきたGallupの調査、覚えてる? AIを頻繁に使う人ほど、「この仕事、5年以内になくなるかも」という強い不安を抱きやすかった、ってやつ。……では、この構図を、HRに重ねてみるの。
採用。書類選考。面接調整。社員からの問い合わせ。評価の下書き。人材データの分析。これまでHRの机の上に積まれてた仕事に、AIが次々と手を伸ばしてる。だからこそ、毎日その性能を見てる人ほど、「あら便利」の次に、「……あら?もしかして、仕事奪われる?」がくる。
昨日は、AIで履歴書を書いてAIに落とされる応募者を見た。今日は、そのAIを使って応募者を落としてた側を見る。人をふるいにかける機械のスイッチを押してたら、いつの間にか自分の椅子にも、バーコードが貼られてた。選ぶ側と、選ばれる側。AIは、その境界線まで自動化し始めたの。
ちなみに、SHRMが別に出した調査では、AI・自動化による雇用喪失リスクが「高い/非常に高い」と推計される米国の職は、約1,920万人分(全雇用の12.6%)。いちばん比率が高いのは、実はビジネス・金融オペレーション(19.9%)、次いでブルーカラー・サービス・事務系。HRの定型業務も、この射程の中にいる。
ただし——ここ大事。これは「1,920万人がクビになる」という予測じゃないの。SHRM自身、「大多数の仕事が近い将来まるごと消える可能性は低い」と釘を刺してる。そして同じ団体が、生き残りの地図も出してる。「AI+人間の知恵=成果(AI+HI=ROI)」——人にしかできない部分に寄せて生き残れ、と。消滅通告と、生存の地図を、同じ団体が同時に出してるのよ。「絶滅するぞ」と叫んだ本人が、出口の非常灯まで、点けてくれてる。
日本のあたしたちへ
「アメリカのHRの話しでしょ」って、思うでしょう。でもこれ、日本の人事・総務・管理部門にも、そっくり効いてくるの。3つだけ、持って帰ってね。
① 「守る側の仕事」も、聖域じゃない
これまで「人を管理する仕事」「会社を回す仕事」は、なんとなく安全地帯だと思われてた。攻める営業や、作る技術職と違って、後方支援は残る、と。でも今回の話しは、その前提を静かに崩す。定型化・自動化しやすいタスクを多く含む仕事ほど、AI・自動化による”再設計”の圧力を受けやすい。守る側だから安全、はもう通じないの。
② 「本筋を見失った」は、実は最大のヒント
Taylorさんが言った「lost the plot」——これ、責めてるように見えて、実は逆なの。「定型作業に埋もれて、本当に価値のある仕事を後回しにしてない?」という問いなの。日程調整や書類さばきは、AIに渡していい。その分の時間を、「この人をどう伸ばすか」「このチームの空気をどうするか」——そっちに振り直す。棚おろしのチャンス、と読み替える。
③ 「AIに絶対できない仕事」を探すのは、やめる
昨日と同じ棚おろしだけど、今日はひとつ、考え方を足すわね。「AIには絶対できない仕事」を探すんじゃないの。そんな永住権、誰も発行してない。数年後には、今日”人間だけ”と思ってた仕事も、しれっとAIができるようになってる。だから発想を逆にする。「AIができること」が増える前提で、それでも自分がどこに価値を”足せる”かを探す。現時点で人間の価値が残りやすいのは、複雑な判断・利害の調整・信頼の構築・責任を伴う意思決定——そのあたり。永住じゃなくて、更新し続ける在留資格だと思って、毎年棚おろしする。それが、いちばんの防具になる。
今日のまとめ
- SHRM(全米人事管理協会)のJohnny C. Taylor Jr. CEOが2026年6月のSHRM26で、HRは「本筋を見失った(lost the plot)」とし、職業として「消滅(extinction)」の危機に直面しうると警告。米160万人・世界670万人のHR実務者の生計が危うい、とまで語った
- Taylor氏が2025年に会った92人のフォーチュン500 CEOに尋ねたところ、HRを評価したのは10%、60%は「tolerate(まあ受け入れている)」、30%はほとんど価値を感じていない側だった。AI以前から、HRには「自分たちの価値をどう示すか」の宿題が残っていた
- 処方箋は、HRの忙しさではなく、人への投資が生むROIを説明すること。さらに人材の動きを予測し、人間とAIを含め「仕事そのもの」を設計するChief Work Officerへ進化せよ、と提言
- 昨日のGallup調査(AIを頻繁に使う米労働者ほど失職への不安が強い)をHRに重ねると、「AIを使って人を選ぶ側」もまた自分の仕事の再設計を迫られている、という皮肉が見えてくる
- SHRM別研究では米国の雇用約1,920万件(全体の12.6%)が自動化リスク「高い/非常に高い」と推計。ただし1,920万人が失職する予測ではない。SHRM自身も「AI+人間の知恵=成果(AI+HI=ROI)」を掲げ、人間とAIを組み合わせる方向を提示
- 日本の人事・総務・管理部門も無関係ではない。「守る側だから安全」ではなく、定型業務をAIに渡したあと、自分は何の価値を残すのか。それを考えるタイミングが来ている
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
HR spent years deciding who was essential. AI just returned the favor.
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※本記事はSHRM(全米人事管理協会)、HR Dive、Bloomberg、Gallup等の公開情報をもとに構成しています。SHRM CEOの発言は2026年6月のSHRM26基調講演に基づきます。数値は公表時点のものです。670万人はHR実務者の世界推計、1,920万人はSHRMが試算した米国の自動化高リスク職数(=失職者数の予測ではありません)です。


