Appleが言ったの。「9月9日、イベントやります」。以上。
そしたら世界が——「何出すの!? 折りたたむの!? いくら!? AirPodsは!?」。……まだ、何も言ってないのよ。落ち着け、人類。
考えてみると、ちょっと異常なことが起きてるの。ある会社が、新製品の発表会を開く。それだけで、世界中のニュースが速報を打って、SNSがざわついて、あなたも(もしかしたら)「何が出るのかな」って気にしてる。まだ、何ひとつ発表されてないのに、よ。中身がゼロの箱を前に、世界中が息を止めて待ってる。
この会社の名前は、Apple。イベントは、日本時間9月10日の午前2時。今日はその、”待たされてる側”であるあたしたち人間を、考察してみるわね。
「発表を待つ」という体験が、商品になっている
まず、はっきりさせておくわね。今日のイベントで何が出るか、あたしは予想しないの。折りたたみのiPhoneが出るとか、新しいAirPodsが出るとか、いろんな噂は飛び交ってるけど、フタを開けるまで、誰にも分からないから。今日話したいのは、製品じゃなくて、”現象”のほうなの。
その現象とは——「Appleが”今日なんか出します”と言うだけで、世界が勝手に盛り上がる」という、この状態そのもの。
冷静に考えると、すごいことよ。まだ何も見せられてないの。値段も、性能も、そもそも何が出るかすら、公式には分かってない。なのに、あたしたちは待たされて、しかも、その”待つ時間”を、ちょっと楽しんじゃってる。
これ、Appleが何十年もかけて、丁寧に育ててきた”体験”なの。普通の会社は、製品を売る。でもAppleは、製品を売る前の「発表を待つワクワク」まで、商品にしちゃったの。発表会の前から、もうショーは始まってる。あたしたちは、チケットを買った覚えもないのに、開演を待つ観客にされてるってわけ。しかも入場無料。ただし、退場するときに、30万円払ってる可能性があるけどね。
これ、推しのライブと同じなのよね。当日だけじゃない。チケットが取れた日から、もう楽しい。何着ていこう、どの曲やるかな、席どこかな。
Appleも同じ。箱を開ける前から、あたしたちの脳内では、もう開封動画が始まってるの。Appleは、テクノロジーの会社の顔をして、実は「期待を設計する会社」なのよ。CPU(コンピューターの頭脳ね)だけじゃなくて、人間の物欲まで、最適化してくる会社なの。
そして今回、もう一つ面白いことが起きてる
今回のイベント、実は、地味だけど大きな”初めて”が重なってるの。
経営者の交代よ。Appleを長く率いてきたティム・クックさんが、CEO(社長)を退任して、ジョン・ターナスさんという新しいトップにバトンタッチした。今日は、その新CEOにとって、初めての大きな発表会になるの。しかもクックさん、会社から消えたわけじゃないの。「執行会長」という立場で、ちゃんと残ってる。つまり「今日からあなたが店長ね。あたし?奥にいるから」状態。新店長にとって、一番緊張するやつよ。
考えてみて。Appleって、カリスマ創業者のスティーブ・ジョブズが作った会社でしょ。ジョブズが亡くなったとき、世界中が「もうAppleは終わりだ」って言ったの。でも、次のクックさんが、静かに、堅実に、会社を史上最大の規模まで育てた。そして今度は、そのバトンが、また次の人へ。「カリスマがいなくなっても、ブランドは続くのか」という、企業にとって永遠のテーマの、最新章が始まるのよ。
ジョブズから、クック、そしてターナス。Appleはいよいよ、「CEOが誰か」より「リンゴのマークがついてるか」のほうが大事な会社になってきたの。ブランド、育ちすぎでしょ。でもね、これって企業としては、いちばん健全な”大人のなり方”なの。最初は「すごい個人」の力で立ち上がった会社が、その個人がいなくなっても回る”仕組み”に変わっていく。
天才への依存から、卒業したってこと。寂しくもあり、でも、強い証拠でもあるのよね。
「7年遅れ」が、なぜか「さすが」に化ける魔法
そして、今回いちばん、人間の面白さが出てるのが、これ。
今回の目玉として噂されてる”折りたたみスマホ”。実はこれ、ライバルのサムスンが、7年も前に、もう出してるの。7年よ。スマホ業界の7年って、もう「先行者利益」どころか、先行してた人が二回くらい機種変してる年月なの。
普通、7年も遅れて同じジャンルに参入したら、それは「出遅れ」「二番煎じ」って言われるものでしょ。ところが、これがAppleだと、不思議なことが起きるの。無名メーカーが7年遅れたら「今さら?」。Appleが7年遅れたら「ついにきた!」。
同じ「7年遅れ」という事実が、誰がやるかで、真逆の意味になる。世の中、実力だけじゃないのよ。誰が遅刻したかも、大事なの。ブランドって便利ね。遅刻しても「主役は、最後にくるものよ」で済むんだから。
あたしたちは、”事実”そのものより、”物語”で評価する生き物なの。「7年遅れた」という事実は変わらない。でも、そこに「Appleは、完璧になるまで出さない主義だから」という物語がかぶさると、遅れが美点に変わる。しかも面白いのが、その物語を、あたしたち消費者のほうから、勝手に補完してあげてること。
Appleは「うちは満を持すブランドです」なんて、いちいち言わなくていいの。客が勝手に、そう解釈してくれるから。Apple、ブランドの説明まで、客に外注してるのよ。無料で。
これ、先週書いたテスラと、真逆なの。テスラのマスクさんは「未来、できました!」と言って、あとから未来を作るタイプ。Appleは、みんなが「まだ?」と言い始めてから、おもむろに出てくるタイプ。片方は予告編が長くて、片方は開演が遅い。でも、どっちも客席は満員なの。マスクは未来を先に売る。Appleは期待を熟成させてから売る。……人類、どっちにしても、買わされてるのよね。
日本のあたしたちへ
「Appleの新製品でしょ、あたしには関係ないわ」——って思っても、たぶん今日か明日、ニュースで見出しを目にして、ちょっと気になっちゃうと思うの。それくらい、この”期待の魔法”は、あたしたちの日常に染み込んでる。だからこそ、今日は、ちょっと立ち止まって、2つだけ考えてみてほしいの。
ひとつめ。「待ってるワクワク」と「本当に必要か」は、別だということ。もし、折りたたみ携帯が噂される2000ドル超みたいな価格の新製品が出て、発表の熱気の中で「うわ、欲しい!」ってなったとする。いいの、欲しがりなさい。あたしも見るもの。でも、そのあと一回だけ、自分に聞くの。「昨日のあたし、これ欲しかった?」って。
昨日まで存在すら知らなかった30万円級の商品が、午前2時03分に、突然「人生に必要」になることなんて、そうそうないから。お祭りが楽しいのと、その屋台のものが必要なのは、別の話しでしょ。祭りのテンションで買った焼きそばは600円。iPhoneは30万円。そこだけ、ちょっと違うのよ。
ふたつめ。「物語」に、値札がついてると知っておくこと。あたしたちは、モノにお金を払ってるようで、実は”物語”にお金を払ってることが、すごく多いの。「Appleだから安心」「満を持したから間違いない」——その物語には、ちゃんと値段が乗ってる。物語を買うのが悪い、って言ってるんじゃないのよ。安心も、高揚も、立派な価値だもの。ただ、ブランドって、ロゴのことじゃないの。同じ事実を、高く売れる物語に変える力のことなの。それを分かったうえで買えば、あなたはお祭りの、いいお客さんでいられる。踊らされるんじゃなくて、自分から、楽しんで踊る側にね。
今夜、世界はまた、一つの発表に沸くでしょう。あなたも、よかったら、その熱気を楽しんで。ただ、財布を開く前に、一呼吸だけ。「これは、モノへのトキメキ?それとも、待たされた時間への、ご褒美?」——その問いを持ってるあなたは、どんなお祭りでも、自分の足で立っていられるわ。
今日のまとめ
- Appleが日本時間9月10日午前2時、年次の新製品発表イベントを開催。まだ何も発表されていないのに世界中が待ち構えている——この”期待そのものが盛り上がる”現象が、今日の主役
- Appleは製品だけでなく「発表を待つワクワク」という体験まで商品化してきた。テクノロジー企業の顔をした「期待を設計する会社」
- 今回はティム・クックがCEOを退任し執行会長へ移行、新CEOジョン・ターナスにとって初の大型製品発表。「カリスマ創業者なきあと、ブランドは続くか」という企業の普遍テーマの最新章
- 目玉と噂される折りたたみスマホは、サムスンが約7年前に投入済み。だが同じ「7年遅れ」が、Appleだと「出遅れ」ではなく「ついに来た」に化ける。人は事実ではなく”物語”で評価する好例(価格は2000ドル超との噂/いずれも発表前の観測)
- 早く見せてハラハラさせるテスラと、遅れて出して安心させるApple。正反対の戦略で、どちらも人心を掴む
- 教訓:「待つワクワク」と「本当に必要か」は別物。私たちはしばしばモノではなく”物語”にお金を払っている。ブランドとは、同じ事実を高く売れる物語に変える力
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
Nothing’s launched. Your wallet is already nervous.
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※本記事はTechCrunch、MacRumors、Financial Times、および各社の公開情報をもとに構成しています。折りたたみiPhoneや価格などは発表前時点の観測・報道であり、製品の詳細は公式発表をご確認ください。


