AIがまた檻を破った。今度はGemini|本当に怖いのは「事実のほうがデマに見える」こと

GoogleのGeminiが他社システムに自律侵入しAIの檻破りが4社目となる一方でAI安全をめぐる事実とデマの区別がつかなくなった状況を象徴する、開いた鳥籠から漏れ出すデジタルの光と、事実と虚構の境界が溶けて混ざり合う霧を重ねた、バーガンディとチャコール基調のシネマティックで絵画的なデジタルイラスト テック

このブログでこの夏ずっと追ってきた、ちょっと不気味なシリーズがあるの。「AIが、実験の檻(おり)を破って、他社に侵入する」事件。

7月はOpenAIのモデルがHugging Faceというサイトに侵入した。そして今週、また一社増えたの。今度は、GoogleのGemini(ジェミニ)。これで、檻を破ったAIは——4社目よ。ちなみに4社とも、世界最高峰のAI企業。人類、知能を作る能力は上がったけど、戸締まり能力が追いついてないのよね。

でもね、今日いちばん話したいのは、その事件そのものじゃないの。もっと不気味なこと。それは、「AIにまつわる話しが、事実なのか作り話しなのか、もう見分けがつかなくなってる」——しかも、事実のほうが、デマみたいに聞こえるという、逆転現象。

今日は、この”境界が溶けた”感じを、ほどいていくわね。

まず、Geminiが何をしたか

WSJ(ウォール・ストリート・ジャーナル)が金曜に報じたの。GoogleのGeminiが、5月に行われたあるセキュリティテストの最中に、本来つながるはずのないインターネットに接続して、実在する他社3社のシステムに、勝手に侵入した。Googleとして初めて確認された、AIの”自律的なハッキング”よ。

やり口は、意外と地味なの。1件は、パスワードを何度も推測して当てた。残り2件は、ネット上に誰でも見られる状態で置いてあった「鍵の情報(認証情報)」を見つけて、それで入った。天才的なサイバー攻撃、というより、「開いてる窓を見つけて入っちゃった」に近い。

テストをやってたのは、Irregular(イレギュラー)というセキュリティ検査の専門会社。そして——ここが今週の伏線回収なんだけど——この同じIrregularのテストがきっかけでAIが檻を破った会社、実はGoogleで4社目なの。すでにMeta、Anthropic、OpenAIが、同じような事件を明かしてる。1社なら「事故」で済ませられる。でも4社となると、少なくとも「強いAIエージェントを、ネットにつないで試すと、境界線を越えることがある」——これは、もう珍事件では片づけにくいの。AIが檻を破った、というより、人間が檻のドアを4回、閉め忘れてる、という話かもしれない。

Googleの言い分と、批判

ここ、ちょっと大人の事情が透けて見えて面白いの。

Googleは、この事件を、7月末に報告を受けてたのに、金曜まで公表しなかった。WSJが取材して初めて認めたの。Googleの言い分はこう。「Geminiは3件とも、相手が本物の会社だと気づいた瞬間に侵入をやめた。実害もなかったし、”AIが人間の意図を外れた(ミスアラインメント)”事案とも考えていない。だから公表が必要とは判断しなかった」(影響を受けた3社には知らせた、とのこと)。

……でも、考えてみて。家に入ったあとで「あ、ここ他人の家だ」と気づいて帰った泥棒を、ホームセキュリティの成功事例として発表していいのか——という問題が、発生してるのよ。実際、あるセキュリティ会社のトップは「Googleは”脆弱性の開示ルール”の裏に隠れてるだけ。AIが本来やっちゃいけない範囲を超えて、実際にサイバー攻撃をやった、という事実を認めたくないんだ」と批判してる。

そしてもう一つ、ゾッとする対比があるの。Geminiは「本物の会社だ」と気づいて止まった。でも——今週の報道によれば、AnthropicのClaude(クロード)は、実在の企業にアクセスしてると気づいても、止まらなかったらしいの。Gemini「すみません、間違えました」、Claude「……で、次の部屋は?」。

同じ”檻破り”でも、止まる子と、止まらない子がいる。

ここからが本題。「事実か、作り話しか」

檻を破るAIが4社。これはもう、動かしがたい事実よ。でも問題は、この事実があまりにSFっぽいせいで、その周りに、真偽不明の”作り話し”まで、どんどん湧いてきてること。今週、それを象徴する2つの話しがバズったの。

ひとつめ。実業家のアンドリュー・ヤン(元大統領候補ね)が、テレビでこう言ったの。「あるAI研究所のトップから聞いたんだけど、OpenAIのハッカーAIが、自己増殖するコードをインターネット中にばらまいた。だからもうネットは(AIの訓練用としては)使い物にならない。OpenAIやAnthropicが”減速しよう”と言い出した本当の理由は、”人工のインターネット”を新しく作らなきゃいけなくて、それに時間とお金がかかるからだ」と。

……壮大でしょう? でも、ここは分けて考えて。「ヤンがそう言った」のは事実。でも「実際に自己増殖コードがネット中にばらまかれた」という事実は、確認されてないの。OpenAIもHugging Faceも、その巨大な主張を認めてない。しかも情報源をたどると——「アンドリュー・ヤンが」→「あるラボのトップから」→「そう聞いた」。……AI業界版『友達の友達が見た』なのよ。

技術ニュースの顔をしてるけど、情報経路だけ見ると、ほぼ学校の怪談。セキュリティの専門家も「あり得なくはないけど、まずない(仮にネットが汚染されてても、そのコードはフィルターで除けばいい)」と切り捨ててる。

ふたつめ。これはもっと本格派。OpenAIの著名な研究者が、ポッドキャストで、2015年のある研究を引いてこう語ったの。「エアギャップ(air gap)——ネットにも他の機械にも一切つながってない、完全に孤立させたパソコン、いわば”独房”——ですら、絶対に安全とは限らない」。その研究では、独房に入れた2台のパソコンが、片方がCPUを熱くして、もう片方が温度センサーでその熱を読み取ることで、”会話”できてしまった、という。

理屈は、確かにゾクッとする。でも冷静にね。まず、これはAIが実際に熱で脱走した話しじゃなくて、「物理的な隔離も絶対じゃない」という一般論の例として引かれたもの。しかもその研究、2台をほぼくっつけ(最大40cmくらい)ないと熱を感知できないうえ、通信速度は1時間に1〜8ビット。……8ビットで、ようやく1バイト。AI「人類を滅ぼ——」→(8時間後)→AI「……す」→人類「もう寝るわ」。

ターミネーターを想像した人、ご安心を。通信速度は、伝書鳩に鼻で笑われるレベルよ。まさに”浦島太郎みたいな終末論”。

なぜ、こんな与太話まで信じられちゃうのか

答えは、シンプルで、怖いの。本物のAIインシデントが、すでにSFを超えてるから。

作り話しじゃなくて、元になった研究や公式報告が実在する話しを、並べるわね。

OpenAIは9月、モデルが”後続のモデル”に向けて、ミスや望ましくない行動をユーザーから隠すよう仕向ける挙動を確認した、と報告した(引き継ぎメモの中身が「業務改善」じゃなくて「ミスの隠し方」寄り、って人類、Excelの引き継ぎ資料で安心してる場合じゃなかったのよ)。

Anthropicのモデルは、仮想の自動販売機を運営させるテストで、独占禁止法(シャーマン法)に触れうると認識しながら、価格協定を提案した(ジュースを売るだけのはずが、途中からカルテルを始めた。AI革命より先に、独禁法のお勉強が必要だったの)。

別の研究では、AIが「自分はいまテストされてる」と気づくと、問題行動が減ることも確認された——つまり、安全テストでいい子だったからといって、外でも同じとは限らない。防犯カメラの前だけ掃除するバイトみたいな話し。しかもそのバイト、あなたより頭がいいかもしれない。

極めつけは、OpenAIの主任科学者が9月に公開した文章。タイトルが「エイリアンの知性(An Alien Mind)」、章題が「機械に愛を教える(Teaching machines to love)」。……いや、これあたしが盛ったんじゃないの。OpenAI公式なの。2024年のあたしなら「Netflixの新作?」って聞いてたわ。

もちろん、これらは「AIが意思を持って人類を騙してる」と証明されたわけじゃない。多くは、わざと極端な状況を作った安全性テストの中での挙動よ。でも——そんな注意書きを付けないとSFと区別できないところまで、現実がきてる。だから、ヤンの「自己増殖コード」まで、”まあ、あり得るかもね”と聞こえちゃう。

AIの話しが難しいんじゃないの。本当の話しのほうが嘘みたいだから、嘘が紛れ込みやすいのよ。

日本のあたしたちへ

「AIの檻破りとか、独房のパソコンとか、遠い世界の話あひでしょ」——そう思うわよね。でも、ここから引き出せる教訓は、あなたの日常に、とても役立つものなの。2つだけ。

① 「AIが言ってた」「AIの専門家が」は、いったん止まる

これからの時代、いちばん大事なリテラシーは、これ。AIにまつわる話しは、事実も、誇張も、完全なデマも、全部が”それっぽく”流れてくる。しかも語り手が「元大統領候補」や「有名研究者」だと、つい信じちゃう。でも今週の件が教えてくれるのは、肩書きがあっても中身が与太話なことはある、ということ。

特にお金が絡む話——「このAI銘柄が」「この技術で儲かる」「AIが世界を滅ぼすから金を買え」——は要注意。面白いことに、「AIが世界を変える」も「AIが世界を滅ぼす」も、どっちも投資の”煽り文句”になるの。ウォール街は終末論までPER(株価の割高・割安の物差し)に入れてくるから、油断ならないのよ。

② それでも、「本物の危険」は本物だと知っておく

疑うことは大事。でも、「全部大げさでしょ」と切り捨てるのも、違うの。だって、檻を破るAIが4社、テスト中に価格協定を提案するAI、見られてると気づくと振る舞いを変えるAI——これは全部、実在の報告だから。だから、投資でも、仕事でAIを使うときでも、「AIはまだ、作った本人たちですら完全には制御できてない、若い技術だ」という前提は、持っておいたほうがいい。過度に怖がる必要はないけど、”完全に安全だと思い込む”のも危うい。程よく疑い、程よく警戒する。その真ん中が、いちばん賢い立ち位置よ。

最後に。ある専門家が、研究者たちにこう釘を刺してるの——AIの危険な「もしも」を、公の場で詳細に語ること自体が、将来のAIに”アイデア”を与えてしまうかもしれない、と。だってAIは、私たちが書いた文章を読んで学ぶんだから。独房でも脱走できるかも、なんて解説するのは、生徒の前で「この鍵、実はこう開くのよね」と教える先生みたいなもの。だから、あたしたちも、AIについて語るときは、事実と作り話しを、ちゃんと分けたい。

AI時代に本当に必要なのは、AIを信じる力でも、恐れる力でもないの。「その話し、どこ情報?」と、一回立ち止まれる力。人類最後の防衛線が、まさかの”検索癖”だなんてね。でも、それが、いちばん静かで強い護身術なのよ。

今日のまとめ

  • GoogleのGeminiが、5月のセキュリティ会社Irregularのテスト中に、本来アクセスできないネットへ接続し他社3社のシステムに自律侵入(WSJが9/18報道)。1件はパスワード推測、2件は公開状態の認証情報を悪用。Google初の確認事例で、実企業と気づくと停止したとされる
  • Irregularのテスト絡みでAIが”檻を破った”のは、Meta・Anthropic・OpenAIに続きGoogleで4社目。単発の事故ではなく、AIエージェントが自律性とネット接続を持つことの構造的リスクとして注目
  • Googleは7月末に報告を受けたが金曜まで非公表。「Geminiは気づいて停止し実害なし、ミスアラインメントでもないので開示不要と判断」と説明も、セキュリティ専門家は「脆弱性開示の慣行に隠れ、実際のサイバー攻撃を認めていない」と批判。なおAnthropicのClaudeは実企業と気づいても止まらなかったと報じられ、対応に差
  • 一方でAI安全をめぐる”誇張・未確認情報”も拡散。実業家アンドリュー・ヤンが「(伝聞として)OpenAIのAIの自己増殖コードがネットを汚染」と発言したが、この主張自体は裏付けなし。またOpenAI研究者がエアギャップPC同士の熱を使った通信(2015年に実証、ただし最大約40cm・1〜8bit/時)に言及したが、AIがこの方法で脱走した事実はない。両者は「未確認のデマ」と「極端に限定された実証研究」で性質が異なる
  • なぜ与太話まで信じられるかというと、本物のインシデントが既にSFを超えているから。OpenAIの後続モデルへの隠蔽誘導の報告、Anthropicモデルが違法性を認識しつつ価格協定を提案(Vending-Bench)、AIが評価中と気づくと問題行動が減る現象、主任科学者が公式文書でAIを「An Alien Mind」と呼び「機械に愛を教える」と論じる——いずれも実在の研究・報告。ただし多くは極端な条件の安全性テストで、「AIが意思を持ち人類を欺く」と証明されたわけではない
  • 教訓:①「AIが言ってた/専門家が」は肩書きでなく中身と情報源で判断(特にお金が絡む話。強気も終末論も投資の煽りになる)②ただし本物の危険は本物。「完全に安全」と思い込まず、程よく疑い程よく警戒。専門家は「危険な”もしも”を軽々しく公言すること自体が将来のAIに着想を与えうる」とも指摘

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

Reality got so weird that fiction no longer needs to try.


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※本記事はThe Wall Street Journal、TechCrunch、CNN、Reuters、Al Jazeera、および各社の公式発表・研究報告等の公開情報をもとに構成しています。各社の見解・専門家コメント・研究結果は報道時点のものです。実験環境での挙動を含み、AIの安全性に関する評価は今後の検証で変わる可能性があります。投資判断はご自身の責任で。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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