選挙のあと株は上がる?|ウォール街の「平均15%」と、イラン・関税という2つの火種

夕焼けに染まる東京のマンションのベランダで、手すりに閉じた傘が一本立てかけられ、その横のテーブルには株価のグラフが映ったタブレットと湯気の立つマグカップが置かれていて、遠くの海の向こうの水平線には黒い雨雲が少しずつ近づいている映画的な絵画 国際情勢

「夕焼けの次の日は晴れ」

昔からの言い伝えよね。実際、天気の仕組みから見ても、それなりに理由はあるの。でも、夕焼けを見た瞬間に家中の傘を捨てる人がいたら、ちょっと心配になるでしょ。

ところが、株の世界には似たようなことを真顔でやる人がいるのよ。

「中間選挙のあとは株が上がる」

過去の統計を持ち出して、今年も上がるはずだと胸を張る。ウォール街の人たちって、未来を予測するのが仕事のはずなのに、困るとすぐ過去の通知表を持ってくるのよね。

そして明日、11月3日はアメリカの中間選挙。

今日は、この株高の言い伝えがどこまで信用できるのか。そして今年は、夕焼けの向こうにイランと関税という、なかなか物騒な雲が浮かんでいるという話しをするわ。

傘を持っていくかどうかは、最後に決めましょう。

何が決まる選挙なの?

アメリカの中間選挙は、大統領の任期の真ん中に行われる議会の選挙。下院の全議席と、上院の約3分の1が改選されるの。

今の上院は、共和党が53議席、民主党が47議席(民主党と組む無所属を含む)。下院も共和党が多数を握っているわ。

予想はどうなっているのか。予測市場のカルシでは、10月28日時点で、民主党が下院の多数派を取る確率は91%、上院は65%と見積もられていたわ。

ただし、これは世論調査の支持率じゃない。市場参加者が「どっちが勝つか」にお金を賭けた結果なの。つまり、ウォール街版の競馬新聞。

しかも、確率は毎日変わる。昨日まで本命だった馬が、今日には鼻息の荒い対抗馬になっていることだってある。予測市場は未来を映す水晶玉じゃない。お金を賭けた人たちの、その時点での集合的な予想なのよ。ブルームバーグも、民主党は有利な立場にあるものの、大勝できる保証はないと伝えているわ。

両党が訴えていることも、見ておきましょう。共和党とトランプ政権は、経済の強さや減税の成果を前面に出している。ベッセント財務長官も、強い経済が共和党の追い風になりうると話しているわ。一方、民主党は「暮らしの費用を下げる」を一番の旗印にして、物価や、戦争にかかる費用、ガソリン代を問題にしている。

もし民主党が議会の多数派を取ったら、どうなるのか。

トランプ大統領には、まだ拒否権がある。議会が「この法律を通しましょう」と決めても、大統領が「イヤ」と言えば、原則として成立しないの。報道によると、大統領は民主党の議会が通した法案には「全部、拒否権を使う」とも発言しているわ。

もちろん、議会には拒否権を覆す手段もある。ただし、上下両院それぞれで3分の2の賛成が必要。普通の多数決より、ずっと高いハードルよ。

つまり、議会が「やる」、大統領が「やらない」、議会が「じゃあ、どうするの」と言い合う可能性がある。会社だったら、全員参加の会議を3時間やって、次の会議の日程だけ決まるパターンね。

ただし、何も決まらないことが、必ずしも株式市場にとって悪いとは限らない。モルガン・スタンレーの選挙解説も、議会と大統領の「ねじれ」は大きな法律の変更を難しくすると指摘している。大きな政策変更が難しくなることを、市場が安心材料として受け止める場合もあるの。

政治家にとっての行き詰まりが、投資家にとっての平穏。なんとも皮肉な話しよね。

「選挙のあとは株が上がる」の正体

さて、本題の言い伝え。

実はこれ、単なる都市伝説でもないのよ。

モルガン・スタンレーによると、1930年以降、中間選挙後の12カ月間で、アメリカの代表的な株価指数S&P500は平均約13%上がってきた。カーソン・グループのライアン・デトリック氏の集計では、1946年以降で平均約15%。さらに、USバンクが1980年以降を調べると、平均約17.5%。

あら、どんどん成績がよくなっていくじゃない。

でも、ちょっと待って。

同じ生徒の通知表なのに、どの学年から集計するかで平均点が変わっているのよ。

もちろん、数字が間違っているわけじゃない。集計を始める年や、どの日から数えるかが違うの。

問題は、その数字を聞いた人が「じゃあ、今年も15%上がるのね!」と思ってしまうこと。

違うわよ。

あなたの証券口座に、過去の平均点をつけてくれる先生なんていないんだから。

しかも、選挙が株高の原因だと証明されたわけでもない。よく言われるのは、選挙前の「どうなるかわからない」という霧が晴れるから、という説明。でも、その間には景気も金利も会社のもうけも動いている。選挙が終わったから株が上がったのか。それとも、選挙のあとに別の好材料が重なったのか。過去の成績表だけでは、そこまでは教えてくれないのよ。

それに、モルガン・スタンレーは大事なことも言っている。2026年の株は、大統領の任期2年目としては、すでにいつもより好調だった。だから、選挙のあとの上昇の余地は、過去の平均ほど大きくないかもしれない、と。

その上昇、もう先に使っちゃっているかもしれないわよ。

そんな中、モルガン・スタンレーのマイク・ウィルソン氏は、株価の調整が終盤に近づいているとみている。S&P500はいったん7,100〜7,200まで下がる可能性がある。でも、年末の基本シナリオは8,000。

いったん下がって、それから上がる。聞いているだけなら、実に美しいシナリオよね。

問題は、株価というものが、ストラテジストの書いた台本を読んでくれないこと。

しかも、7,100から8,000まで上がれば約12.7%の上昇よ。年末までの2カ月ほどでそれだけ上がるという見立てなのだから、なかなか強気。

もちろん、プロの予測には根拠がある。でも、プロが予測したということと、予測どおりになるということは別。天気予報士が「晴れ」と言っても雨は降る。ましてやウォール街では、予報が外れても、あなたの洗濯物を取り込んでくれる人はいないのよ。

しかも今年の空には、いつもの選挙の年にはない雲が2つ浮かんでいる。

火種①:イラン

ひとつめの雲は、イラン。

10月28日、AP通信が気になるニュースを報じたの。アメリカが中東の同盟国などに対し、11月3日の中間選挙のあとにイランへの軍事行動を再開する可能性と、その報復への備えを促していたというのよ。新たな攻撃は数日間続く可能性があるとも伝えられているわ。

ちょっと待って。選挙が終わったら、今度は軍事行動の可能性?

ウォール街が「選挙が終われば不確実性が減る」と期待している一方で、中東では「選挙が終わったら何が始まるのか」と警戒している。同じ11月3日なのに、片方は株価の上昇を待ち、もう片方は攻撃への備えをしている。

ずいぶん温度差のあるカレンダーね。

ただし、ここは大事。トランプ大統領が攻撃再開を最終決定したという話しではない。報道は、事情を知らされた匿名の外交官2人の証言にもとづいている。つまり、「攻撃が決まった」ではなく、「攻撃の可能性に備えるよう伝えられた」。この違いは大きいわ。

アメリカがイランを最後に攻撃したのは9月の初め。一方で、空母を含む約9,000人規模の部隊が、ペルシャ湾に追加で送られている。アメリカ中央軍の推計では、この戦争にかかった費用は、10月16日時点ですでに471億ドルにのぼっているわ。

イランのアラグチ外相は「外交が成功する機会を与え続けている」と話していて、仲介役を通じた話し合いも続いている。アラブ首長国連邦は、両国に「知恵を働かせ、政治的な解決を」と呼びかけたわ。

それでも、可能性だけで原油市場が神経質になることはある。株式市場が選挙後のご祝儀相場を期待している間に、原油市場が請求書を持ってくるかもしれないのよ。

火種②:関税

ふたつめの雲は、関税。

実は今年、関税の地図は大きく塗り変わったの。2月20日、アメリカの最高裁は6対3で、緊急時に経済を制限する法律(IEEPA)では、大統領は関税をかけられないと判断した。それまでの多くの関税の根拠が、使えなくなったのね。

でも、関税がなくなったわけじゃない。トランプ政権には、まだ別の法律という引き出しがあるのよ。

安全保障を理由にした232条。そして、不公正な貿易のやり方に対抗する301条。

232条の関税は、鉄鋼、アルミ、自動車などにかかっている。半導体や医薬品にも広がっているけれど、こちらは対象になる品目の範囲や例外が細かく決まっていて、全部に一律にかかるわけじゃない。

7月には、強制労働への対策が不十分だとして、約60の国・地域を対象に10〜12.5%の税率を基本とする301条関税も導入されたわ。ただし、日本などは既存の関税率との調整があり、対象外の商品もある。日本の場合は、もともとの関税率と合わせて12.5%になるよう調整される仕組みよ。

最高裁に「その法律じゃダメ」と言われたら、別の法律を持ってくる。引き出しの中身が違うだけで、請求書は相変わらず届くのよ。しかも、その請求書を最終的に誰が負担するのか。アメリカの輸入企業なのか、消費者なのか、海外の輸出企業なのか。そこが、関税という政策のいちばん面倒なところなの。

ここで、中間選挙が効いてくる。1月3日に始まる新しい議会は、大統領が関税をかける権限を絞る法律をつくることもできる。ただし、法律にするには大統領の署名がいるか、拒否権を3分の2でひっくり返す必要がある。議会の多数派が変わっても、すぐに関税が消えるわけじゃないの。

日本のあたしたちへ

イランの雲は、ガソリンと電気代に届く

日本のガソリン価格は、政府の補助によって全国平均170円前後に抑えられている。

でも、この170円、原油が安くなったから実現しているわけじゃないの。政府が補助金を出して、価格の上昇を和らげているのよ。政府の燃料価格の公表では、補助がなければ210円を超える計算になっているわ。

いわば、スーパーで値札を見て青ざめていたら、レジで国が一部を払ってくれている状態。ありがたいわね。

ただし、その国のお財布も、無限ではないの。

高市首相は、12月から補助を段階的に減らしていく方針を示した。自民党は毎月5円程度ずつ引き上げることを提言していて、首相も1回5円ずつ上げる考えを示している。単純に計算すると、12月に175円、1月に180円。終わりの時期は、まだ決まっていないわ。

しかも、ここでイラン情勢がさらに悪化して原油価格が上がれば、話しはもっと複雑になる。補助を続ければ財政負担が増える。減らせば家計の負担が増える。どちらにしても、誰かがお金を払うのよ。

補助金って、魔法じゃないの。請求書の宛名と、届くタイミングを変えているだけ。

そして、その影響はガソリンだけでは終わらない。輸送費、電気代、ガス代。時間差で、いろんな値札に顔を出す可能性がある。

ちなみに政府は、電気代とガス代の補助を12月から2月までの3カ月間行う方針も示していて、標準的な家庭で合わせて約7,000円の負担が軽くなる見込みよ。冬の明細が少し軽くなるのはうれしい。でも、補助が終わる3月以降の明細も、頭の片隅に置いておいてね。

アメリカの選挙で投票できないあたしたちにも、請求書だけは国境を越えて届くのよ。

関税の雲は、日本の会社とお給料に届く

関税の影響を受けるのは、アメリカの消費者だけじゃない。

アメリカに製品を輸出している日本の会社も、値段を下げたり、利益を削ったり、売り方を見直したりする必要が出てくる。特に、自動車のようにアメリカ市場が大事な産業では、関税が会社の業績に響く可能性があるわ。

そして、会社の利益が圧迫されれば、設備投資や採用、ボーナス、賃上げにも影響が及ぶかもしれない。

もちろん、すべての会社が同じように損をするわけではない。値上げで乗り切れる会社もあれば、アメリカでの生産を増やして対応する会社もある。

でも、アメリカの議会で始まった話しが、日本の会社の会議室に届いて、最後は社員の給料明細に着地する。

グローバル経済って、ずいぶん親切よね。利益が届くかどうかは会社次第なのに、コストの話しだけは配送が早いんだから。

言い伝えに、全財産を賭けない

「中間選挙のあとは株が上がる」

そう聞いて、今のうちに買い増そうと思った人もいるかもしれないわね。

でも、ちょっと考えてみて。過去の平均が15%だったとして、今年も15%上がると誰が決めたの?

統計? ウォール街? それとも、証券口座を開くたびに祈っている自分?

過去の平均は、あなたの未来の利回りじゃないのよ。

オルカンやS&P500の投資信託を長く積み立てている人なら、選挙の結果を当てようとして慌てて売り買いする必要はないわ。もちろん、お金が必要になる時期や、どれだけの下落に耐えられるかは考えておくべき。

でも、積み立て投資の目的は、明日の株価を当てることじゃない。毎回、天才トレーダーにならなくても続けられる仕組みをつくること。

投資で毎回ホームランを狙う必要なんてないのよ。そもそも、バットを振るたびに全財産を賭けていたら、野球じゃなくて別の競技になってしまうわ。

今日のまとめ

  • 中間選挙のあとに株が上がってきたのは本当。でも平均は、どこから数えるかで変わるし、今年も上がる保証ではない
  • 予測市場の確率は、お金を賭けた人たちのその時点の予想。毎日動く競馬新聞のようなもの
  • 議会と大統領が「ねじれ」れば、拒否権で物事が決まりにくくなる。それを市場が安心材料と受け止めることもある
  • イランへの攻撃再開は「決まった」ではなく「備えるよう伝えられた」段階。それでも原油は神経質になりうる
  • 関税は最高裁の判断で一部の根拠が消えたけれど、別の法律の関税は残っている
  • ガソリン補助は請求書の宛名を変えているだけ。補助が減れば、値札は少しずつ書き換わる
  • 言い伝えに賭けず、どちらに転んでも暮らしが壊れない形にしておく

選挙が終われば、ひとつの不確実性は消える。でも、世界の不確実性が全部消えるわけじゃない。アメリカでは投票箱が閉まり、中東では外交と軍事の駆け引きが続き、日本ではガソリンの値札が静かに書き換わるかもしれない。

夕焼けを見て、明日は晴れるかもしれないと思う。それはいいのよ。でも、だからって傘を捨てる必要はない。ウォール街の予報が外れても、ずぶ濡れになるのはあなたなんだから。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

A red sky at night is a nice omen. It’s still not a weather forecast.


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※この記事は、2026年11月2日朝(日本時間)までの報道にもとづく。 ※主な出典:カルシ(予測市場、10月28日時点)、ブルームバーグ、ヘラルド経済(トランプ大統領の拒否権に関する発言)、モルガン・スタンレー(2026年中間選挙の解説、マイク・ウィルソン氏の見方・10月26日)、カーソン・グループ、USバンク、AP通信(アメリカの同盟国への警告、10月28日)、ワシントン・ポスト(戦費の推計)、アメリカ議会調査局(最高裁の判断)、米通商代表部とホワイトハウス(301条関税)、首相官邸、ロイター(ガソリン補助の縮小方針、10月29日)、燃料油価格定額引下げ措置の公表資料(補助がない場合の試算、10月26日時点)。 ※中間選挙後12カ月の平均上昇率は、モルガン・スタンレーが1930年以降で約13%、カーソン・グループが1946年以降で約15%、USバンクが1980年以降で約17.5%。集計の期間や起点の日が異なるため、単純には比べられない。 ※予測市場の確率は、その時点のもので、選挙の結果を示すものではない。 ※アメリカの攻撃再開の可能性は、匿名の外交官2人の話しにもとづく報道で、2026年11月2日時点で最終的な決定は発表されていない。 ※ガソリンの12月175円、1月180円は、約170円から毎月5円ずつ引き上げた場合の単純計算。 ※この記事は、特定の政党や候補者を支持するものではなく、特定の銘柄の売買をすすめるものでもありません。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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