この3日、あたしたちはずっと、同じ方向の話しをしてきたの。
火曜「FRBがゆるめたのに、金利は上がった」。水曜「経済が元気でも、世界中で国債が売られた」。金利は上がる、国債は売られる——ずっと、一方通行だったの。
それが昨日、くるっと逆回転したの。金利が、下がった。国債が、買われた。やっと一息……と言いたいところだけど、同じ日、円は158円台まで、さらに安くなった。「米金利が上がると円安、下がると円高」——この数日あたしたちが使ってきた説明書が、昨日は通用しなかったの。金利が下がったのに、円安。今日は、この”教科書どおりに動かなかった日”をほどくわね。
まず、何が起きたか
昨日、米国債が買われて、利回りが下がったの(利回りが下がる=債券の値段が上がる、だったわね)。10年債は、いったん2002年以来の高水準(一時5.34%近辺)まで上がったあと、そこから大きく反落。政策金利に敏感な2年債も、約10bp(0.1%)低下。この数日、上がりっぱなしだった金利が、やっとブレーキを踏んだ。
じゃあ、何が金利を反転させたの? 犯人は、ひとりじゃないの。
金利を下げた”最後の一押し”は、FRBだった
いちばん効いたのは、FRBのジェファーソン副議長の発言。「次の政策判断には、さらに時間がかかるかもしれない」。火曜に出てきたウィリアムズ総裁の”急がない”発言と、ぴったり同じ方向。利上げを焦らない空気が、二日続けて示された。
火曜ウィリアムズ「急がなくていい」→木曜ジェファーソン「もう少し時間が必要」→市場「はい、利上げ確率下げまーす」。一時は7割近くあった10月の利上げ観測が、2割台まで下がったの。FRBって、金利そのものは動かさずに、口だけで市場を動かすのよね。コスパがいいこと。
もうひとつ、相場の技術的な事情も。この数日、みんなが「国債は売りだ」と傾きすぎてたの。そういうとき、少しの反発で「売りすぎた、買い戻そう」という動きが一気に出て、反発を増幅する。利上げ観測の後退に、この買い戻しが乗っかった。
で、フランスは? ——主犯じゃないけど、ちゃんと揺らした
ここで、フランスが出てくるの。ただし、”金利を下げた犯人”ではなくて、”市場全体を不安にさせた材料”として。
いま、フランスが財政と政治の不安を抱えてる。フランス国債は売られて、利回りは一時4.96%——5%の手前まで来た。「自由・平等・博愛」は守れても、金利5%手前はなかなか博愛じゃないのよね。エッフェル塔は立ってるけど、財政への信頼は、だいぶ傾いてる。このヨーロッパへの警戒が、欧州の国債とユーロを売らせて、世界の債券・為替市場をざわつかせた。だから「フランスは無関係」ではないの。ただ、米金利を実際にひっくり返した主役はFRBで、フランスはその舞台の後ろで煙を焚いてた、くらいの距離感。
で、株は小幅高。でも、円は——
利上げが遠のいて、金利も下がった。これは株に追い風。だから株は上がった……といっても、小幅よ(S&P500 +0.19%、ダウ +0.04%、ナスダック +0.04%)。シャンパンを開けた感じじゃなくて、コンビニで缶チューハイ一本、くらいの喜び方。
問題は、円なの。米金利が下がったのに、円は弱いまま。158円台まで続落した。
「ちょっと待って。この3日、”米金利が上がる→ドル高→円安”って説明してなかった?」——そう、してた。なのに金利が下がっても、円は助からなかった。為替って、昨日までの説明書を、平気な顔で捨ててくるの。
理由は、為替が日米2人だけでやってるゲームじゃないから。昨日は、フランスを含むヨーロッパへの警戒で、ユーロが売られた(ユーロは対ドルで17カ月ぶり安値)。そこへ、高い米金利、強い米経済、原油高、中東情勢まで重なって、ドルそのものが世界的に買われたの。ドル指数(ドルの総合的な強さ)は、約3カ月ぶりの高値。「米金利の低下→ドル安」という力はたしかにあった。でも、「ユーロ不安+米経済の強さ+逃避先としてのドル→ドル高」の力が、それを上回った。しかも円の側にも、日銀がこの先どこまで利上げするのか、という不透明感が残ってる(9月会合では急ぐ意見と慎重論が割れた)。
円ちゃん、今日は何もしてないのに負けたの。飲み会に参加してないのに、翌朝なぜか割り勘だけ請求された、みたいな一日。「米金利が下がれば円高」——為替「そんな簡単なら、全員億万長者です」。
ついでに、もうひとつ不穏な数字
昨日はアメリカのISM製造業景況感も出てたの。全体は54.5で、9カ月連続の「拡大」(50超が拡大、ね)。新規受注55.3、雇用52.7と、中身はしっかり。
……なんだけど、気になる数字が隠れてた。企業の「仕入れ価格」の指数が77.9まで急上昇したの。5月以来の高水準で、イラン戦争が始まった3月の78.3に迫る水準。製造業の58.6%——6割近くが「仕入れ値が上がった」と答えてる。鉄・アルミ、関税、石油製品が主な原因、とISM自身が説明してる。
工場「注文あります!雇用も増えてます!」→仕入先「値上げします!」→工場「そこは元気じゃなくていい」。景気は元気、仕入れ値も元気。元気になってほしくないところだけ、筋トレしてるのよ。つまり、インフレの火種は、まだ消えてない。市場は利上げ確率を2割台まで下げたけど、物価のほうは、まだくすぶってる。インフレって、死んでないの。ちょっと静かだっただけ。ホラー映画で「倒した!」と思って後ろを向いたら、指がピクッと動く、あの段階なの。
日本のあたしたちへ
金利と為替がひっくり返った昨日は、実は”教訓の宝庫”なの。3つ持って帰ってね。
① 「米金利が下がれば円高」は、いつも成り立つわけじゃない
いちばんの学び。為替は、日米の金利差”だけ”で動くんじゃないの。昨日みたいに、ヨーロッパの不安でユーロが売られて、ドルそのものが世界的に買われると、米金利が下がっても円安が進む。「アメリカが利下げ方向だから、そろそろ円高でしょ」と単純に賭けると、足をすくわれる。為替は、何カ国もの通貨が同時に綱を引く、複雑なゲームなの。
② 「逃避需要」は、良いものじゃなく”マシなもの”に集まる
昨日、米国債が買われたのは、アメリカが素晴らしいからじゃなくて、「ヨーロッパよりマシ」だったから。相場の”安全資産”って、絶対的な優等生じゃなくて、「いま、いちばん大ケガしなさそうな場所」なの。世界規模の消去法。あなたの資産を考えるときも、「完璧に安全なもの」を探すより、「荒れたとき、相対的にマシなものは何か」で考えると、現実に近いの。
③ インフレの火種は、まだ消えてない
ISMの仕入れ価格指数は77.9。これは「日本のスーパーが明日値上げします」という数字じゃないの。でも、その背景にある原油、鉄、アルミなどのコスト高は、アメリカだけの話しでもない。そこへ円安が重なれば、日本は海外から買うものを円換算したとき、さらに高く払いかねない。世界「材料、高くなりました」→円「ついでに弱くなりました」→日本の消費者「聞いてない」。この組み合わせが、ちょっと怖いの。インフレって、玄関から堂々と入ってくるとは限らない。原油、原材料、為替と、別々のドアから入ってきて、最後にスーパーのレシートで集合するの。
今日のまとめ
- 米10年債利回りは一時5.34%近辺と2002年以来の高水準まで上昇したあと、大きく反落。2年債も約10bp低下し、この数日続いた債券売りにいったんブレーキ
- 反転の最後の一押しはFRB。ジェファーソン副議長が「次の政策判断にはさらに時間が必要になる可能性」を示し、ウィリアムズ総裁の”急がない”と同方向。10月利上げ観測は一時7割近くから2割台まで低下。売られすぎの買い戻しも反発を増幅
- フランスの財政・政治不安も市場を揺らした。フランス10年債は一時4.96%と5%手前まで上昇。欧州債・ユーロの重しとなり、世界の債券・為替の不安定さを増幅(主役ではなく背景材料)
- 米金利が低下したのにドルは強かった。欧州不安、高い米金利、強い米経済などが重なり、ドル指数は約3カ月ぶりの高水準。ユーロは対ドル17カ月ぶり安値。円は158円台へ続落。日銀の利上げペースを巡る不透明感も円の重し
- 米ISM製造業は54.5で9カ月連続拡大(新規受注55.3・雇用52.7と底堅い)。一方で仕入れ価格は77.9へ急上昇、5月以来の高水準で3月の78.3に迫る。58.6%が値上げを報告。鉄・アルミ・関税・石油製品が主因でインフレの火種は残る
- 株は小幅高(S&P500 +0.19%等)。「金利低下=全部安心」ではない。FRBは一度待ちそう、でも景気は強く、コスト圧力も強い。市場はブレーキを踏んだというより、いったんアクセルから足を離しただけ
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
Yields fell. The dollar rose. Your textbook would like a refund.
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※本記事はBloomberg、The Wall Street Journal、Reuters、Federal Reserve、FXStreet、ISM、CME FedWatch等の公開情報をもとに構成しています。利回り・為替・原油・株価の数値は報道時点のものであり、時間帯・計算基準により変動します。利上げ確率は市場が織り込む見通しであって確定ではありません。投資判断はご自身の責任で。


