「夕焼けの次の日は晴れ」
昔からの言い伝えよね。実際、天気の仕組みから見ても、それなりに理由はあるの。でも、夕焼けを見た瞬間に家中の傘を捨てる人がいたら、ちょっと心配になるでしょ。
ところが、株の世界には似たようなことを真顔でやる人がいるのよ。
「中間選挙のあとは株が上がる」
過去の統計を持ち出して、今年も上がるはずだと胸を張る。ウォール街の人たちって、未来を予測するのが仕事のはずなのに、困るとすぐ過去の通知表を持ってくるのよね。
そして明日、11月3日はアメリカの中間選挙。
今日は、この株高の言い伝えがどこまで信用できるのか。そして今年は、夕焼けの向こうにイランと関税という、なかなか物騒な雲が浮かんでいるという話しをするわ。
傘を持っていくかどうかは、最後に決めましょう。
何が決まる選挙なの?
アメリカの中間選挙は、大統領の任期の真ん中に行われる議会の選挙。下院の全議席と、上院の約3分の1が改選されるの。
今の上院は、共和党が53議席、民主党が47議席(民主党と組む無所属を含む)。下院も共和党が多数を握っているわ。
予想はどうなっているのか。予測市場のカルシでは、10月28日時点で、民主党が下院の多数派を取る確率は91%、上院は65%と見積もられていたわ。
ただし、これは世論調査の支持率じゃない。市場参加者が「どっちが勝つか」にお金を賭けた結果なの。つまり、ウォール街版の競馬新聞。
しかも、確率は毎日変わる。昨日まで本命だった馬が、今日には鼻息の荒い対抗馬になっていることだってある。予測市場は未来を映す水晶玉じゃない。お金を賭けた人たちの、その時点での集合的な予想なのよ。ブルームバーグも、民主党は有利な立場にあるものの、大勝できる保証はないと伝えているわ。
両党が訴えていることも、見ておきましょう。共和党とトランプ政権は、経済の強さや減税の成果を前面に出している。ベッセント財務長官も、強い経済が共和党の追い風になりうると話しているわ。一方、民主党は「暮らしの費用を下げる」を一番の旗印にして、物価や、戦争にかかる費用、ガソリン代を問題にしている。
もし民主党が議会の多数派を取ったら、どうなるのか。
トランプ大統領には、まだ拒否権がある。議会が「この法律を通しましょう」と決めても、大統領が「イヤ」と言えば、原則として成立しないの。報道によると、大統領は民主党の議会が通した法案には「全部、拒否権を使う」とも発言しているわ。
もちろん、議会には拒否権を覆す手段もある。ただし、上下両院それぞれで3分の2の賛成が必要。普通の多数決より、ずっと高いハードルよ。
つまり、議会が「やる」、大統領が「やらない」、議会が「じゃあ、どうするの」と言い合う可能性がある。会社だったら、全員参加の会議を3時間やって、次の会議の日程だけ決まるパターンね。
ただし、何も決まらないことが、必ずしも株式市場にとって悪いとは限らない。モルガン・スタンレーの選挙解説も、議会と大統領の「ねじれ」は大きな法律の変更を難しくすると指摘している。大きな政策変更が難しくなることを、市場が安心材料として受け止める場合もあるの。
政治家にとっての行き詰まりが、投資家にとっての平穏。なんとも皮肉な話しよね。
「選挙のあとは株が上がる」の正体
さて、本題の言い伝え。
実はこれ、単なる都市伝説でもないのよ。
モルガン・スタンレーによると、1930年以降、中間選挙後の12カ月間で、アメリカの代表的な株価指数S&P500は平均約13%上がってきた。カーソン・グループのライアン・デトリック氏の集計では、1946年以降で平均約15%。さらに、USバンクが1980年以降を調べると、平均約17.5%。
あら、どんどん成績がよくなっていくじゃない。
でも、ちょっと待って。
同じ生徒の通知表なのに、どの学年から集計するかで平均点が変わっているのよ。
もちろん、数字が間違っているわけじゃない。集計を始める年や、どの日から数えるかが違うの。
問題は、その数字を聞いた人が「じゃあ、今年も15%上がるのね!」と思ってしまうこと。
違うわよ。
あなたの証券口座に、過去の平均点をつけてくれる先生なんていないんだから。
しかも、選挙が株高の原因だと証明されたわけでもない。よく言われるのは、選挙前の「どうなるかわからない」という霧が晴れるから、という説明。でも、その間には景気も金利も会社のもうけも動いている。選挙が終わったから株が上がったのか。それとも、選挙のあとに別の好材料が重なったのか。過去の成績表だけでは、そこまでは教えてくれないのよ。
それに、モルガン・スタンレーは大事なことも言っている。2026年の株は、大統領の任期2年目としては、すでにいつもより好調だった。だから、選挙のあとの上昇の余地は、過去の平均ほど大きくないかもしれない、と。
その上昇、もう先に使っちゃっているかもしれないわよ。
そんな中、モルガン・スタンレーのマイク・ウィルソン氏は、株価の調整が終盤に近づいているとみている。S&P500はいったん7,100〜7,200まで下がる可能性がある。でも、年末の基本シナリオは8,000。
いったん下がって、それから上がる。聞いているだけなら、実に美しいシナリオよね。
問題は、株価というものが、ストラテジストの書いた台本を読んでくれないこと。
しかも、7,100から8,000まで上がれば約12.7%の上昇よ。年末までの2カ月ほどでそれだけ上がるという見立てなのだから、なかなか強気。
もちろん、プロの予測には根拠がある。でも、プロが予測したということと、予測どおりになるということは別。天気予報士が「晴れ」と言っても雨は降る。ましてやウォール街では、予報が外れても、あなたの洗濯物を取り込んでくれる人はいないのよ。
しかも今年の空には、いつもの選挙の年にはない雲が2つ浮かんでいる。
火種①:イラン
ひとつめの雲は、イラン。
10月28日、AP通信が気になるニュースを報じたの。アメリカが中東の同盟国などに対し、11月3日の中間選挙のあとにイランへの軍事行動を再開する可能性と、その報復への備えを促していたというのよ。新たな攻撃は数日間続く可能性があるとも伝えられているわ。
ちょっと待って。選挙が終わったら、今度は軍事行動の可能性?
ウォール街が「選挙が終われば不確実性が減る」と期待している一方で、中東では「選挙が終わったら何が始まるのか」と警戒している。同じ11月3日なのに、片方は株価の上昇を待ち、もう片方は攻撃への備えをしている。
ずいぶん温度差のあるカレンダーね。
ただし、ここは大事。トランプ大統領が攻撃再開を最終決定したという話しではない。報道は、事情を知らされた匿名の外交官2人の証言にもとづいている。つまり、「攻撃が決まった」ではなく、「攻撃の可能性に備えるよう伝えられた」。この違いは大きいわ。
アメリカがイランを最後に攻撃したのは9月の初め。一方で、空母を含む約9,000人規模の部隊が、ペルシャ湾に追加で送られている。アメリカ中央軍の推計では、この戦争にかかった費用は、10月16日時点ですでに471億ドルにのぼっているわ。
イランのアラグチ外相は「外交が成功する機会を与え続けている」と話していて、仲介役を通じた話し合いも続いている。アラブ首長国連邦は、両国に「知恵を働かせ、政治的な解決を」と呼びかけたわ。
それでも、可能性だけで原油市場が神経質になることはある。株式市場が選挙後のご祝儀相場を期待している間に、原油市場が請求書を持ってくるかもしれないのよ。
火種②:関税
ふたつめの雲は、関税。
実は今年、関税の地図は大きく塗り変わったの。2月20日、アメリカの最高裁は6対3で、緊急時に経済を制限する法律(IEEPA)では、大統領は関税をかけられないと判断した。それまでの多くの関税の根拠が、使えなくなったのね。
でも、関税がなくなったわけじゃない。トランプ政権には、まだ別の法律という引き出しがあるのよ。
安全保障を理由にした232条。そして、不公正な貿易のやり方に対抗する301条。
232条の関税は、鉄鋼、アルミ、自動車などにかかっている。半導体や医薬品にも広がっているけれど、こちらは対象になる品目の範囲や例外が細かく決まっていて、全部に一律にかかるわけじゃない。
7月には、強制労働への対策が不十分だとして、約60の国・地域を対象に10〜12.5%の税率を基本とする301条関税も導入されたわ。ただし、日本などは既存の関税率との調整があり、対象外の商品もある。日本の場合は、もともとの関税率と合わせて12.5%になるよう調整される仕組みよ。
最高裁に「その法律じゃダメ」と言われたら、別の法律を持ってくる。引き出しの中身が違うだけで、請求書は相変わらず届くのよ。しかも、その請求書を最終的に誰が負担するのか。アメリカの輸入企業なのか、消費者なのか、海外の輸出企業なのか。そこが、関税という政策のいちばん面倒なところなの。
ここで、中間選挙が効いてくる。1月3日に始まる新しい議会は、大統領が関税をかける権限を絞る法律をつくることもできる。ただし、法律にするには大統領の署名がいるか、拒否権を3分の2でひっくり返す必要がある。議会の多数派が変わっても、すぐに関税が消えるわけじゃないの。
日本のあたしたちへ
イランの雲は、ガソリンと電気代に届く
日本のガソリン価格は、政府の補助によって全国平均170円前後に抑えられている。
でも、この170円、原油が安くなったから実現しているわけじゃないの。政府が補助金を出して、価格の上昇を和らげているのよ。政府の燃料価格の公表では、補助がなければ210円を超える計算になっているわ。
いわば、スーパーで値札を見て青ざめていたら、レジで国が一部を払ってくれている状態。ありがたいわね。
ただし、その国のお財布も、無限ではないの。
高市首相は、12月から補助を段階的に減らしていく方針を示した。自民党は毎月5円程度ずつ引き上げることを提言していて、首相も1回5円ずつ上げる考えを示している。単純に計算すると、12月に175円、1月に180円。終わりの時期は、まだ決まっていないわ。
しかも、ここでイラン情勢がさらに悪化して原油価格が上がれば、話しはもっと複雑になる。補助を続ければ財政負担が増える。減らせば家計の負担が増える。どちらにしても、誰かがお金を払うのよ。
補助金って、魔法じゃないの。請求書の宛名と、届くタイミングを変えているだけ。
そして、その影響はガソリンだけでは終わらない。輸送費、電気代、ガス代。時間差で、いろんな値札に顔を出す可能性がある。
ちなみに政府は、電気代とガス代の補助を12月から2月までの3カ月間行う方針も示していて、標準的な家庭で合わせて約7,000円の負担が軽くなる見込みよ。冬の明細が少し軽くなるのはうれしい。でも、補助が終わる3月以降の明細も、頭の片隅に置いておいてね。
アメリカの選挙で投票できないあたしたちにも、請求書だけは国境を越えて届くのよ。
関税の雲は、日本の会社とお給料に届く
関税の影響を受けるのは、アメリカの消費者だけじゃない。
アメリカに製品を輸出している日本の会社も、値段を下げたり、利益を削ったり、売り方を見直したりする必要が出てくる。特に、自動車のようにアメリカ市場が大事な産業では、関税が会社の業績に響く可能性があるわ。
そして、会社の利益が圧迫されれば、設備投資や採用、ボーナス、賃上げにも影響が及ぶかもしれない。
もちろん、すべての会社が同じように損をするわけではない。値上げで乗り切れる会社もあれば、アメリカでの生産を増やして対応する会社もある。
でも、アメリカの議会で始まった話しが、日本の会社の会議室に届いて、最後は社員の給料明細に着地する。
グローバル経済って、ずいぶん親切よね。利益が届くかどうかは会社次第なのに、コストの話しだけは配送が早いんだから。
言い伝えに、全財産を賭けない
「中間選挙のあとは株が上がる」
そう聞いて、今のうちに買い増そうと思った人もいるかもしれないわね。
でも、ちょっと考えてみて。過去の平均が15%だったとして、今年も15%上がると誰が決めたの?
統計? ウォール街? それとも、証券口座を開くたびに祈っている自分?
過去の平均は、あなたの未来の利回りじゃないのよ。
オルカンやS&P500の投資信託を長く積み立てている人なら、選挙の結果を当てようとして慌てて売り買いする必要はないわ。もちろん、お金が必要になる時期や、どれだけの下落に耐えられるかは考えておくべき。
でも、積み立て投資の目的は、明日の株価を当てることじゃない。毎回、天才トレーダーにならなくても続けられる仕組みをつくること。
投資で毎回ホームランを狙う必要なんてないのよ。そもそも、バットを振るたびに全財産を賭けていたら、野球じゃなくて別の競技になってしまうわ。
今日のまとめ
- 中間選挙のあとに株が上がってきたのは本当。でも平均は、どこから数えるかで変わるし、今年も上がる保証ではない
- 予測市場の確率は、お金を賭けた人たちのその時点の予想。毎日動く競馬新聞のようなもの
- 議会と大統領が「ねじれ」れば、拒否権で物事が決まりにくくなる。それを市場が安心材料と受け止めることもある
- イランへの攻撃再開は「決まった」ではなく「備えるよう伝えられた」段階。それでも原油は神経質になりうる
- 関税は最高裁の判断で一部の根拠が消えたけれど、別の法律の関税は残っている
- ガソリン補助は請求書の宛名を変えているだけ。補助が減れば、値札は少しずつ書き換わる
- 言い伝えに賭けず、どちらに転んでも暮らしが壊れない形にしておく
選挙が終われば、ひとつの不確実性は消える。でも、世界の不確実性が全部消えるわけじゃない。アメリカでは投票箱が閉まり、中東では外交と軍事の駆け引きが続き、日本ではガソリンの値札が静かに書き換わるかもしれない。
夕焼けを見て、明日は晴れるかもしれないと思う。それはいいのよ。でも、だからって傘を捨てる必要はない。ウォール街の予報が外れても、ずぶ濡れになるのはあなたなんだから。
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
A red sky at night is a nice omen. It’s still not a weather forecast.
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※この記事は、2026年11月2日朝(日本時間)までの報道にもとづく。 ※主な出典:カルシ(予測市場、10月28日時点)、ブルームバーグ、ヘラルド経済(トランプ大統領の拒否権に関する発言)、モルガン・スタンレー(2026年中間選挙の解説、マイク・ウィルソン氏の見方・10月26日)、カーソン・グループ、USバンク、AP通信(アメリカの同盟国への警告、10月28日)、ワシントン・ポスト(戦費の推計)、アメリカ議会調査局(最高裁の判断)、米通商代表部とホワイトハウス(301条関税)、首相官邸、ロイター(ガソリン補助の縮小方針、10月29日)、燃料油価格定額引下げ措置の公表資料(補助がない場合の試算、10月26日時点)。 ※中間選挙後12カ月の平均上昇率は、モルガン・スタンレーが1930年以降で約13%、カーソン・グループが1946年以降で約15%、USバンクが1980年以降で約17.5%。集計の期間や起点の日が異なるため、単純には比べられない。 ※予測市場の確率は、その時点のもので、選挙の結果を示すものではない。 ※アメリカの攻撃再開の可能性は、匿名の外交官2人の話しにもとづく報道で、2026年11月2日時点で最終的な決定は発表されていない。 ※ガソリンの12月175円、1月180円は、約170円から毎月5円ずつ引き上げた場合の単純計算。 ※この記事は、特定の政党や候補者を支持するものではなく、特定の銘柄の売買をすすめるものでもありません。


