全部、予想どおりだった|米CPI3.4%と、何も起きなかった夜の意味

米CPIが市場予想通りとなり相場がほとんど動かなかったことを象徴するイメージ画像。予想値と実績値が並んで一致している電光掲示板と、変化のない為替チャートを配置し、数字ではなく予想とのズレで市場が動くという記事の主題を表現している一枚。 経済

「テスト、70点だった。」と子どもが言ったとき、親の反応は点数では決まらないでしょう。

90点を期待していたら、ため息。50点だと思っていたら、拍手。同じ70点なのに、返ってくる顔がまったく違うのよ。

昨夜のニューヨーク市場で起きたのが、まさにそれだったの。

まず、何が出たのか

12日に発表された7月のアメリカの消費者物価指数、いわゆるCPIね。結果はこう。

全体は前月比0.1%上昇、前年比3.4%上昇。食品とエネルギーを除いたコア指数は前月比0.2%上昇、前年比2.5%上昇だったわ。

前年比3.4%は、6月の3.5%からわずかに鈍化。コアも2.6%から2.5%へ下がったの。

ここまで読んで「じゃあ株価が上がったのね」と思うでしょう。ところが市場、ほとんど動かなかったのよ。

理由は、この4つの数字を並べてみると分かるわ。

項目結果市場予想
全体・前月比+0.1%+0.1%
全体・前年比+3.4%+3.4%
コア・前月比+0.2%+0.2%
コア・前年比+2.5%+2.5%

全部、予想どおり。0.1、3.4、0.2、2.5。

ウォール街の予想屋さん、全問正解。おめでとうございます。景品は「何も起きない相場」です。

なぜ「予想通り」だと、市場は動かないの?

ここ、投資の話しを理解するうえで一番大事なところだから、じっくり説明するわね。

多くの人はこう思うの。「物価が3.4%も上がってるなら、大変なニュースじゃないの?」と。生活実感としては、その通りよ。3.4%は決して小さい数字じゃないわ。

でも市場が反応するのは、事実そのものではなく、予想とのズレなの。

株価や為替は、これから起きることを先回りして織り込んでいるでしょう。「7月のCPIは3.4%くらいだろう」とみんなが思っていたなら、その3.4%は、発表される前からすでに値段に入っているのよ。

だから実際に3.4%と発表されても、新しい情報がゼロなの。誰も驚かない。だから動かない。

天気予報が「明日は雨」と言って、翌日ちゃんと雨が降ったようなものね。全員すでに傘を持ってるから、街の風景は何も変わらないの。

市場って冷たいのよ。「知ってた」には1円も払ってくれないの。お金になるのは、だいたい「聞いてないんだけど」のほうなのよね。

もし3.8%だったら、話しは別だったわ。予想以上のインフレなら利上げ観測が強まって、株安・ドル高・円安の方向に反応する可能性が高かったはずよ。

つまり、同じ数字でも「期待値」が違えば、相場の反応は正反対になるの。70点のテストと同じ構造ね。

これ、覚えておくと経済ニュースの読み方が変わるわよ。見出しの数字の大小より、「予想と比べてどうだったか」を先に探す癖をつけると、市場の反応が急に理解できるようになるの。

円は158円台をつけたわ。でも、一瞬だったの

為替の動きが、この「無風」ぶりを見事に表してるわ。

発表直前のドル円は159円ちょうど付近。CPIの発表直後に158円台まで円高が進んで、一時158.69円あたりをつけたの。ブルームバーグも「円は対ドルで上げ幅拡大、一時158円台」と報じたわ。

ところが、そこからすぐ159.10円あたりまで戻したのよ。その後も158.70円から159.20円のあいだで激しく振れて、結局158円台後半に落ち着いたの。

発表前が159.00円、落ち着いた先が158.80円。動いたのは20銭ほどということね。

「おっ、円高?」と思ったら、159円へお帰りなさい。エレベーターに乗って、ボタンまで押して、同じ階で降りたのよ。電気代だけ使ったわ。

株式市場と債券市場も似たようなもので、どちらも堅調に推移したけれど、大騒ぎというほどではなかったわ。9月の利上げ確率は4割弱で、据え置き予想が6割強と優勢な状態が続いてるの。

ここ、面白い読み方ができるのよ。市場のおよそ6割は「たぶん何もしない」と見ている。でも4割近くは「いや、まだ上げるかも」と思っているということでしょう。

天気予報なら、傘を持って出る数字よ。

昨日の宿題の、答え合わせよ

一昨日の記事で、こう書いたのを覚えてる? 12日のCPIが弱ければ、FRBが追加の利上げを急ぐ理由が薄れてドル高・円安の圧力が和らぐ。強ければ、また円安が進みやすくなる、と。

答えは、そのどちらでもなかったわ。第三の選択肢、「ちょうど予想通り」だったの。

専門家の受け止めも、そこで一致してるのよ。キャピタル・エコノミクスの北米担当チーフエコノミストは、今回のデータはFOMCにおいてハト派・タカ派のいずれの議論にも大きく影響するものではない、と述べたわ。オックスフォード・エコノミクスのエコノミストは、7月の全体およびコアの穏やかな結果は、FRBが今年の残りの期間ずっと政策を据え置くという自身の基本予測を裏付けるものだと指摘してるの。

つまり、誰の主張も強められなかったし、誰の主張も否定されなかったのよ。

会社の会議なら、いちばん最悪のやつね。1時間話して「引き続き注視していきましょう」で終了。あたしの人生から返してほしいわ、その1時間。

でも「無風」は「解決」じゃないのよ

ここは、はっきり書いておくわね。

CPIの前年比3.4%という数字は、決して低くないの。しかもFRBが物価目標の基準として重視しているPCEという別の指標で見ても、インフレは依然として2%の目標を上回っているのよ。

だから「CPIが3.5%から3.4%に下がった、インフレ問題は終了」ではないの。

熱が39度から38.8度になった。下がった。これは事実よ。だからって、退院届を書く医者はいないでしょう。

鈍化した。でも、治ったわけじゃないの。ここ、大事よ。

しかも中身を見ると、上昇分のおよそ3分の2を占めていたのが住居費なの。家賃は一度上がると、なかなか下がらない性質があるわ。

また、あなたなのね。物価統計界の「結局、元カレ」よ。忘れたころに、毎回出てくるの。

面白い細部もあったわ。映像・音響機器の価格が大きく上がっていて、AI向けの旺盛な需要が、一部のテクノロジー製品の価格にも波及している可能性が指摘されているの。

AIって、仕事を奪うだけじゃ飽き足らず、家電売り場の値札まで触り始めたのかしら。忙しいわね。

次は何を見ればいいの?

今日13日、卸売物価にあたるPPIが発表されるわ。企業が受け取る段階の値段を見る指標で、将来の消費者物価を考える材料のひとつになるの。ただしPPIが下がれば必ずCPIも下がる、という単純な関係ではないから、そこは慎重に見てね。

その先が9月4日の8月分雇用統計、そして9月15〜16日のFOMC本番よ。

前回7月末の会合では、政策金利が3.50〜3.75%に据え置かれたわ。5会合連続の据え置きね。でも採決は9対3。3人の地区連銀総裁が、0.25%の利上げを主張して反対票を投じたの。

12人中3人。つまり25%よ。会議室の4人に1人が「まだ締め足りません」と言っているということなの。

無風どころか、FRBの会議室では、まあまあ風が吹いてるのよね。

あたしたちの生活には、どう影響するの?

「アメリカの物価でしょ」で終わらせるにはもったいないから、押さえておくことは3つ。

① 円安の重さは、今回のCPIでは変わらなかったわ

CPIが無風だったということは、日米の金利差を動かす材料が出なかったということなの。少なくとも今回のCPIだけでは、円安の流れを大きく変える材料にはならなかったわ。

だから「CPIが下がった、円高がくる」と財布を握って成田に走らなくていいのよ。まだね。

ガソリン代も、輸入食品も、当面は今の重さのまま。「物価の伸びが鈍化した」というニュースを見ても、来月のスーパーが安くなるわけではないの。

② 「予想とのズレ」で見る癖をつけて

これ、今日いちばん持ち帰ってほしいことよ。

経済ニュースを見るとき、数字の大きさだけで判断すると、市場の動きとズレるの。「3.4%も上がった、大変」でも「3.5%から下がった、よかった」でもなくて、「予想は3.4%で、結果も3.4%だった」が正しい読み方なのよ。

この癖がつくと、次に株価が急に動いたとき、その理由が自分で分かるようになるわ。だいたい、誰かの予想が外れたときに大きく動くから。

③ 新NISAでは、こういう日こそ何もしなくていいの

無風の日って、正直つまらないでしょう。でも投資においては、何も起きない日のほうが圧倒的に多いのよ。

こういう日に慌てて売買したところで、うまくいく保証なんてないわ。むしろ「何もしなければよかった」が増えるだけ。積立をしている人は、今日も淡々と積み立てられていれば、それで満点よ。

むしろ気をつけたいのは、無風が続いたあとに何かが起きたとき。静かな日々に慣れていると、動いた日に驚いて、いちばんまずい判断をしがちなの。今日みたいな日に「相場って、こんなものよね」と思っておくのが、いちばんの準備になるわ。

今日わかったこと

  • 7月のCPIは全体・コアとも、前月比・前年比の4項目すべてが市場予想と一致した
  • 市場が反応するのは数字の大小ではなく、予想と結果のズレである
  • 円は一時158円台をつけたが、すぐに戻し、実質的な変化はほとんどなかった
  • 9月の利上げ確率は4割弱、据え置きが6割強で優勢という状態が続いている
  • 上昇分の約3分の2を住居費が占め、物価の粘り強さは変わっていない
  • 一部のテクノロジー製品の値上がりに、AI需要の影響が指摘されている
  • 前回のFOMCは9対3の採決で、12人中3人が利上げを主張していた

何も起きなかった日って、記事にしにくいのよ。暴落もしない。爆上げもしない。円も行って帰ってくる。金融メディア泣かせだわ。

でも「何も起きなかった」というのは、「問題がなくなった」という意味じゃないの。

39度が38.8度になった。下がった。よかった。だからって、退院届を書くな。

インフレはまだ高い。FRBの中では利上げを主張する人もいる。円安を支えている金利差も、今回のCPIひとつで消えたわけじゃないの。

ただ昨日は、新しい驚きがなかった。それだけ。

投資って、案外こういう日のほうが多いのよ。何もない日に、何もしない。そして、本当に何かが起きた日に慌てない。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

No surprises. No victory lap.

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※本記事はブルームバーグ、米労働統計局、Investing.com、みんかぶ等の公開情報をもとに構成しています。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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