昨夜、7月の米雇用統計が出たの。結果は非農業部門雇用者数が2万3000人の減少。市場は「8万人増えるかな」と待っていたのに、出てきた答えは「2万3000人減りました」。「8万円入金されます」と聞いて口座を見たら、2万3000円引き落とされてた感じ。
今週はずっと、介入で稼いだ時間をどう使うかが焦点だと書いてきたわ。その時間の長さを左右する材料が、昨夜ひとつ出てきたのよ。しかもこの数字、単純な「悪いニュース」じゃないところが厄介なの。
まず、何が起きたのか
非農業部門雇用者数はマイナス2万3000人。2月以来、5カ月ぶりの減少よ。中身を見ると、政府部門全体でマイナス5万3000人、なかでも地方政府の教育部門が5万人近く減ったのが効いてる。娯楽・ホスピタリティーもマイナス4万人。一方で製造・建設ではむしろ増えたわ。
ただし、この教育部門の急減には夏休み時期をめぐる季節調整の影響も指摘されていて、5万人がそのまま「学校で5万人クビになった」という意味ではないの。統計って、カレンダーのズレひとつで顔つきが変わるのよ。
そして地味に効いたのが、過去分の下方修正。5月は12万9000人増から6万3000人増へ、6月は5万7000人増から2万人増へ。2カ月合わせて10万3000人分、あとから消えたことになるわ。
速報値でシャンパン開けたら、翌月になって請求書だけ届いた感じね。米雇用統計、ときどき速報値より訂正印の方が本体なのよ。
失業率は下がったのよ。でも、喜べないの
ここが今回の一番のポイント。失業率は4.2%から4.1%へ「改善」してるの。雇用が減ったのに失業率が下がる、この一見おかしな現象には、ちゃんと理由があるわ。
背景にあるのは労働参加率の低下。61.4%まで下がってるの。つまり、失業者が大量に仕事を見つけたから失業率が下がったわけじゃないのよ。働いている、または積極的に仕事を探している人そのものが減ったことが大きいの。
失業率って、分母が「働いている人+仕事を探している人」なのよね。仕事探しをやめれば、失業者ではなく労働力人口の外へ出る。だから失業率だけ見て「労働市場改善!」と拍手するには、今回はちょっと早いのよ。
ダイエットで体重が減ったと思ったら、筋肉だけ落ちてたやつ。体重計だけ見れば「成功!」なのよ。鏡は見ないで。今日は数字だけ見ましょう。
市場は一斉に「利上げ、もうないでしょ」に傾いたわ
反応は速かったわね。市場で織り込まれていた9月利上げ確率は、5割台から4割前後へ急低下。ちなみに8月5日時点では54.8%だったから、たった2日で景色が変わった格好よ。
米国債の利回りは、政策金利に敏感な2年債を中心に低下。ドル指数も下落したわ。そして円は対ドルで1%上昇して、一時156円68銭をつけたの。株はというと、S&P500は0.6%上昇して7,757.64で史上最高値を更新、ナスダックも1.3%高。
つまり、こういうことなの。
雇用マイナス2万3000人。普通の人「大丈夫なの?」。債券市場「利上げ遠のいた!」。株式市場「最高値更新!」。ドル「じゃ、帰ります」。円「あら、出番?」。
経済ニュース、登場人物の倫理観を考え始めたら負けよ。
2万3000人分の仕事が消えて、株は史上最高値。ウォール街は、今日も人間社会との温度差がすごいわ。市場、ときどき人の不幸を養分にして元気になるのよ。悪気はないの、ただ計算が速いだけ。
でも、話しはここで終わらないのよ
冷静な材料もちゃんとあるわ。
まず、リッチモンド連銀のバーキン総裁が講演で、米労働市場について「低調なまま均衡している」との見方を示したの。労働需給は「緩んでいるわけでも、逼迫しているわけでもない」と。そのうえで、物価上昇圧力が強まれば利上げが必要になる可能性にも触れてる。つまり中央銀行側は、まだ「利上げの札」を捨ててないのよ。
しかも、FRBが安心して「じゃあ利上げやめましょう」と言えるほど、インフレ問題が消えたわけでもないの。世界の食料価格は約3年半ぶりの高水準で、国連の食料価格指数は131.1、前月比0.6%の上昇。穀物や砂糖、植物油が押し上げ要因になってるわ。黒海の主要穀物生産地域からの供給懸念に、欧州の熱波による作物被害が重なってるの。
雇用は冷えてる、でも食べ物の値段は上がってる。景気だけ見れば「もう締めなくてよくない?」。物価だけ見れば「いや、まだでしょ」。FRB、右耳から「踏め」、左耳から「離せ」と言われながらブレーキ担当してるのよ。そりゃ議長も老けるわ。
本当の答え合わせは、まだ先なのよ
だから、まだ結論は出てないの。
次は8月12日の7月CPI、翌13日のPPI。でも、これで答えが出るわけでもないわ。9月4日には8月分の雇用統計。その翌週には8月分のPPIとCPI。そして9月15〜16日にFOMC本番。
つまりFRBにはまだ、雇用1回、CPI2回、PPI2回分の材料が届くの。今日の雇用統計は最終回じゃないのよ。まだ予告編。しかも登場人物全員、顔色が悪い。
あたしたちの生活には、どう影響するの?
「アメリカの雇用でしょ」で終わらせるにはもったいないから、押さえておくことは3つ。
① 円が強くなったというより、ドルが一歩こっちへ転んできたの。こちらが走ったわけじゃない、向こうがつまずいたのよ。円安の根っこにある日米金利差は、アメリカ側が縮んでも縮む。だから今回の156円台は、日本の実力というより「相手が疲れた分だけ近づいた」距離感。156円を見て「円復活!」の横断幕を出すのは、まだ早いわ。輸入物価がすぐ楽になる話しでもないの。
② 日銀にとっては、追い風というより「時間が増えた」に近いわね。FRBが利上げしなければ、日銀が何もしなくても金利差はこれ以上広がりにくい。円安圧力が少し弱まれば、日銀は急いでカードを切らずに済むの。介入で買った時間に、今度はアメリカの雇用が延長料金を払ってくれた感じね。
③ 新NISAで米国株を持ってるなら、今回のような「悪いニュースで株が上がる」局面は判断を狂わせやすいから要注意。「株が上がった=経済が強い」ではないし、「雇用が悪い=株が下がる」でもないの。今回上がったのは、企業が突然2万3000人分賢くなったからじゃない。金利の未来が変わったからよ。株価って、ときどき会社の成績表じゃなくて、中央銀行への期待値ランキングになるの。
今日のまとめ
- 7月の米雇用統計は非農業部門雇用者数が2万3000人減、市場予想の8万人増を大きく下回り5カ月ぶりの減少
- 政府部門全体でマイナス5万3000人、地方政府の教育部門が5万人近く減少。ただし季節調整の影響も指摘されている
- 娯楽・ホスピタリティーはマイナス4万人、製造・建設は増加
- 5月と6月の雇用者数も下方修正され、2カ月合計で10万3000人分が消えた
- 失業率は4.2%から4.1%へ低下したが、労働参加率が61.4%まで下がったことが主因
- 9月利上げ確率は5割台から4割前後へ急低下、2年債を中心に米国債利回りは低下、円は1%上昇し一時156円68銭
- S&P500は0.6%高の7,757.64で史上最高値を更新、ナスダックも1.3%高
- リッチモンド連銀バーキン総裁は労働市場を「低調なまま均衡」と評価し、物価次第で利上げの可能性にも言及
- FOMC本番の9月15〜16日までに、雇用1回、CPI2回、PPI2回ぶんの材料が残っている
雇用マイナス2万3000人。失業率4.1%。株は最高値。円は上昇。
「で、結局いいニュースなの?悪いニュースなの?」
「で、結局いいニュースなの?悪いニュースなの?」
誰に聞くかによるわ。失業した人には悪いニュース、株を持ってる人にはいいニュース。同じ発表なのに、立ってる場所で答えが変わるの。
失業率は下がった。でも、仕事が増えたわけじゃない。数字が良く見えることと、状況が良くなることは、同じじゃないのよ。
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
The rate improved. The reality didn’t.
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※本記事はブルームバーグ、日本経済新聞、時事通信等の公開情報をもとに構成しています。


