マイクロソフトのグリーンカード申請停止|米国の外国人雇用規制、日本も他人事じゃない

夕暮れの高層オフィスビルの回転ドアが途中で止まり、ガラスの仕切りの間にスーツケースを持った人物が後ろ姿で閉じ込められている。会社への措置で社員の将来が止まる様子を、バーガンディとチャコールで描いたシネマティックな絵画調イラスト 国際情勢

アメリカ政府が、マイクロソフトに怒っている。

「アメリカ人を雇いなさい!」

そりゃそうよね。アメリカの会社なんだから、アメリカ人の雇用を守れという主張には、それなりの理屈がある。

ところが、怒られているマイクロソフトは、AIに巨額のお金をつぎ込みながら、人員削減も進めている。

政府は「人を雇え」。会社は「効率化します」。

人間、どこに立っていればいいのかしら。椅子取りゲームかと思ったら、椅子を作っている会社が椅子を減らし始めたのよ。

そして10月8日、アメリカ政府が切ったカードが、マイクロソフトなど8社の外国人社員向け「永住労働認定(PERM)」の手続き停止。会社の外国人雇用を問題視して、永住権の取得につながる手続きを止めたの。

でもね。

会社を叱るために手続きを止めたら、そこで働く外国人社員の将来まで止まりかねない。

会社は今日も営業中。幹部は今日も会議中。株主は今日も株価を確認中。

なのに、何年もかけてアメリカに生活を築いてきた社員だけが、人生の予定表に「未定」と書き込まれる。

会社へのお仕置きなのに、なぜか社員の人生が担保に入っている。

今日の話しは、そういう話しよ。

何が止まったのか

PERMって、名前からして難しそうでしょう。

でも仕組みはシンプル。会社が外国人社員の永住権取得を支援するとき、原則として「この仕事に就ける、条件を満たしたアメリカ人労働者が見つからなかった」と示す手続きなの。つまり、アメリカ人の雇用機会を守るための関門。そこを通過して、さらに移民申請などの手続きを進めていく。

ちなみに、すべてのグリーンカードにこの手続きが必要なわけじゃない。会社が雇用を理由に永住権を後押しするときに、一般的に通る道ね。

今回、米労働省は、マイクロソフト、アドビ、そしてコグニザント、インフォシス、タタ・コンサルタンシー・サービシズ、ウィプロ、HCL、キャップジェミニの8社について、この関門の受付と審査を停止すると発表した。新しい申請を受け付けないだけでなく、審査中の申請も処理しないと報じられているわ。

H-1Bビザそのものが停止されたわけじゃない。ここ、大事よ。

働くためのビザは別。永住権につながる手続きが止まったの。

たとえるなら、会社への入館証はまだ使える。でも、長く住むための家の契約手続きが止められたようなもの。

しかも、いつ再開するかはわからない。

不動産屋なら「審査に時間がかかっています」で済むかもしれないけれど、こっちは人生の居住地がかかっている。「少々お待ちください」の少々が、何年になるかわからないのよ。

バンス副大統領の数字

今回いちばん名指しされたのが、マイクロソフト。

バンス副大統領が示した数字は、なかなか強烈だった。マイクロソフトは2025年に約6,000人のアメリカ人を解雇する一方、約6,300件のH-1Bビザと3,000件近いグリーンカードを得ていた、というの。

6,000人を減らして、6,300件。

数字だけ見ると、まるで外国人社員と入れ替えたように見える。

でも、ちょっと待って。

H-1Bの申請件数は、新しく外国人を採用した人数と同じじゃない。既存社員の更新なども含まれるし、解雇された人とビザを申請した人が、同じ職種だったかもわからない。

マイクロソフト自身も、前年のH-1B申請の約8割は既存社員向けだったと説明している。米国の社員の大半はアメリカ人で、H-1Bの社員にも同じ仕事の人と同等の給与を払っている、とも反論しているわ。

つまり、6,000と6,300を並べただけでは、入れ替えた証拠にはならないのよ。

数字って便利よね。二つ並べるだけで、あたかも因果関係があるように見える。結婚式も挙げていない二つの数字に、勝手に夫婦の姓を名乗らせているようなもの。

もちろん、だからといってマイクロソフトの採用慣行に問題がないと証明されたわけでもない。企業の説明も検証が必要。政府の主張も検証が必要。どちらの広報資料も、聖書じゃないのよ。

そしてマイクロソフトにも聞きたい。人員削減の説明と、外国人採用の必要性を、株主にも社員にも納得できる形で説明できるのかしら。

広報部、今こそ出番よ。パワーポイントのフォントを揃えている場合じゃないわ。

同じ日に、CEOは表彰されていた

そして今回、なんとも象徴的な出来事があった。

AP通信によると、バンス副大統領がマイクロソフトの外国人雇用を厳しく批判した10月8日、同じ日に、トランプ大統領はマイクロソフトのサティア・ナデラCEOを、技術革新への貢献で表彰していたの。

片方では、会社の外国人雇用を問題視。もう片方では、その会社を率いる経営者の技術革新を称賛。

もちろん、技術革新への貢献と採用制度の適切さは別の問題よ。両方が同時に成立することはある。

でも、なかなか象徴的な一日じゃない?

社員の永住権の手続きは止まっても、経営者の表彰式は予定どおり。人生のスケジュール管理って、立場によってずいぶん難易度が違うのね。

罰は会社に、請求書は社員に

ここからが、あたしがいちばん引っかかったところ。

政府が問題視したのは、会社の採用慣行。でも、手続きが止まることで将来の計画を狂わされるのは、そこで働く外国人社員なの。

H-1Bで働いている人の中には、永住権を取るために何年も準備している人がいる。家を借りて、家族と暮らして、子どもを学校に通わせて、アメリカに生活の土台を作っている人もいるでしょう。

H-1Bには原則として6年の上限がある。永住権手続きの進み具合によっては延長できる例外もあるから、今回の停止で全員がすぐに在留資格を失うわけじゃない。ただ、在留期限や手続きの進捗によっては、長くアメリカで暮らす計画に深刻な影響が出うる。

しかも、会社を変えれば簡単に解決するとは限らない。手続きの進み具合によっては、転職でやり直しが必要になることもあるの。

ここに、ものすごい皮肉があるのよ。

政府側は、外国人労働者が企業に従属させられていると問題視している。でも、永住権への道が狭くなれば、働く人はその企業からますます離れにくくなる可能性がある。元米国土安全保障省の当局者からも、そうした指摘が出ているわ。

企業への依存を問題視して、依存から抜け出す道まで狭くしてしまう。

これ、問題を解決しているのか、問題に鍵をかけているのか。

会社を叱るのはいい。不正があるなら調べるべきだし、証拠があるなら適切に対処すればいい。でも、会社を調べることと、社員の人生を長期間止めることは、同じじゃない。

会社への請求書を、社員の郵便受けに入れないでちょうだい。しかも、その請求書には支払期限すら書いていないのよ。

そもそも、この停止は合法なのか

政府が企業を調査すること自体は、もちろんおかしな話しじゃない。外国人労働者の制度が不正に利用されているなら、調べる必要がある。

実際、米国の規則には、不正の疑いや調査に関連して、永住労働認定の審査を停止できる仕組みがある。だから、今回の措置がただちに違法だとは言えない。ソンダーリング労働長官も、制度の不正や悪用の疑いを理由に挙げているわ。

ただし、その疑いが裁判所で認定されたわけではない。そして問題は、そこから先。

どんな疑いに基づいて、どこまでの申請を、どれほどの期間止めるのか。企業に問題があるとしても、申請を待つ社員への影響をどう考えるのか。専門家からも、手続きの適正さを問う声が出ている。

議会では制度改正をめぐる議論が続いてきたけれど、今回はそれとは別に、行政の措置が先に動いた形ね。

政府には政府の説明責任があるし、企業には企業の説明責任がある。

あたしたちが知りたいのは、誰がいちばん大きな声で怒ったかじゃない。何が確認されていて、何がまだ疑いの段階なのか。

ところが政治の世界では、ときどき声の大きさが証拠の代わりになる。残念ながら、デシベルは証拠能力を持たないのよ。

日本のあたしたちへ

日本の外国人労働者も257万人。「うちは関係ない」とは言えない

さて、日本のあたしたち。「アメリカって移民に厳しいのね」で、このニュースを閉じようとしていない?

ちょっと待ってちょうだい。

厚生労働省によると、日本で働く外国人は2025年10月末時点で257万1,037人。前の年より11.7%増えて、届け出が義務化されて以降、過去最多よ。外国人を雇っている事業所も37万カ所を超えている。

もう、外国人労働者は一部の大企業だけの話しじゃない。工場、飲食店、介護、建設、物流。あたしたちの生活を支える現場のあちこちに、外国人労働者がいる。

一方で、日本では人手不足が続き、AIによる業務の効率化も進んでいる。ここで、アメリカと似た問いが出てくる。

「日本人の雇用を守る」 「人手が足りないから外国人を受け入れる」 「AIで仕事を効率化する」

どれも単独で聞けば、もっともらしい。でも、この三つを同時に進めたとき、現場では何が起きるのかしら。

日本人を雇いたい。でも応募がこない。外国人を雇いたい。でも制度は複雑。AIを入れたい。でも導入できる人材が足りない。

経営者は人手不足を訴え、働く人は雇用の不安を抱え、政府は制度の見直しを進める。全員が「人材」を語っているのに、その人材本人の話しが、なかなか聞こえてこない。

人材は表計算ソフトのセルじゃないのよ。必要になったら追加して、不要になったら削除キーで消せるものじゃない。その一人ひとりに、家賃があり、家族があり、将来の予定がある。

日本でも外国人の受け入れを議論するなら、人数だけでなく、どんな条件で働き、どんな選択肢を持てるのかまで考えたい。働く人を守る制度なのか。それとも、働く人を動けなくする制度なのか。そこは、国籍に関係なく大事な問いだと思うの。

AIで人を減らす。でも人材不足? その説明、そろそろ整理しましょ

もう一つ、日本の会社にも関係する話しがある。

AI投資と、人員削減と、人材不足。これから企業は、この三つを同時に説明しなければならなくなるかもしれない。

株主には「AIで生産性を上げます」。社員には「組織を最適化します」。採用市場には「優秀な人材が足りません」。

言葉だけ聞けば、全部きれい。でも、社員からすればこうよ。

「生産性が上がるのに、どうして私の仕事はなくなるの?」 「人材が足りないのに、どうして採用を止めるの?」

もちろん、ある仕事が減る一方で、別の専門人材が足りなくなることはある。だから、これらの説明が必ず矛盾するわけじゃない。

でも企業には、その違いを説明する責任があると思うの。どの仕事が減り、どんな仕事が増えるのか。AIで何が変わり、何が変わらないのか。そこを説明せずに「最適化」の一言で済ませるのは、ちょっと便利すぎない?

最適化。なんて美しい日本語でしょう。

人が減っても最適化。予算が減っても最適化。部署がなくなっても最適化。そのうち社長の椅子だけ残っても「組織の最適化が完了しました」と発表しそうだわ。

AIで減らすのが人件費だけなのか、それとも働く人の選択肢までなのか。あたしたちが見ておきたいのは、そこなのよ。

アメリカでのキャリアは、政治の天気にも左右される

日本からアメリカの会社で働くことを考えている人や、留学からそのまま就職を目指している人にとっても、無関係なニュースじゃない。

H-1Bからグリーンカードへ、という道は、これまで多くの人が通ってきたルート。でもその道は、本人の努力や会社の評価とは別のところで、政治の判断ひとつで止まりうる。今回、それがはっきり見えた。

だからといって、挑戦をやめる理由にはならないと思う。ただ、「会社が手続きしてくれるから大丈夫」だけに頼らず、その会社が今どんな立場にあるのか、制度がどう動いているのかを、自分の目でも見ておく。それが、自分の人生の主導権を少しでも手元に残しておくことにつながるはずよ。

今日のまとめ

  • 止まったのはH-1BではなくPERM。米政府はマイクロソフトなど8社の永住労働認定の手続きを停止した
  • 「6,000人解雇、6,300件のビザ」は政府側の主張。数字を並べただけでは、外国人との入れ替えは証明できない
  • 会社への措置が、社員の将来を左右する。永住権への道が狭くなれば、外国人社員はかえって企業から離れにくくなる可能性もある
  • 日本も外国人労働者257万人の時代。AI、人手不足、外国人雇用を別々に語るだけでは、働く人の現実は見えてこない

政府は雇用を守ると言い、会社は効率化すると言う。どちらの言葉も立派。でも、その間で働く人の人生が止まってしまうなら、何を守っているのか考えたい。会社の都合は四半期ごとに変わる。でも、社員の人生は四半期決算じゃないのよ。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

The company gets investigated. The employee gets stuck.

📖 関連記事 →

※本記事はロイター、AP通信、Axios、Newsweek、Business Insider、米労働省、厚生労働省等の公開情報をもとに構成しています。数値は報道・発表時点のものです。ビザや永住権の手続きは個別の事情で大きく異なるため、具体的な判断は専門家にご相談ください。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

Sassy Divaをフォローする
国際情勢
シェアする
Sassy Divaをフォローする
タイトルとURLをコピーしました