昨日と、真逆のことが起きたの。
「予想どおりのPPI」だったのに、株が下がった。原油が100ドルを超えて、市場が”その先”を怖がったから。
そして昨日。今度は、インフレの本丸・CPI(消費者物価)が出て、中身は「熱かった」。利上げがかなり有力になるくらいには、しつこい数字だった。なのに——株は上がったの。4日続落から、きれいに反発。
「熱いのに上がる?」——今日はこの、またしても理不尽に見える一日を、ほどいていくわね。実はこれ、相場でいちばん大事な「織り込み済み」という考え方が、まるごと詰まった一日だったの。
まず、CPIって何だったか、5秒で
CPIは「消費者物価指数」。あたしたちが実際にお店で払う値段の、平均的な動きよ。パンも、ガソリンも、家賃も、ぜんぶ入ってる。一昨日のPPI(卸売=企業間の値段)が「予告編」なら、CPIが「本編」。しかも来週のFOMC(金利を決める会合)の前に、FRBが見る最後の大きなインフレ指標だったの。だから、今週いちばん注目されてた発表よ。
数字は「表は穏やか、中身は熱い」だった
8月のCPI、まず表の数字から。
- 総合:前月比+0.4%/前年比+3.4%(どちらも予想どおり)
ここだけ見れば「はい想定内」。でも、プロが本当に見るのは、こっち。
- コア(食品・エネルギー除く):前月比+0.3%
予想は+0.2%だったから、0.1ポイント上回った。しかも7月の+0.2%から、加速してるの。コアっていうのは——食品とエネルギーという、毎月テンションが安定しない二人をいったん廊下に出して、「で、教室全体はどうなの?」を見る指標。ここが予想より熱かった、というのが昨日いちばん効いた事実。
ただし、ここは公平に付け加えるわね。今回のコア上昇、実は一部が「ワイヤレス通信サービス」という単一カテゴリの急伸(+5.9%)で押し上げられてたの。携帯の料金プラン変更みたいな、一時的で特殊な動き。エコノミストの中には「これがなければ、コアはもっと穏やかだった」と指摘する人もいる。だから「インフレ全面再燃!」と大騒ぎするには、ちょっと注釈がいる数字なのよ。
ちなみにコアを前年比で見ると2.4%で、7月の2.5%より下がってる。だから「月ごとの勢いは再加速したけど、年ベースの傾向はじわり改善」という、やや読みにくい組み合わせ。なお、総合を押し上げた主役はエネルギーで、ガソリンが+3.9%、総合の月次上昇の3分の1超を占めた。昨日の原油100ドル超えの話と、ちゃんと地続きなのよ。
で、利上げ確率が「一時9割」に跳ねた
ここが最大の変化。
CPIが出る前、市場が織り込む「来週の利上げ」確率は約7割だった。それが発表後、一時9割まで上昇。その後は85%前後に落ち着いた(通信社によって「一時90%」「その後約85%」と幅がある)。1週間前はまだ6割くらいだったから、この数日で一気に、ね。
市場「はいはい、利上げね。もう驚かないわよ」——と言いながら、まだ1割くらい”出口”を残してる。相場って、こういうところだけ妙に保険をかけるの。実際、市場関係者の中には「まだ据え置きの可能性もある」「100%ではない」と見る人もいる。だから断定はしない。ただ、風向きが「利上げ」にぐっと傾いたのは確か。もう「利上げするかどうか」より、「その先どうする?」に、市場の関心が移り始めたのよ。
なのに、なぜ株は上がったの?
ここが今日の核心。答えは、相場のいちばん大事な言葉——「織り込み済み(priced in)」。
市場って、いつも”先回り”するの。昨日のCPIが出る前、みんなこう身構えてた。「もしCPIが、予想よりずっと熱かったら…株、もっと売られるぞ」って。昨日の原油100ドル超えの記憶も生々しいし、最悪のシナリオを覚悟してたの。
ところが、フタを開けたら——コアは確かに熱かったけど、「予想よりちょっと熱い」程度。想定を吹っ飛ばすような、とんでもない数字じゃなかった。しかも同じ日に、あれだけ市場を怖がらせてた原油が反落した(米WTIは-2.4%で100.05ドル)。少なくともその日は、「原油高がさらに加速する最悪シナリオ」が後退したの。
CPI「インフレ、まだ熱いです」→市場「知ってる」→CPI「コア、予想より0.1ポイント高いです」→市場「それもまあ想定内」→原油「今日はちょっと下がります」→市場「買ええええええ!」。……経済学を勉強してない人には意味不明。勉強した人にも、たまに意味不明。それが相場なの。
これが典型的な「悪材料出尽くし」「織り込み済み」に近い動き。ロイターは、市場全体の「安堵のため息(collective sigh of relief)」とまで表現してた。ただし、株の上昇理由をひとつに決めつけるのは危険。「原油安」「悪材料の織り込み」が重なった、と見ておくのが冷静よ。
昨日の株の成績は、
- S&P500:+0.86%(7,656.98)
- ダウ:+509ドル(+0.98%、4日続落からの反発)
- ナスダック:+0.96%(26,333.04)
ただし、ここは正直に。この反発があっても、週間で見ると3指数そろってマイナス(S&P -0.8%、ダウ -1.6%、ナスダック -0.7%)。ダウは3月以来いちばん悪い週だったの。4日間ずっと売って、金曜に突然「やっぱ買う」——市場の一週間、感情の起伏が激しい彼氏なのよ。月曜「無理」、火曜「やっぱ無理」、水曜「絶対無理」、木曜「もう終わり」、金曜「会いたい」。知らんがな。
だから「全部解決してV字回復!」ではなく、「行きすぎた不安が、少し戻った」くらいに見ておくのが冷静。
ウォーシュ議長、「work to do」と言った以上、次はどうする?
今回、もう一人の主役がいるの。FRBのウォーシュ議長。
彼は先月の講演(ジャクソンホール)で、「インフレを2%に戻すのが最優先。さもなければ、やるべき仕事がある(we have work to do)」と述べた。この一言が、「利上げの可能性を、これまでより明確に示唆した」と受け止められたの。そこへ、昨日の熱いコアCPI。
市場「議長、先月”work to do”って言いましたよね?」→ウォーシュ「……」→市場「来週、会議ありますよね?」→ウォーシュ「……」。市場、圧が強いのよ。
だから来週のFOMC(9/15〜16、結果発表は16日)は、「利上げするか?」を見る会というより、その先が焦点。
「これは1回きりの利上げなのか、それとも新しい”引き締めサイクル”の始まりなのか」。
ウォーシュ議長が、この先も何回か上げるつもりなのかどうか。市場が固唾をのんで聞くのは、金利の数字そのものより、議長の”この先の地図”のほうなの。
円の話し。原油が下がって、円は買われた
為替も、この流れに反応したの。円は、153円台後半まで買われた(=円高方向。東京市場では一時153.96円をつけた)。
理由はひとつじゃないの。原油の反落による「日本の輸入コストへの安心感」に加えて、米金利の低下によるドル買いの後退、そして日銀が9月18日の会合で利上げするという観測。この複数の要因が、重なった。日本はエネルギーを輸入に頼ってるから、原油が下がると円は売られにくくなる——という長期のメカニズムはあるけれど、一日の値動きを、それだけで説明はできないの。
昨日の記事でも触れたけど、今の円は「アメリカが利上げするからドル高・円安」という、単純な図式では動いてない。日本側の利上げ観測と、原油の上げ下げ、そして米金利。いくつもの綱が、円を引っぱってる。昨日はたまたま、その多くが「円高方向」に揃った日だったってわけ。
日本のあたしたちへ
今日いちばん持って帰ってほしいのは、「織り込み済み」という考え方。
相場って、ニュースそのものより、「そのニュースを、みんながどれだけ覚悟してたか」で動くの。会社員でいえば——「ボーナスなし」と急に言われたら暴動、でも「今年もボーナスなし」なら「まあ知ってた」で済む。同じ内容でも、覚悟してたかどうかで反応が真逆になる。
昨日でいえば、インフレが熱いのは事実。でも市場はもっと悪い数字を覚悟してた。だから「思ったほどじゃなかった」で、逆に上がった。ニュースの見出しが「インフレ高止まり」でも、株が上がることがある——この一見ちぐはぐな動きの裏には、たいてい「もう織り込んでたから」があるの。
もうひとつ、実利の話し。来週はイベントが続くの。まず9月16日に米FOMCの結果。アメリカがもし利上げすれば、日米の金利差がまた少し意識される。でも同じ週、9月18日には日銀の会合(利上げ観測あり)。「アメリカが上げる」と「日本も上げるかも」が、続けてやってくる、為替にとって大きな週なの。あなたの新NISAの米国株にも、これからの住宅ローン金利にも、円安・円高で変わる輸入物価にも——つながっていく材料が、来週の数日にギュッと詰まってる。
慌てて動く日ではないわ。ただ、9/16(米FOMC)と9/18(日銀)——この2つの日付だけ、カレンダーに小さく丸をつけておく。それだけで、来週ニュースが騒いだとき、あなたは「あ、これ知ってる」って、落ち着いて見ていられるから。
今日のまとめ
- 8月の米CPIは総合が前月比+0.4%/前年比+3.4%(ともに予想どおり)。ただしコア(食品・エネルギー除く)は前月比+0.3%で予想0.2%を上回り、7月から再加速。エネルギー(ガソリン+3.9%)が総合上昇の3分の1超
- ただしコア上昇の一部はワイヤレス通信サービス(+5.9%)という単一カテゴリの急伸によるもので、「これがなければコアはもっと穏やかだった」との指摘も。コア前年比は2.4%で7月の2.5%から低下
- 来週のFOMC(9/15〜16、結果発表16日)の利上げ確率は、CPI後に一時9割へ上昇(発表前は約7割、1週間前は約6割)。その後85%前後に。焦点は「利上げの有無」から「1回きりか、引き締めサイクルの始まりか」へ
- ウォーシュ議長はジャクソンホールで「さもなければ、やるべき仕事がある(work to do)」と発言、利上げの可能性を明確に示唆と解釈。熱いコアCPIがその見方を強めた
- 株は4日続落から反発(S&P500 +0.86%で7,656.98、ダウ+509ドル、ナスダック+0.96%)。「覚悟したほどではない」+原油反落(米WTI -2.4%で100.05ドル)で、悪材料が織り込み済みに近い動き。ただし週間では3指数マイナス、ダウは3月以来最悪の週
- 円は原油反落・米金利低下・日銀利上げ観測が重なり153円台後半へ円高(一時153.96円)。来週は9/16米FOMCと9/18日銀会合が続く、為替の大きな週
- 教訓:相場はニュースそのものより「どれだけ覚悟されていたか」で動く。「インフレ高止まり」でも株が上がるのは、たいてい”織り込み済み”だから
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
Inflation was bad. Expectations were worse.
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※本記事はU.S. Bureau of Labor Statistics、CNBC、Bloomberg、Reuters、TheStreet、Yahoo Finance、CME FedWatch等の公開情報をもとに構成しています。物価・原油・金利・為替の数値は報道時点のものであり、時間帯により変動します。利上げ確率は市場が織り込む見通しであって確定ではありません。投資判断はご自身の責任で。


