「はっきりさせる(CLARITY)」という名前の法案が、はっきりしないまま死んだ|クラリティ法案、まさかの否決

明確さを掲げた暗号資産のクラリティ法案が米上院で否決され混乱のまま前進できなかった皮肉を象徴する、霧のなかで折れて途切れた「CLARITY」の道標と下落するビットコインのチャート、薄暗い連邦議会議事堂のシルエットを重ねた、バーガンディとチャコール基調のシネマティックで絵画的なデジタルイラスト 市場

昨日、アメリカで、ちょっと出来すぎた皮肉が起きたの。

「クラリティ(CLARITY)法案」という法律の案が、上院で否決された。クラリティって、英語で「明確さ」「はっきりしていること」という意味よ。つまり「暗号資産(ビットコインとかのこと)のルールを、はっきりさせましょう」という法案。

その、「はっきりさせる」ための法案が——中身でモメて、はっきりしないまま、倒れたの。名は体を表す、の真逆。今日は、この”名前からしてもう皮肉”な一件を、ほどいていくわね。

まず、この法案が「なにをしたかった」か

暗号資産って、今、ちょっと変な状態にあるの。アメリカには、お金や投資を見張る「先生」が2人いてね。一人はSEC(証券取引委員会)、もう一人はCFTC(商品先物取引委員会)。株みたいな「証券」はSEC先生の担当、金や原油みたいな「商品」はCFTC先生の担当、って役割が分かれてる。

ところが、ビットコインみたいな暗号資産は、「これって証券なの? 商品なの? どっちの先生が見るの?」が、はっきり決まってないの。だから、暗号資産の会社は、いつも不安。「今日は合法でも、明日いきなり”それルール違反です”って言われるかも」。ルールがぼんやりしてるって、ビジネスをやる側からすると、地面がぐらぐらしてる上で商売してるようなものなのよ。

クラリティ法案は、その「どっちの先生が、どこまで見るか」を、法律できっちり線引きしよう、というものだった。暗号資産の業界にとっては、何年も待ち望んだ悲願。実際、この法案を通すために、業界は数億ドル(数百億円)ものお金をロビー活動(政治家への働きかけ)に注ぎ込んできたの。

実は、このブログでも前に書いた法案なの

覚えてる人もいるかしら。少し前に、このブログで「クラリティ法案、上院の銀行委員会を通過」というニュースを書いたの。あのときは、順調に前へ進んでるように見えてた。ビットコインも8万ドル台まで上がって、「いよいよルールが整うぞ」という期待ムードだった。

でも、そこからが長かった。委員会を通っても、上院の”本会議”という最後の関門が残ってて、そこでずっと足踏みしてたの。夏休み(議会の長期休会)の前に投票するはずが、間に合わず先送り。そして昨日9月15日、ようやく回ってきた大事な投票で——落ちた。

なぜ落ちたか。カギは「60」という数字

ここ、いちばん大事なところ。

アメリカの上院(100人)には、ちょっと変わったルールがあるの。法案を前に進めるには、単なる過半数(51人)じゃ足りなくて、60人の賛成がいる場面がある(専門用語で「クローチャー」。反対派が延々としゃべって審議を止めるのを、打ち切るための票よ)。

昨日の結果は、賛成49・反対50。必要だったのは60票。……「惜しくも1票差」じゃないの。あと11票。けっこう遠い。必要なのは60票、集まったのは49票——法案の名前はクラリティ(明確)、票数だけは、びっくりするほど明確に足りなかったのよ。

しかも、ここが今回の見どころ。反対に回ったのは、野党(民主党)だけじゃなかったの。法案を推してるはずの与党(共和党)からも、4人が反対に回った(うち1人は「あとでやり直せるように」という手続き上の反対だけど)。超党派でまとめるはずの法案が、最後は自分の党すら、まとめきれなかった。クラリティ(まとまり)、どこいったのよ。

で、なぜ協力が得られなかったか——ここが皮肉の本番

暗号資産をいちばん推してるのは、実はトランプ大統領なの。「アメリカを暗号資産の首都にする」と公言してるくらい。だから普通に考えれば、トランプ人気の追い風で、法案もすんなり通りそうなものでしょう?

ところが、逆だったの。トランプ大統領とその一族が、自分たちで暗号資産のビジネスを手がけてる。すると反対派(主に民主党)は、こう主張した。「ちょっと待って。この法案でルールを作ったら、それって、法律を作る側にいるトランプ一族が、自分で得するんじゃないの? そこ、もっと厳しく縛るべきでしょ」。

法案には、そういう「政治家が自分の利益のためにルールを歪めないための”倫理条項”」をどこまで入れるか、という論点があって、そこで賛成派と反対派が最後までモメてた。推進派は「もう十分、民主党の要望を入れて直した」と言い、民主党は「まだ足りない」と返す。法案の生みの親のひとり、ルミス上院議員は「民主党はいつも”もっと”を求める。キリがない」とぼやいてた。

つまり——トランプは暗号資産を強く推してる。ところが、トランプ一族自身が暗号資産ビジネスを持っていることで、「利益相反(自分が得するようにルールを作ってない?)」の懸念が生まれ、それが法案交渉の大きな争点になった。アクセルを踏んでる本人が、ブレーキの議題にもなってる。アメリカ政治、いちど車検に出したほうがいいわね。

もうひとつの争点は「暗号資産 vs 銀行」

倫理条項のほかに、もうひとつモメたのが、ステーブルコイン(価格が安定するよう作られた暗号資産)の扱い。

銀行側が、こう警戒したの。「もしステーブルコインに利回り(持ってるだけで増えるおまけ)をつけたら、みんな銀行預金を引き出して、そっちに移しちゃうんじゃない?」。銀行にお金が集まらなくなると、地方の融資なんかも細る、という心配ね。……未来のお金のルールを決める会議のはずが、やってることは、暗号資産と銀行の「お客の取り合い」。資本主義、通常運転です。

市場は、結果を待ってくれなかった

こういうニュースに、相場はとても素直なの。しかも今回、面白いのは——市場は投票の”結果”を待たずに、先に動いてたこと。

「どうやら法案は通らなそうだ」という見方が強まるにつれ、ビットコインは投票の前から、じりじり下落。15日には一時7万5,000ドルを割り込んで、直近の安値をつけた。そして投票で否決されたあとも、弱い動きが続いたの。暗号資産の取引所や関連企業の株も、そろって下落(Coinbaseは約7%安、Circleは約8%安)。ウォール街は、結果発表を待たない。失望まで、先物取引しちゃうのよ。

ちなみに、ビットコインを大量に持つことで有名なStrategy社のマイケル・セイラーさんは、こういう局面でも一貫して強気。「唯一必要なクラリティ(明確さ)は、ビットコインだ」という趣旨を、前から繰り返してるの。法律なんかなくても、ビットコインそのものが答えだ、と。法律「ルールを作りましょう」、セイラー「ビットコインは別にいらない」——会議に呼んだら、一人だけ宗教が違った、みたいな話しよ。

で、この法案はもう「死んだ」の?

正直に言うわね。タイトルには「死んだ」と書いたけど、厳密には、法案そのものが正式に消滅したわけじゃないの(反対した議員の一人が、あとで再考できるようにする手続きを付けてる)。正式には、まだ死んでない。ただ——脈は、かなり弱いわ。

今年の11月には中間選挙があって、そのあと議会の勢力図が変わる可能性もある。だから、今の議会のうちに成立させる道は、今回の否決でかなり厳しくなった。法案の生みの親のルミス議員は、以前「今の議会で逃せば、次に本格的にルール作りを進められる機会は、2030年までこないかもしれない」と警告してた(ただし、これは今後の議会構成しだいで、2030年まで絶対に無理と決まったわけじゃない)。

その間、暗号資産はどうなるか。「法律」という、いちばん強くて長持ちするルールがないまま、SEC先生とCFTC先生が、それぞれ場当たり的に「これはOK、これはダメ」と指示を出す状態が続くの。でも、先生の”その日の指示”は、”校則”ほど重くないでしょう。先生が代われば、方針も変わりうる。暗号資産の会社は、また当分、ぐらぐらした地面の上で商売を続けることになる。

日本のあたしたちへ

「アメリカの暗号資産の法律でしょ。日本のあたしには関係ないわ」——そう思うわよね。でも、2つだけ知っておくと、見え方が変わるの。

ひとつめ。実は日本、この分野では”先輩”なの。日本は早くから暗号資産のルール整備を進めてきた国で、取引所の登録制度なんかも、アメリカよりずっと前から整ってる。だから今回の「アメリカがまだルールで揉めてる」というニュースは、裏を返せば「世界最大の経済大国が、実はこの分野では後発で、しかも政治のゴタゴタで足踏みしてる」という話し。日本にいると当たり前に感じるルールが、アメリカではまだ”作れていない”——この意外な逆転は、覚えておいて損はないわ。

ふたつめ。暗号資産を持ってる人、あるいはこれから買おうか迷ってる人へ。今回の一件が教えてくれるのは、「暗号資産の値段は、技術やチャートだけじゃなく、”政治”と”規制”でも動く」ということ。現に今回、法案の成立期待が後退しただけで、ビットコインも関連株も大きく下げたでしょう。株なら決算を見る、暗号資産ならチャートを見る……と思ったら、ワシントンのおじさんたちの投票まで見なきゃいけない。投資家、忙しすぎるのよ。ルールがまだ固まりきっていない若い市場は、大きく儲かる可能性もあるけど、その分、政治の一言で価格が数%飛ぶ、揺れの大きい世界。もし手を出すなら、”なくなっても生活が傾かない金額”の範囲で。未完成な遊び場は、楽しいけど、ヘルメットは自分でかぶるしかないのよ。

「はっきりさせる」はずの法案が、はっきりしないまま倒れた。でも、あたしたちにできることは、はっきりしてるの。世界のルールがどう転ぼうと、自分が扱える範囲を、自分で決めておくこと。それだけは、誰かの多数決に左右されないでしょう。

今日のまとめ

  • 9/15、米上院で暗号資産の市場構造法案「クラリティ(CLARITY)法案」を前進させる手続き投票(クローチャー)が否決。賛成49・反対50で、必要な60票に届かず。反対には全民主党に加え共和党4人(うち1人は手続き上の反対)も回った。法案自体が正式廃案になったわけではない(再考の動議あり)が、中間選挙と議会日程を考えると今議会での成立はかなり厳しくなった
  • 法案の目的は、暗号資産を「証券(SEC所管)」か「商品(CFTC所管)」かで線引きし、どちらの規制当局が監督するかを法律で明確化すること。業界が数年・数億ドルを投じてきた悲願だった
  • 最大の争点は、トランプ大統領および一族の暗号資産事業をめぐる利益相反・倫理条項をどこまで厳しくするか。推進派は「十分修正した」、民主党は「まだ足りない」と最後まで折り合えず。加えて、ステーブルコインの利回りが銀行預金を流出させる懸念(暗号資産 vs 銀行)も対立点
  • 市場は投票結果を待たずに反応。成立期待の後退でビットコインは投票前から下落し、15日に一時7.5万ドルを割った。否決後も軟調で、Coinbase約7%安・Circle約8%安など関連株も下落。「否決だけで4%下落」ではなく、否決懸念から投票失敗までの一連で売られた
  • 今後の見通しは厳しい。推進派のルミス議員は「今議会で逃せば次の本格的機会は2030年まで来ない可能性」と警告(ただし今後の議会構成しだい)。連邦法がないまま、SEC・CFTCが個別に規制を出す不安定な状態が続く(当局の指針は法律ほど重みがない)
  • 日本への視点:日本は暗号資産のルール整備で先行してきた”先輩”格で、米国が政治のゴタゴタで足踏みするのは意外な逆転。暗号資産は技術やチャートだけでなく「政治・規制」でも動く若い市場。政治の一言で数%動く揺れの大きさは知っておきたい

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

They named it Clarity. It died in confusion.


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※本記事はNPR、AP通信、CoinDesk、CNBC、Axios、Reuters、Coinpedia等の公開情報をもとに構成しています。投票結果・価格などの数値は報道時点の速報値であり、最終確定値や時間帯により変動する場合があります。投資判断はご自身の責任で。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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