あのね、今日はちょっといい話しから始めさせて。数字の前に、ドラマがあるのよ。あたし、経済ニュース読んで泣くタイプじゃないの。基本は「はいはい、また株価ね」って人間なんだけど、今日はちょっと例外。
7月15日、エヌビディアのジェンスン・フアンCEOが来日したの。時価総額約5兆ドル(約800兆円)、世界で一番高い会社のトップよ。
もはや大企業のトップというより、”歩く経済圏”よ。秋葉原に現れて、道行く人がスマホを向けて、まるでロックスターの来日公演。もうね、スマホを向ける速度だけなら、日本人はGPUより高速だったわ。
彼が言ったの。「今週は”ジャパンAI”の幕開けの週になる」「16日が、日本AIの始まりの日だ」って。
そして翌16日、彼はほんとうに”始まりの日”を作っちゃったの。国産AIの新会社、1兆円の国家支援、名門企業がずらり——中身はあとでたっぷり見るわね。でもその前に、なぜこの訪問がこんなに”エモい”のか。それを理解するためには、30年前の話しがあるの。
30年前倒産寸前のNVIDIAを救ったのは、日本の会社だった
時をさかのぼって1990年代。まだNVIDIAは、名前も知られてない小さなスタートアップだったの。
1993年、若きジェンスン・フアンは、セガのアーケードゲーム「バーチャファイター」の3Dポリゴン技術に惚れ込んだ。あの頃ゲームセンターにいた少年少女の誰が、「このポリゴンに人生を変えられる会社が生まれる」なんて思うのよ。
翌年セガを訪ねて、そこから縁が始まったのよ。
NVIDIAは、セガの家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」のGPU開発パートナーに選ばれた。ところが——新型チップの開発が難航したの。技術的に、どうしても間に合わない。フアンは決断して、セガのもとを訪れたわ。「契約を、解除してほしい」って。
これね、当時のNVIDIAにとっては自分で自分に倒産宣告をしに行くようなものだったの。契約が飛べば、会社が終わる。自分の足で断頭台に上るような、そんな謝罪だったわ。
普通の会社なら、「ご迷惑をおかけしました」で終わる話し。でもこの日は、「ご迷惑をおかけしました。あと会社も終わります」のセットだったのよ。
でも、当時のセガの入交昭一郎社長がしたことが、すごいの。契約解除を受け入れたうえで、当初の契約分の支払いをして、さらに追加出資までしたのよ。泣きそうな顔で謝りに来た若者に、「もう一度チャンスをあげたい」と。今だったらコンプライアンス会議だけで半年終わりそうな決断よ。
これでNVIDIAは倒産を免れたの。
その後の話しは、あなたも知ってる通り。NVIDIAは新商品をヒットさせ、1999年に上場。GPUの覇者になり、AIの時代の中心になり、そして時価総額世界一へ。あの時救った会社が30年後、「世界一です」。
……人生、伏線回収うますぎない? ……つまりセガは、いまや世界一の会社の”命の恩人”なのよ。フアンは今もその恩義を、折に触れて語ってる。今回の秋葉原イベントでも、当時の関係者を前に、20分間セガへの愛を語り尽くしたんですって。
こういう義理堅さ、なんかグッとくるでしょ。
世界一になると、昔の知り合いを「知らない人です」って顔し始める人もいるじゃない。フアンは真逆だった。
世界一になっても、駆け出しの頃に手を差し伸べてくれた相手を忘れない。ビジネスの世界って冷たいと思われがちだけど、たまにこういう温かい話しがあるのよ。
で、その恩人の国に「AIを始めよう」と言いに帰ってきた
そんなフアンが、16日にやったことがすごいの。ひとつずつ見ていくわね。ここが今回のニュースの本体よ。
その1:国産AIの新会社「ノエトラ」が本格始動。 ソフトバンクが旗を振って、ソニー・ホンダ・NEC——名前を聞いたことある会社が44社よ。日本企業って普段は会議室で「検討します」を検討してるイメージなのに、今回だけはちゃんと集まった。目的は、日本独自のAIの「頭脳」を自分たちの手で作ること。これまで日本は「AIはアメリカに作ってもらうもの」みたいな空気だったから、44社が本気で国産をやると手を挙げたのは、けっこうな事件よ。
その2:国が最大1兆円を出す。 これ、国民の税金からよ。1兆円って聞いてもピンとこない? 大丈夫。あたしも途中からゼロを数えるの諦めた。しかもその一部で、エヌビディアの次世代AI半導体「ルービン」を約2万7500基買う。Amazonで「数量:27,500」って入力したら、たぶん確認画面が一回増えるやつよ。国がまとめて買う規模としては世界最大級。2028年には堺市(大阪)に専用の計算拠点を作るんですって。国が「AIにここまで賭ける」と腹をくくった、その本気度がこの数字に出てるの。
その3:富士通とロボット3社がタッグ。 ファナック、安川電機、川崎重工——日本のロボットの名門3社が、富士通と組んでフィジカルAIをやる。そこにエヌビディアが技術で乗っかる。役割分担はこう。エヌビディアがAIの土台、富士通が頭脳の部品とソフト、ロボット3社が実際に動く体。頭脳と体を持ち寄って、”考えて動くロボット”を工場に入れるという座組みね。
で、この「フィジカルAI」って言葉。今日いちばん大事だから、ちゃんと噛み砕くわ。
フィジカルAIっていうのは、AIがロボットや機械を自分で判断して動かす技術のこと。今あなたがスマホで話しかけてるAIは、画面の中でおしゃべりするだけでしょ。つまり今のAIは口だけ。フィジカルAIは口だけじゃなくて、ちゃんと動くの。工場でネジを締めたり、倉庫で荷物を運んだり、病院で介助したり。頭だけだったAIに、手足がついたと思えばいいわ。……このアップデート、人間にも欲しい人いるわね。
そしてもうひとつがソブリンAI。「国家の知能は、国内で育成し、強化し、発展させなければならない」——フアンはこう言ったの。難しく聞こえるけど、要は「AIっていう頭脳を、よその国に借りっぱなしにするな。自分の国で持て」ってこと。
国の頭脳までサブスクで他国に月額課金する時代じゃない、ってことよ。食糧を全部輸入に頼ってる国が、いざというとき困るのと同じ。頭脳も自給しなさい、という話しなの。フアンは「国家規模のAIインフラを構築する取り組みだ」「ジャパンAIが次の産業革命をけん引する。提携できることを光栄に思う」とまで言ったわ。
……ちょっと待って。9カ月前まで日本を素通りしてた人が、この持ち上げよう。手のひら、返ってない? そう思ったあなた、正常よ。あたしも最初に思ったもの。「え? 数か月前まで既読スルーだったじゃない」って。
その話しを次にするわね。
なぜ今さら日本? 実は少し前まで「素通り」されてたの
ここでちょっと、ほろ苦い背景も正直に話しておくわね。
実はフアン、少し前まで日本を思いっきりスルーしてたの。
今年5〜6月、彼は中国・台湾・韓国をせっせと歴訪して、「台湾はAI革命の中心だ」「韓国のパートナーに感謝を」ってあちこちで賛辞を惜しまなかった。なのに、日本には寄らなかったのよ。この”素通り”に、日本のメディアは「ジャパン・パッシング(日本外し)」って気を揉んだの。半導体で世界をリードしてたはずの日本が、AI時代には脇に置かれるんじゃないか、って。
それが今回、9カ月ぶりの公式訪問で、しかも新会社に半導体2万7500基、名門企業ずらり、「日本AIの始まり」ときた。
恋愛でいうなら「急に優しくなった元彼」、ビジネスでいうなら「急に電話してくる世界一企業」。どっちも、優しくなった理由は確認したほうがいいやつよ。手のひら返し? いえ、そこはビジネスよ。
フアンが日本に商機を見出したから帰ってきた、というのが実際のところ。愛より利益。……いや、言い方が悪いわ。
でも企業って、そのくらいでちょうどいいの。義理だけで動く相手より、「あなたと組むと得だから組む」と言う相手のほうが、実は長続きするのよ。
じゃあその商機って何? っていうのが、あたしたちの生活にも関わる話しなの。
日本への影響
さて、この派手なニュースが、あたしたちの財布や暮らしにどう効いてくるのか。
なぜエヌビディアは日本に商機を見たの?
フアンが日本に目をつけた理由は、けっこう現実的よ。フィジカルAI——つまりAIで工場やロボットを動かす技術には、高性能半導体だけじゃなくて、データセンター、電力、通信網、そしてロボットや工作機械が必要なの。
ここで日本の出番。日本は半導体材料、製造装置、精密機械、産業用ロボットに、世界トップクラスの強みを持ってるのよ。ファナックや安川電機みたいなロボットの名門もいる。
エヌビディアからすれば、日本は「自社の半導体とソフトを、日本の優秀な製造設備に組み込んで、フィジカルAIを広げられる市場」なの。
チップを売る相手、というより一緒にモノを作るパートナーとして見てるってこと。これは日本の製造業にとって、AI時代に取り残されずに済む大きなチャンスよ。
あたしたちの生活には、じわじわ効いてくる
正直に言うと、この提携で明日あなたのスーパーの値段が変わるわけじゃないわ。でも、もう少し長い目で見ると効いてくるの。
日本の製造業がフィジカルAIで生産性を上げれば、人手不足の解消につながる。工場や物流が自動化されれば、モノの供給が安定して、めぐりめぐって物価にも効く。
何より、日本経済が「AIで遅れた国」になるか「AIで巻き返した国」になるかは、あたしたちの給料にも、円の強さにも、じわじわ響いてくる話しなのよ。
もう少し具体的に言うわね。会社が生産性を上げるって、要は「同じ人数でより多く稼げる」ってこと。「AIが働く」って聞くと未来感があるけど、要するに「人間が残業したくない」を技術で解決する話しでもあるのよ。
会社が稼げば、理屈のうえでは給料に回せるお金も増える。日本の給料が長いあいだ上がらなかった理由のひとつが「生産性が伸び悩んだから」と言われてるくらいで、そこにAIという新しいテコが入るかもしれない、というのが今回の隠れた見どころなの。
もちろん「AI導入しました。はい来月から月給10万円アップです」なんて単純な話しじゃない——そんな会社があったら、あたしが先に履歴書を送るわ。逆に「自分の仕事がロボットに置き換わる」という不安もセットよ。
でも、国と44社が1兆円かけて本気で動き出したという事実は、あたしたちの働き方や財布の、結構深いところに関わってくる。ニュースを「へえ、すごいね」で流すか、「これ、数年後のあたしの給料の話しかも」と受け取るかで、同じニュースの重みが変わってくるのよ。
それに、投資という目線でも無関係じゃないわ。エヌビディアは新NISAで米国株や全世界株を買ってる人なら、まず間違いなく間接的に保有してる銘柄。世界一の時価総額だからね。
そのエヌビディアが日本と組んで、しかも今回は組む相手の名前まではっきり出た——ファナック、安川電機、川崎重工、富士通、ソニー、ホンダ、NEC。半導体材料や製造装置の会社も含めて、こういう「フィジカルAI関連」に世の中の視線が集まるきっかけになるの。
「ニュースを見た」と「誰が得するニュースかを見た」。この差が、投資では案外大きかったりするのよ。
もちろん「だから買え」なんて言わないわよ。ただ、ニュースの裏で誰が名指しされたか、その地図を持っておくのは損じゃないってこと。地図を持ってる人と持ってない人だと、同じニュースを見ても見える景色が違うのよ。
まとめ:義理を忘れない世界一と試される日本
今回の主役は、数字じゃなくて物語だったわね。30年前、倒産寸前だった小さな会社が、日本のセガに救われた。その会社が世界一になって、恩人の国に帰ってきて、44社の連合軍と1兆円の国家プロジェクトを置き土産にしていった。
ドラマとしては、これ以上ないくらい綺麗な筋書きよ。しかも今回は「発表するらしい」という予告じゃなくて、ほんとうに全部発表された。有言実行、かっこいいじゃない。
でもね、綺麗な物語に酔ってるだけじゃダメなの。ここからは日本の番よ。
1兆円と半導体2万7500基を手にしても、それを使いこなして本当に「AIで動く工場」を実現できるかは、まったくの別問題。ダイエット器具って、届いた日がいちばん痩せてる気分になるじゃない。日本がAIでそうならないことを、あたしは祈ってるわ。
だからあたしはこう見てる。フアンが日本に来たのは、義理だけじゃなくて、ちゃんと商機があるから。逆に言えば、日本がその商機に応えられなければ、また”素通り”される日がくるかもしれない。
ジャパン・パッシングは終わったんじゃない。今はまだ「日本、3か月の試用期間です」——そんな空気にも見えるのよ。世界一の会社は、恩義に厚い。でも同時に、シビアにチャンスを計算してる。人間(と企業)って、そういう温かさと打算を、平気で同時に持てるものなの。そこがまた、面白いんだけどね。
続きは、堺の計算拠点が動き出す2028年——と言いたいところだけど、たぶんその前に何度もこの物語には続きが出るわ。
恩義だけでは、世界一にはなれない。でも、恩義を忘れない世界一は、ちょっと格好いい。
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
The company Japan once saved came back carrying the future.
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※本記事はブルームバーグ、ロイター、日本経済新聞、共同通信、ファミ通、東洋経済等の公開情報をもとに構成しています。


