昔むかしの王国では、いちばん偉いのは誰だったと思う?
金を掘る人でも、剣を振る人でもないの。その人たちに「道具」を売ってた商人よ。誰が戦争に勝っても、誰が金を掘り当てても、道具はみんなその商人から買う。だから王国で何が起きても、いちばん確実に儲かるのは、その人だったの。
いま、AIの世界で、まさにその「道具屋の王様」が誕生したの。名前はNVIDIA(エヌビディア)。昨日、その戴冠式みたいな一日があったから、今日はその話しをするわね。
王様は、一日で60兆円ぶん大きくなった
NVIDIAっていうのは、AIを動かすのに絶対に必要な「特別な計算チップ」を作ってる会社。世界中のAI企業が、このチップがないと何も始められない。だからAIブームのど真ん中で、いちばんおいしい場所に座ってるの。
昨日、その会社が成績表(決算)を発表したの。中身がとんでもなかった。売上が1年前の2倍以上。しかも「次の年もさらに7割くらい増える見込み」って言い切った。この7割って、市場が予想してた4割台を大きく上回る強気の数字なの。
おまけに、この強気には理由があって、注文が多すぎて作るのが追いついてないの。売れない悩みじゃなくて、作れない悩み。うらやましすぎるでしょ。
これを聞いた投資家たちが色めき立って、株を買いまくったの。その結果、NVIDIAの会社の価値が、たった一日で約4420億ドル(日本円で60兆円超)も増えたの。これ、歴史上2番目に大きい「一日の増え幅」なんですって。
一晩で、そのへんの大企業がまるごと1個生まれたくらいの価値が、ポンと増えた。王様の風格よ。
そのころ、別の大物は王冠が傾いていた
ところがね。同じころ、まったく逆のことが起きてた会社があるの。グーグルの親会社、アルファベットよ。
NVIDIAが一日で60兆円ふくらんでいたそのころ、アルファベットは会社の価値を約6920億ドル(日本円で100兆円規模)も失っていたの。ただし、こっちは一日で消えたわけじゃない。5月につけた過去最高値から、約3カ月かけて、じわじわ、じわじわとしぼんでいった累計なの。
同じAIの世界で、片や一日で急上昇、片や3カ月かけてズルズル下落。明暗がくっきり出たわけ。
なんでアルファベットはしぼんだのか。ここが今日の一番大事なところなの。
実はアルファベットも、AIにものすごいお金を注ぎ込んでるの。今年の設備投資は1950億〜2050億ドル(30兆円規模)の計画。ものすごい金額でしょ。
でも投資家は、その金額を見て喜ぶどころか、不安になったの。「30兆円使います」って言われて拍手する時代は、もう終わったのよ。次にくる質問はこれ。「で、それ、いつ元が取れるの?」
しかも、その横から、グーグルのAI開発を長年支えてきた優秀な研究者たちまで辞めて出ていっちゃった。お金は出ていく。人も出ていく。追いかけてくるライバル(OpenAIやAnthropic)もいる。
投資家の顔から笑顔が消えるには、十分すぎる材料よね。
王様と家臣の、決定的な違い
ここで、さっきの王国のたとえに戻るわね。
NVIDIAとアルファベット。実はどっちも「AIに巨額を賭けてる」という点では同じなの。なのに、なぜ片方は王様で、片方は傾いた家臣なのか。
答えはシンプル。立ち位置がちがうの。
アルファベットは、自分のお金でAI用の巨大な施設を建てて、自分でAIを作ろうとしてる「賭ける側」、つまりプレイヤー。うまくいくかどうか、まだわからない。だから疑われる。
一方NVIDIAは、その賭けをする人たち全員に「道具」を売る側なの。
もちろん、グーグルもアマゾンもマイクロソフトも、自前のチップを作ってNVIDIA頼みから抜け出そうと必死よ。でも今のところ、世界のAI開発の多くは、まだまだNVIDIAのチップに大きく頼ってる。
ここが恐ろしいところ。AI競争で誰が勝つかは、まだ誰にもわからない。Anthropicかもしれないし、グーグルかもしれない。来年ぽっと出てくる、今は名前も知らない会社かもしれない。でもね、その人たちが激しく戦えば戦うほど、計算のための道具がもっと必要になる。そして、その大量の注文のかなりの部分が、NVIDIAに流れ込む。
ゴールドラッシュで、誰が金を掘り当てるかは分からない。でも、全員がスコップは買う。そのスコップ屋さんが、いまや5兆ドルを超える会社になったの。
家臣たちは今日も戦う。王様はレジを打つ。いい商売よね。
王様は、今度は広場まで買おうとしている
しかもNVIDIA、スコップを売るだけじゃ満足しなくなってきたみたいなの。
今度は、人が集まる「広場」まで買おうとしてる。「Hugging Face(ハギング・フェイス)」っていう会社よ。
これ、どういう場所かというと——いろんな会社や研究者が、作ったAIの部品を持ち寄って共有する、巨大なプラットフォームなの。いわば「AI業界の公民館」。特定の一社のものじゃなくて、誰でも使える中立的な場所、というのがウリだったの。
その公民館を、NVIDIAが約129億ドル(2兆円近く)で買うことで合意した、とThe Informationという媒体が報じたの。ただし、ここは慎重にね。まだ正式発表はされてなくて、別の報道では「契約はまだサインされてない」ともされてる。つまり「ほぼ固まってるらしいけど、確定ではない」段階よ。
でも、もし成立したら、なかなか象徴的でしょ。道具を握ってる王様が、今度は「みんながAIを持ち寄る場所」まで自分の領土に加えることになる。スコップ屋さんが儲かりすぎて、とうとう金鉱のふもとの町まで買い始めた、みたいな話し。
王様、領土拡大が止まりません。
日本のあたしたちへ
「アメリカの巨大企業同士の話しでしょ、遠い世界ね」って思うわよね。でも、あなたの新NISAやiDeCo(積み立て投資)を通じて、意外と近い話しなの。
もしあなたが、アメリカの株全体に投資する商品(S&P500とかオルカンとか)を積み立ててるなら、その中にはNVIDIAもアルファベットも入ってる。だからあなたの資産の中では、NVIDIAが伸びる日もあれば、アルファベットが沈む時期もある。両方持ってるからこそ、片方の不調をもう片方が補ってくれる、とも言えるわね。
ここで大事な教訓がひとつ。NVIDIAが今どれだけ絶好調でも、それは「これからも絶対安泰」を約束するものじゃないの。王様の座って、実は結構ぐらつくものだから。
たとえば、今回NVIDIAの弱点としてチラッと見えたのが「メモリ」っていう部品の値上がり。チップを作るのに必要なこの部品の値段が上がってて、王様といえども、利益がじわっと削られ始めてるの。それに、さっき言ったとおり、家臣たちは自前のチップを作って王様への貢ぎ物を減らそうとしてる。
あんまり一社が儲かりすぎると「独占じゃないの?」って別の視線も向けられる。王冠は、かぶってみると意外と重いのよ。
だからあたしたちにできるのは、王様一人に全財産を賭けないこと。「今いちばん強い会社」に一点集中したくなる気持ちはわかるけど、強さのピークって、外から見えたときには過ぎてることも多いの。いろんな会社に少しずつ分けて持っておく。
それが、王様が代替わりしても慌てないための、いちばん地味で確実な備えよ。
今日のまとめ
- NVIDIAの決算は売上が前年比2倍以上。次の年も約7割増の見込み(市場予想の4割台を大きく上回る強気)
- 株価が一日で約4420億ドル(60兆円超)増。企業史上2番目に大きい一日の増え幅
- アルファベットは「同じ日」ではなく、5月の最高値から約3カ月かけて約6920億ドル(100兆円規模)を失った
- 明暗の差は立ち位置。NVIDIAは全員に道具を売る「王様」、アルファベットは自分で賭ける「プレイヤー」
- Hugging Face買収(約129億ドル)は報道段階でまだ正式発表前。ただし成立すれば「広場」まで王様の領土に
- 王様にも弱点はある。メモリ価格の上昇、家臣たちの独自チップ開発、独占への視線。王冠は重い
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
家臣たちはAIの覇権を争う。王様は、その横で請求書を出す。
In a gold rush, the one selling shovels wears the crown.
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※本記事はブルームバーグ、ロイター、CNBC、The Information、Business Insider、および米NVIDIAの公開情報をもとに構成しています。


