昨日のアメリカ、こういう日だったの。
朝、卸売物価(PPI)という指標が出た。「予想どおり」だった。普通なら、予想どおりは”安心”のはずでしょう。テストで狙いどおりの点を取った、みたいなものだもの。
なのに、株は下がった。しかも4日連続。S&P500は3月以来いちばん長い連敗よ。
「予想どおりなのに、なんで下がるの?」——今日はこの、ちょっと理不尽に見える一日を、ほどいていくわね。犯人は、実は物価の数字じゃなかったの。
まず、PPIって何だったか5秒で
PPIは「卸売物価指数」。あたしたちが買う前の、企業と企業のあいだの値段よ。工場やメーカーが、モノを出荷するときの値札。
PPIは、企業側でどんな物価圧力が起きているかを見る「インフレの予告編のひとつ」。予告編が不穏だからといって、本編(=今日出るCPI)も同じとは限らない。PPIとCPIは対象も計算の重みも違うから、そのまま全部が店頭価格に乗るわけじゃないの。でも「企業側でこれだけ値段が動いてるなら、CPIは大丈夫?」と、市場が身構える材料にはなる。
数字そのものは、まあまあお行儀よかった……けど
8月のPPIは、前月比+0.4%。これは市場予想と、ほぼ一致。「はい、想定内ね」で終われそうな数字だった。
ただし、食品・エネルギー・貿易サービスを除いた指標も+0.3%。つまり「エネルギーだけが暴れて、ほかは完全に静かでした」とまでは言えないの。
見出しは「予想どおり」。中身を開けると、「まあ座って。話しはまだあるの」だったのよ。前年比では+5.4%。FRB(米中央銀行)が重視するインフレ率も2%目標を上回るなか、PPIも前年比で5%台。まだ「インフレ、落ち着きました」と言える景色じゃない。
モノの値段を押し上げた主役は、エネルギー
今回、特に暴れたのが「モノ」の値段。最終需要財は前月比+1.1%で、その上昇の4分の3超を、エネルギーが占めたの。エネルギー価格だけで+4.2%。
なかでも目立ったのが、ディーゼル(軽油)。1か月で+24.1%。……24.1%よ。ディーゼルだけ、インフレ会議に火炎放射器を持ってきたの。「今日は穏やかに話し合いましょう」——ディーゼル「無理です」。
しかもディーゼルは、トラック、農業、物流、製造業まで、広く使われる燃料。だから単なる「ガソリン高いわね」で終わらず、輸送コストを通じて、あとから他のモノの値段にも波及していく可能性がある。サービスの値段はほぼ横ばい(+0.1%)だったから、今回は完全に「エネルギーとモノ」の話。犯人の顔が、はっきりしてるのよ。
で、本当の主役はこっち。原油が100ドルを超えた
ここが、昨日いちばん市場を揺らした一撃。
アメリカの原油(WTI)が、1バレル100ドルを突破。終値102.48ドルで、前日比+6.7%。国際指標のBrentも107.63ドル。どちらも5月以来の高値よ。
PPI「エネルギー価格、上がってます」→原油「了解。では100ドル、超えておきます」→市場「誰が追い焚き頼んだ。」
背景は、2月末に始まった米・イラン戦争。もう半年を超えて、収まる気配がない。戦争が長引く→原油の供給不安→値段が上がる、というルート。しかもPPIが「エネルギーで物価が上がってます」と言った、まさにその日に、原油がさらに燃え上がった。最悪の合わせ技なの。
つまり市場にとって昨日の問題は、バックミラーに映った「予想どおりのPPI」より、フロントガラスの向こうに見えた「100ドル原油」のほうだったってわけ。
だから、株は「4日連続」で下がった
昨日の米国株は、主要3指数そろって4日続落。
- S&P500:7,591.70(-0.58%)
- ダウ:-316.56ドル(-0.60%)
- ナスダック:-0.65%
そして、いちばん怖いのは株そのものより、その裏で動いた金利。米10年債の利回りが、一時4.95%近辺まで上昇。2023年以来の高水準よ。
10年債で、ほぼ5%。株「成長します!夢があります!AIです!」→債券「……5%です」→投資家「ちょっとそっち、詳しく聞こうか」→株「待って。」
金利が上がると、なぜ株が嫌がるか。ざっくり言うと、「わざわざリスクのある株を持たなくても、そこそこ安全な債券でこれだけ利息がもらえるなら、そっちでよくない?」ってお金が動くから。おまけに金利上昇は、借金で回してる企業のコストも重くする。だから金利がぐっと上がった日は、株が青い顔になりやすいの。
そして「利上げするかも」の確率が、一時70%に跳ねた
ここが、日本のあたしたちにも効いてくるところ。
来週9月16日に、FRBの金利を決める会合(FOMC)がある。昨日のPPIと原油高で、市場が織り込む「利上げ」の確率が、PPI発表後には一時約70%まで跳ね上がったの(発表前は62%)。利下げじゃなくて、利上げよ。物価がしつこいと、中央銀行は「冷やすために金利を上げる」方向に傾くから。
ただし、ここは冷静に。市場は「利上げ」に傾いてるけど、ロイターの調査では、エコノミストの大勢は「据え置き」を予想してる。同じアメリカ経済を見てるのに——市場「上げる!」、エコノミスト「据え置く!」、FRB「……明日のCPI見てから話していい?」。
金融市場、家族会議みたいになってきたの。どっちが当たるかは、まだ分からない。断定しないでおくわね。
円の話し。ここ、ちょっと意外な動きなの
為替は、この金利の話しに、素直に反応した——と思いきや、円はむしろ逆を行ってるの。
普通、アメリカの金利が上がれば、ドルで持ってたほうが利息がおいしいから、ドル高・円安になりやすい。でも最近の円は、159円台から154円近辺まで、円高方向に動いてる。2月以来の強さよ。
なぜ? 背景にあるのが、日銀の追加利上げ観測。9月18日の日銀会合で25bpの利上げが、ほぼ織り込まれてるの。加えて、7月末の日米協調介入(円を買い支えた一件)以降の、円買いの流れ。つまり今のドル円は、「アメリカの金利が高いからドル買い」だけじゃ説明できない。アメリカ「金利上げるかも」、日本「こっちも上げるかも」、原油「100ドル超えました」——為替市場「一人ずつ喋って。」って状態なの。
ただし、円が少し戻したからといって、油断は禁物。日本にとって、原油100ドル超えが痛いこと自体は変わらないから。輸入するエネルギーそのものが急騰すれば、ガソリン、電気、物流コストへの圧力は、しっかり残る。円高で少し和らぐぶんと、原油高で重くなるぶん。この綱引きの結果が、あたしたちの請求書に出てくるのよ。
日本のあたしたちへ
今日いちばん持って帰ってほしいのは、これ。「予想どおり」でも、市場は下がることがある、ということ。
数字が予想と一致するかどうかは、あくまで”答え合わせ”。でも市場が本当に見てるのは、その先の物語なの。昨日でいえば、「PPIは予想どおり。でも原油が100ドル超えた。じゃあ次のインフレ、もっと上がるんじゃない?」という、未来への不安。答え合わせが○でも、その先の空模様が悪ければ、株は下がる。
ニュースの見出しが「予想どおり」でも、鵜呑みにせず中身を開ける——これが、振り回されないコツ。
もうひとつ。今日この記事が出ているまさに今日、アメリカでCPI(消費者物価指数)が発表されるの。昨日のPPIが予告編なら、今夜21:30(日本時間)が本編上映。しかも観客席には、FRBが座ってる。ポップコーン食べてる場合じゃないのよ。
CPIは、来週のFOMCの前の、最後の大きなインフレ指標。ここが熱ければ「利上げ」観測がさらに強まって、株安が加速しかねない。逆に冷えていれば、市場はほっと一息つく。
今日から来週にかけては、あなたの新NISAの中身も、財布の中のガソリン代も、同じ一本の糸——「アメリカの物価と金利、そして原油」——で繋がってる、そういう数日なの。
慌てて何かを売り買いする日、ではないわ。ただ、今夜のCPIと来週のFOMC、この2つだけ頭の隅に置いておく。それだけで、次にニュースが騒いだとき、あなたは「あ、これ知ってる」って、落ち着いていられるから。
今日のまとめ
- 8月の米PPI(卸売物価)は前月比+0.4%で予想どおり。ただし食品・エネルギー・貿易サービスを除く指標も+0.3%、前年比は+5.4%で、上昇の中身は「モノとエネルギー」に集中。最終需要財の上昇の4分の3超がエネルギー(+4.2%)、特にディーゼルが一か月で+24.1%
- 本当の主役はPPIより原油。米WTIが100ドル突破、終値102.48ドル(+6.7%)、Brentも107.63ドルと5月以来の高値。2月末に始まった米・イラン戦争が半年超で供給不安が続く
- 米国株は主要3指数そろって4日続落(S&P500 -0.58%、3月以来最長の連敗)。裏で米10年債利回りが一時4.95%近辺と2023年以来の高水準
- 来週9/16のFOMCへ、市場が織り込む利上げ確率はPPI発表後に一時約70%へ上昇(発表前62%)。ただしロイター調査のエコノミストは大勢が据え置き予想で、見方は割れている
- 円は最近の159円台から154円近辺まで円高方向へ。日銀の9/18利上げ観測(25bpほぼ織り込み)や7月末の協調介入以降の円買いが支え。ただし原油そのものが100ドルを超えているため、日本の輸入物価への圧力は依然として要注意
- 教訓:「予想どおり」でも株は下がる。市場が見てるのは答え合わせより”その先の物語”。そして本編CPIは今日発表、FOMC前最後の大勢判断
世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。
The number behaved. Oil didn’t.
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※本記事はU.S. Bureau of Labor Statistics、CNBC、Reuters、Charles Schwab、TheStreet、MUFG、Trading Economics等の公開情報をもとに構成しています。物価・原油・金利・為替の数値は報道時点のものであり、時間帯により変動します。利上げ確率は市場が織り込む見通しであって確定ではありません。投資判断はご自身の責任で。


