数字は元気、人はどん底|米消費者信頼感指数48.0、過去2番目の低さ。日本の家計にも迫る格差

夕暮れのアメリカ郊外の道路沿いに大きなガソリン価格の看板が明るく光り、給油機の前には古いセダンが一台だけ静かに止まり、遠くの丘の上には灯りのともる金融街の高層ビル群が華やかにそびえる。消費者心理の悪化と体感景気の格差を描いた映画的な絵画 経済

健康診断の結果がオールAなのに、なぜか毎朝だるい。そんな経験、ない?

お医者さんは「数値は全部正常ですよ」と言う。でも、本人の体はちっとも元気じゃない。検査の数字と、毎日の実感がずれているのよね。

いまのアメリカ経済が、まさにこの状態。

失業保険を申請する人は少ない。株価も、今週こそAI株が売られて足踏みしたけれど、今年に入ってからはまだ1割ほど上にいる。経済の健康診断の数字は、そこそこ元気に見える。なのに、アメリカ人の気分は、統計の歴史でもワーストクラスまで落ち込んでいる。

もっとも、健康診断だって、血圧とコレステロールだけで全身の健康がわかるわけじゃない。経済も同じ。都合のいい数字だけ並べたら、どんな病人だって健康優良児になれるのよ。

何が起きたの?

10月23日、ミシガン大学が10月の消費者信頼感指数の確報を発表した。結果は48.0。

この指数は、アメリカの人たちに「暮らしはどう?」「これから景気はよくなりそう?」と聞いて、気分を数字にしたもの。1952年から続く、歴史の長い調査よ。

48.0という数字は、記録が残るなかで過去2番目の低さ。一番低かったのは、今年5月の44.8。つまり、2026年のアメリカ人は、70年以上の調査の歴史で一番落ち込んだ年を過ごしているの。

10月9日の速報では46.3だったから、確報では少し持ち直した。でも、9月の48.1とほぼ同じで、過去2番目の低さという不名誉な席からは立ち上がれなかった。熱が39度から38.8度に下がっても、寝込んでいることに変わりはないのよ。

数字が低すぎて、もはや指数というより、国民のため息を集計した結果ね。

面白いのは、中身。速報の段階で、「これから先の景気」への期待は少し持ち直していた。ところが、「いまの景気」への評価は、過去最低まで落ち込んだ。確報でも、9月から大きく悪化したままよ。

未来にはまだ希望がある。でも、今日のレシートには絶望しかない。アメリカ人、明日の自分には期待しているけど、今日の暮らしにはもうウンザリなのよ。

物価への不安も強いわ。人々が予想する1年先のインフレ率は4.7%、5〜10年先は3.5%に上がった。「これから先も、物は高くなり続ける」と思っている人が多いの。インフレって、未来の財布にまで先回りして請求書を送ってくるのね。

「クビにならない」は「雇用が強い」じゃない

一方で、同じ週に出た雇用の数字は、一見まったく違う顔をしていた。

仕事を失って失業保険を新しく申請した人は、1週間で19.4万人。7月以来の少なさよ。

ただし、ここには落とし穴が二つある。

一つ目。申請が少ないからといって、リストラが起きていないわけじゃない。同じ10月23日には、アメリカン・エキスプレスが従業員の約5%を減らす計画を明らかにしている。大企業がリストラを発表しても、実際に人が会社を去るのはもう少し先。失業保険の申請件数は、リストラのニュースから少し遅れて動く数字なのよ。

二つ目。クビになる人が少ないことと、雇用が強いことは、同じじゃないの。

いまのアメリカは、会社が人を減らさない代わりに、新しく雇うことにも慎重な状態だと報じられている。クビになる人は少ない。でも、新しく雇われる人も少ない。誰も出ていかないし、誰も入ってこない会社。雇用が安定しているというより、人事部が全員フリーズしているような状態なのよ。

クビにはならない。でも転職先もない。音楽が止まったまま、誰も動けない椅子取りゲームね。

いまの職場にしがみつくしかない人が、明るい気分になれるわけがない。

犯人は、毎日目にする値段

気分を下げている理由は一つじゃない。物価の高さ、金利の高さ、給料の伸びが追いつかないこと。いろいろな要因が重なっている。

その中でも一番わかりやすいのが、ガソリンよ。米メディアのBenzingaによると、イランとの戦争が始まる前の2月、アメリカのガソリンは1ガロン平均2.93ドルくらいだった。それが10月上旬には4.37ドル。約1.5倍よ。

ガソリンの値段は、ガソリンスタンドの大きな看板に毎日でかでかと出ている。車社会のアメリカでは、ほとんどの人が週に一度はその看板を見る。

失業保険の申請件数は、ニュースで流れる数字。ガソリン代は、毎週自分の財布から出ていく数字。どっちが気分を決めるかなんて、聞くまでもないわよね。

しかも人間は、得した喜びより、損した痛みを強く感じやすい。行動経済学でいう「損失回避」というやつ。株で少し資産が増えても、ガソリン代が毎週上がると、そっちのほうに腹が立つ。

ガソリンスタンドの看板は、頼んでもいないのに、家計への嫌がらせ通知を24時間営業で配信しているのよ。

特に悲惨なのが、車や家電のような大きな買い物への意欲。10月の速報では、大きな買い物をするのに向いているかどうかの評価が過去最低まで落ちた。高い金利に、高い値札。買う前から請求書に殴られるような状況で、「よし、買い替えよう!」なんて気分になるわけがない。

調査を担当するミシガン大学のジョアン・スーは、10月の速報の段階で、人々の見通しを「スタグフレーション的」と表現していた。スタグフレーションは、景気が冷えるのに、物価だけは上がり続ける状態のこと。家計にとっては、一番うれしくない組み合わせよ。

株を持つ人と、持たない人。2つのアメリカ

この調査で、一番ゾッとするのはここから。

ミシガン大学は10月の速報で、所得の低い人や、株をあまり持っていない人ほど、気分が大きく悪化していると説明している。Benzingaの集計では、1月からの気分の落ち込みは、株を持っていない人で約25%。一方、株をたくさん持っている人たちは約7%だった。

この調査が行われた10月上旬まで、アメリカの株価は最高値の近くにいた。S&P500は、10月中旬の時点で年初から約14%上がっていた。

もちろん、株をたくさん持つ人は、そもそも所得が高かったり、年齢が上だったり、ほかの違いもある。だから「株価が高いから気分がいい」とまでは言い切れない。でも、同じ物価高を前にしても、経済の見え方がまるで違うのは確かよ。

片方は証券口座を開いてニッコリ。もう片方はスーパーのレシートを見て無言。

同じアメリカに住んでいるのに、片方は資産形成ゲーム、もう片方は生活防衛サバイバル。難易度設定が違いすぎるのよ。

ウォール街はシャンパン、メインストリートは水道水。しかも水道代まで上がる。

これをまとめて「アメリカ経済は好調です」と言われてもね。平均気温が20度だからって、冷凍庫の中の人まで快適なわけじゃないのよ。

日本のあたしたちへ

日本も「オールAなのに、だるい」

アメリカの話しだと思って読んでいた人、ちょっと待って。日本も、実は同じ症状が出ているの。

厚生労働省の速報によると、8月の実質賃金は前年より1.5%増えた。物価の上昇を差し引いても、給料が増えている状態よ。しかも8か月連続のプラスで、約10年ぶりのこと。

給料は増えました。おめでとうございます。なお、生活費も一緒に昇給しております。

実際、内閣府の消費者態度指数は、9月が35.4。前の月から0.1ポイント下がり、まったく晴れていない。

なぜか。物価の上がり方がゆるやかになることと、値段が元に戻ることは違うからよ。

去年100円だったものが110円になり、今年112円になったとする。値上がりのスピードは落ちた。でも、100円には戻っていない。

政府は「値上がりが落ち着きました」と胸を張る。消費者は「で、いつ100円に戻るの?」と聞く。両者の会話は、今日も美しくすれ違っているのよ。

日本にも「2つの日本」は生まれる

アメリカで起きている「株を持つ人と持たない人の気分の格差」は、日本でも起こりうる。

投資をする人は増えたけれど、まったくしていない人もたくさんいる。株や投資信託を持つ人は、資産が増えることで値上がりの痛みを少しやわらげられる。持っていない人は、値上がりをそのまま受け止めるしかない。

その差は、単純に能力や努力の差ではない。投資に回せる余裕があったか。生活費を払ったあとに、お金が残っていたか。そこからすでに違うのよ。

「投資しないから貧しい」なんて言うのは簡単。でも、毎月の生活費で精いっぱいの人に「余剰資金を運用しましょう」と勧める、泳げない人にプール付きの豪邸を勧めるようなもの。まず、そのプールを買うお金がないのよ。

新NISAは、誰にでも開かれている。でも、入場無料と、買い物するお金があるかは別問題なの。

それに、株というクッションは、ときどき空気が抜ける。今週AI株が売られたようにね。だから、無理をして投資に回す必要はない。ただ、少しでも余裕が出たときに、何もしないことも一つの選択だということは、覚えておきたいわ。

自分の「体感景気」を、数字で点検する

あたしたちにできるのは、自分の気分と、自分の数字を分けて見ること。

ここ1年で何が一番値上がりしたのか。食費なのか、電気代なのか。そして、収入はどれくらい増えたのか。一度書き出してみると、なんとなくの不安が意外と大丈夫だったとわかることもあるし、本当に手を打つべき場所が見えることもある。

気分は大事なサイン。でも、気分だけでお金のことを決めると、節約しすぎたり、焦って大きな決断をしたりしがちよ。

経済ニュースは、他人の健康診断。自分の家計簿こそ、あたしのカルテなのよ。

今日のまとめ

  • 米国の10月の消費者信頼感指数は48.0。速報からは持ち直したものの、記録が残るなかで過去2番目の低さで、「いまの暮らし」への評価が特に悪い
  • 失業保険の申請は少ないが、アメックスのような大手のリストラ発表は続き、新しく雇われる人も少ない。数字の元気さと、働く人の安心感は別物
  • 気分を下げているのは、戦争前の約1.5倍になったガソリン代や、高い金利と値札。毎日目にする値段のほうが、統計より強く気分を決める
  • 株を持たない人ほど気分が大きく落ちていて、同じ国の中に「2つのアメリカ」が生まれている。日本も実質賃金はプラスなのに気分は晴れず、余裕のあるなしで体感景気が割れる未来は他人事じゃない

株価が上がっても、あたしのスーパーのレシートは安くならない。実質賃金がプラスでも、あたしの銀行口座が勝手に潤うわけじゃない。ウォール街の景気より、あたしの財布の機嫌。世界経済の健康診断を眺める前に、まずは自分の家計の血圧を測りましょ。

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

The economy can be fine on paper and still feel like a hangover at the pump.


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※本記事は、ミシガン大学の消費者調査(10月確報・速報)、TheStreet、Benzinga、ヤフーファイナンス、AP通信、厚生労働省の毎月勤労統計(8月速報)、内閣府の消費者態度指数の報道・公表データをもとに構成しています。「いまの景気」の評価、大きな買い物への意欲、株の保有状況による気分の違い、ガソリン価格は、10月9日発表の速報時点の数字です。S&P500の年初来の上昇率は10月13日時点のものです。情報は2026年10月24日時点のものです。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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