AIが盛った経歴をAIが審査する|採用が一周回って「人間」に戻った話し

AIで磨いた経歴をAIが審査する採用の皮肉な循環を象徴する、2台のロボットの手が1枚の完璧な履歴書を挟んで握手を交わし、その傍らで生身の人間が所在なげに立ち尽くしている様子を描いた、チャコールとマスタード基調のシネマティックで絵画的なデジタルイラスト テック

軍拡競争って、いつも同じ結末を迎えるのよね。

こっちが強い武器を持つ。すると相手も、もっと強い武器を持つ。こっちがさらに上を行く。相手もついてくる。気づいたら、お互い最初よりずっと強くなってるのに、力関係は元のまま。

増えたのは、費用と疲労だけ。

今、就職・転職の世界で、まさにこの軍拡競争が起きてるの。しかも武器はAI。求職者側では、AIで職務経歴がどんどん洗練される。企業側では、AIで選考がどんどん自動化される。両者が全力で武装した結果、たどり着いた場所が、ちょっと笑えるの。

今日はその話しをするわね。

まず、求職者側の話しから

きっかけは、スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授らが出した、面白い研究なの。

LinkedIn(リンクトイン)っていう、職歴を載せる世界最大のビジネス版SNSがあるでしょ。そこを調べたら、アメリカの古参ユーザーの約20%が、すでに辞めた仕事の「肩書き」や「仕事内容の説明」を、後からこっそり書き換えてたの。テック業界だと、特に多い。

面白いのが、書き換えるタイミング。記憶が新しいうちに直すんじゃないの。書き換えの多くは、その仕事を辞めてから約4年も経ってから行われてた。研究者はこれを「タイムトラベル(時間旅行)」って名付けたわ。過去の自分の経歴を、今の自分に都合よく、後から演出し直す。まるでタイムマシンで過去に戻って、履歴書を書き換えてるみたいだから。

もちろん、履歴書を少しよく見せるのは、今に始まったことじゃない。人類は昔から、自分の経歴にはちょっといい照明を当ててきた。

ただ、AI時代になって面白い変化が起きたの。研究では、ChatGPTが登場したあと、昔の職歴に「AI」や「GPT」といった言葉を後から足す動きが急増してた。中には、ずっと昔に辞めた仕事にまで、AI関連の言葉が追加されてるケースもあるの。

もちろん、これだけで「嘘の経歴を作った」とは言えないわ。昔やってた仕事を、今の採用市場で伝わる言葉に翻訳し直してるだけかもしれない。でもね、過去そのものは変わってないのに、過去の”見せ方”だけは、時代に合わせてアップデートされる。

LinkedInの職歴欄、もはや履歴書というより「リマスター版」よ。

次に企業側の話し

さあ、今度は選ぶ側。企業でも、別方向からAI武装が進んでるの。

理由は単純。応募者が多すぎるのよ。人間が何百枚も履歴書を読んで、何十人と一次面接してたら、それだけで採用担当者の一日が溶けちゃう。だから企業は、履歴書のふるい分け、候補者探し、応募者とのやり取り、そしてついに一次面接まで、AIに任せ始めたの。

LinkedInは今、AIに「一次面接」をやらせる機能を展開し始めてる。採用担当者は、ひとつの求人につき最大40人の応募者へ、AI面接を送れるの。応募者は音声、場合によっては動画で、AIの質問に答える。その回答をAIが分析して、評価まで付けて、採用担当者に返すのよ。

つまり、こういう流れが完成したってこと。AIが整えた応募書類を、AIが読み、AIが質問し、AIが回答を評価する。そして最後に人間が画面を開いて、「なるほど」って見る。

Human Resources(人事)の”Human”、だいぶ後ろに追いやられたわね。実際、アメリカでは半分くらいの会社が、採用のどこかでAIを使ってるっていう調査もあるわ(2025年のSHRM調べで51%)。応募する側もAI、選ぶ側もAI。人間同士が一緒に働く相手を探してるはずなのに、入口では、機械同士がお見合いしてるの。

軍拡競争の、いつものオチ

さて。求職者はAIで書類を磨き、企業はAIで選考する。この、別々の理由で始まったAI化が、上空から眺めると、見事な軍拡競争になってるのよ。で、軍拡競争には、いつものオチがあるの。

ここで妙なことが起きる。

AIを使えば、誤字のない履歴書も、求人票にぴったり合わせた職歴説明も、立派な志望動機も、かなり簡単に作れる。すると「文章がうまい履歴書」というもの自体が、だんだん珍しくなくなるの。

昔なら「お、この人の履歴書、よくできてる」だったのが、今は「はいはい、あなたも完璧ね。次も完璧。はい、その次も完璧」になる。高級バッグも、全員が持ったら制服よ。

これが軍拡競争のオチ。全員が同じ高性能AIで武装したら、その武器では差がつかなくなるの。応募者側がどれだけAIで書類を磨いても、みんなやってるから、「文章の綺麗さ」はもう決め手にならない。

労力だけ増えて、相対的な位置は元のまま。まさに、軍拡競争そのものよね。

そして、採用は一周回って「人間」に戻り始めた

ここからが、今日いちばん面白いところ。

書類の出来だけじゃ差がつかなくなった採用の現場は、どうし始めたと思う?最先端をもっと突き進んだ?——逆なの。一部では、昔ながらのアナログな方法が、また見直され始めてるのよ。

ひとつは、実技テスト。「経歴の説明はもういいから、実際にこの作業、やってみせて」。紙の上でどれだけキラキラしてても、目の前で手を動かせるかどうかは、盛れないでしょ。もうひとつは、紹介(リファラル)。「信頼できる社員が”この人いいよ”って言う人を採ろう」。知り合いの推薦っていう、いちばん古くて、いちばんアナログな方法ね。あとは、電話で直接ちょっと話してみる、とか。

念のため言っておくと、世界中の企業が一斉に「AIやめて実技に戻った!」ってわけじゃないの。あくまで一部の採用現場で、こういう「本人を直接確かめられる方法」の価値が、また上がってきてる、という話し。でも、この揺り戻しは象徴的よね。

技術がどれだけ進んでも、最後に採用する側が知りたいのは「この人、本当に信頼できる?本当にできる?」という、とても人間くさい問い。その問いには、AIが作った完璧な書類じゃ答えられない。だから人は、テストや、信頼できる人の言葉に戻ってくる。ハイテクの果てに待ってたのが、握手と実演という、いちばんローテクな答えだったなんて、皮肉が効いてるでしょ。

日本のあたしたちへ

これ、日本で転職する人にも、かなり重要な話しなの。

AI時代に価値が下がるのは、「能力」じゃないの。「能力があるように見せるコスト」なのよ。

昔は、きれいな履歴書を書くにも、うまい志望動機を作るにも、それなりに文章力と時間が必要だった。その手間自体が、ほんの少しだけ、その人の能力の証明になってた。でもAIなら、それが30秒で作れる。つまり、誰でも作れるものは、だんだん価値が下がる。経済の基本よね。供給が増えたら、値段は下がる。

だから、これから逆に価値が上がるのは、AIで大量生産できないもの。実際にやった仕事。数字で説明できる成果。その場で解ける問題。そして「あの人なら大丈夫」って言ってくれる人。履歴書の文章はコピーできても、10年かけて積み上げた信用までは、Ctrl+Cできないの。

だからAI時代の転職で磨くべきなのは、「どう見せるか」だけじゃない。「何を証明できるか」なの。ここが、たぶん一番大きく変わるところ。AIがみんなを上手に喋らせてくれる時代ほど、最後に値段がつくのは、喋ったことをちゃんと証明できる人なのよ。

機械がどれだけ賢くなっても、最後にあなたを選ぶ決め手は、意外と昔から変わらない。「この人となら、一緒に働きたい」。そのシンプルな判断だけは、AIには盛れないんだから。

今日のまとめ

  • スタンフォード大のニコラス・ブルーム氏らの研究で、米LinkedIn古参ユーザーの19.7%が、辞めた仕事の肩書きや説明を後から変更と判明。典型的な編集は退職から約4年後で、研究者はこれを「タイムトラベル」と命名
  • ChatGPT登場後は、過去の職歴にAI関連の言葉を足す動きも急増。ただし、こうした編集すべてが経歴詐称というわけではない
  • 企業側でも採用のAI化が進行。LinkedInでは最大40人にAIが音声・動画のスクリーニング面接を行える機能が登場
  • AIで応募書類を磨くのが簡単になるほど、「文章がきれい」というだけでは候補者の差がつきにくくなる
  • その結果、一部の採用現場では、実技テスト・直接の会話・紹介など「本人の能力や信頼を確かめられる方法」の価値が再び高まっている

世界がどう動こうと、自分の足元だけは整える。それだけ。

AIで採用を未来へ進めたら、最後に残った問いは、昔と同じだった。「で、この人、本当にできるの?」

When everyone can manufacture the perfect résumé, proof becomes the luxury.


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※本記事は、スタンフォード大学らによるNBER論文「Time Travel on Professional Profiles」、LinkedIn公式ヘルプ(AI面接機能)、SHRMの採用AI調査(2025年)、およびブルームバーグ(Beth Kowitt氏のオピニオンほか)の公開情報をもとに構成しています。

この記事を書いた人

40代、元外資テック・米銀行、米国生活経験あり。
東京で愛犬と暮らす観察者。
「経済的自立」がモットー。

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